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2009年6月 8日 (月)

空白のミロンガ

亡き犬に捧ぐ




  空白のミロンガ


おまえのお墓のうえ
名も知らぬ小さな羽虫が
名も知らぬ草の葉に静かにとまり
ゆるやかな午後の日射しが
なにも言わず通り過ぎてゆく






  空白のミロンガ


日も暮れて
遠くの灯りがまばたきを始める頃
かぼそいピアノの音が
やさしく反復しながら
わたしの肩先に寄り添って
おなじ景色を眺めている

部屋が次第に
うすやみにくらくなってゆき
要らない言葉はうしなわれ
あおじろい海底のような
この世の者には見えない意識の
ひとつひとつが
つぎつぎに心のなかに
沈んでいくように見える

おまえが死んだあと
そのたましいは
いったいどこに行ったのだろう






  空白のミロンガ


死ぬ間際にはもはや 枯れ葉のように軽くなってしまったおまえのからだ
持ち上げるたびにその軽さが胸に迫るわたしの顔を
おまえはいつものようにペロペロなめた
それが習慣だからだったのかもしれないが
生きているだけでつらくて仕方がなかっただろうに
おまえは どうしてそこまでやらなければいけなかったのか

わたしたちにそうして最後まで愛想をふりまくことだけが
おまえがこの世に生まれてきた意味だったのだろうか

いや
おまえはそうしたくてそうしていたに過ぎないんだろう

わたしたちには
おまえと一緒にいたという時間だけが
宝のように残された それだけなのだ

それだけで なんと偉大なのだろう

おまえを最後に抱いたときの重さを
だからわたしは けっして忘れることはないだろう






  

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