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2010年1月17日 (日)

「MASTER TAPE-荒井由実"ひこうき雲"の秘密を探る」 モヤモヤ感の正体

 NHKBS2 「MASTER TAPE-荒井由実"ひこうき雲"の秘密を探る」 という番組を見た。

 ユーミンのデビューアルバム 「ひこうき雲」 の、37年前の現存するマスターテープを、当時レコーディングに参加した人たちが聴き、語り合う、ということが主な趣旨の番組だったが、まずそのこと自体が驚きで、その証言が貴重なものばかりであることは、論を待たない。
 集まった主なメンバーは、ディレクターの有賀恒夫サン、エンジニアの吉沢典夫サン、ベースの細野晴臣サン、ドラムスの林立夫サン、キーボードの松任谷正隆サン、そして、ユーミン。
 ただひとりギターの鈴木茂サンだけは、おそらく去年(2009年)の事件の絡みなのだろう、出演はかなわなかったようだ。 これだけはいかにも残念。

 番組のコンセプトの源流には、ビートルズの 「アンソロジー」 プロジェクト(1995年ごろ?)があるものと思われる。
 「アンソロジー」 DVDのボーナスディスクで、当時のスリービートルズとジョージ・マーティンがマスター・テープを聴きながら、トラックごとの音を抜き出したりして語らい合っている。 構造的には全くそれと同じだった。

 リアルタイムでこの 「ひこうき雲」 を聴いていた私などの世代にとっては、この番組において、ティン・パン・アレー(キャラメル・ママ)のメンバーがこうして集まっていること自体が、実に驚異。 めまいさえ覚える。

 ちょっと個人的な話をさせてもらいたい。
 このころのユーミンは、いちばん神がかっていたと、個人的には思っている。
 当時私は小学3年だか4年だかだったのだが、レコードを持っていたわけでもないのに、なぜかこのユーミンの歌が頻繁に聞こえていた気がする。 たぶん私の叔父や叔母がレコードかカセットを所有していたのだろうが、ユーミンのデビュー曲 「返事はいらない」 も、ちっとも売れなかったとか言うわりに、当時から知っていたような気がするのだ。 この原因は、未だに分からない。

 そのせいなのだが、ユーミンの 「曇り空」 や 「ベルベット・イースター」 を聴くと決まって、私は少年時代の冬曇りの天気の日を強烈に思い出す。 不意にこの曲を聴くと、涙が止まらなくなる。
 当時のユーミンの歌には、曇りとか雨とかで外に出られない寒い日、というイメージが、私の中にはつきまとい続けているのだ。 その思い入れから勝手に、「このころのユーミンは最強」 と思っているのかもしれないが。

 今回のこの番組で、このころのユーミンの 「曇り、雨」 感覚を、具体的に証明ができた気がする。
 「ベルベット・イースター」 を聴いて出てきた話が、それを裏付けてくれた。

 細野サン 「このミックスは、この曲だけイギリスっぽいけど吉田サンそうなの?」
 吉田サン 「いやホントそうね、そういうイメージする」
 ユーミン 「曲も」
 吉田サン 「それっぽいんだね、きっとね」
 細野サン 「なんかコンプ感とかが…でもやっぱり、曲のせいかね」
 ユーミン 「だけどあのー、スカスカ感がどの曲もだけど、それぞれニュアンスがあるから。 雨だの霧だのの歌ばっかりじゃない、このアルバムって。 だけどこう、モアレ感があるでしょ」
 正隆サン 「オレが、モヤモヤ担当だったよ(笑)どれ聴いても、オレのプレイってモヤモヤしたものしかないもん」

 そして、「ベルベット・イースター」 のキーボード部分だけを抜き出して試聴。
 そうすると、松任谷正隆サンのキーボードプレイは、茫洋とした前衛音楽風な鍵盤の指遣いで、いかにも雨が降っているような感じなのだ。 これなんだ、私が感じていたウェット感の正体は。 しかも、音の質感がイギリスっぽい、という細野サンの指摘も、曲の湿り気を証明している気がする。 キャラメル・ママがカラッとしたアメリカンミュージック寄りな姿勢を示していたのに、しっかりユーミンが指向していたブリティッシュロックの湿気をまとっていた、というこの番組の論理は、ちょっとした驚きだ。

 アルファレコードの新しいスタジオで当時の楽器のセッティングを再現し、そこでユーミンがおもむろに弾き出した曲も、「ベルベット・イースター」。
 なんだかこれを見ていて、個人的な思い出が次から次からよみがえって、涙が出てきてしまう。 ユーミンも途中からヴォーカルを入れるのだが、いきなりだったせいか、まったくのしわがれ声で。 それがまるで感極まっているように見えた。 きっと私だけの思い入れのせいなのだろうが。

 「これミックスし直そう」(正隆サン)「この番組をきっかけに純粋キャラメル・ママ・コンサートをしましょうよ」(ユーミン)という言葉までポンポン飛び出す。 番組自体が、ミュージシャンたちにとっても、とても刺激的なことを裏付ける一瞬だ。

 その最も刺激的に思えた試みは、「きっと言える」 の、ユーミンのヴォーカルと細野サンのガット・ギター、西条孝之介サンのサックスのみを抜きとったヴァージョン。
 これだけで別ヴァージョンとして発表できるくらいの、完成されたものだったことに、ただただ脱帽。 ここまで来るともう、5.1チャンネルでこのアルバム自体をDVDとして発売して、前のスピーカーの音量を絞るとこのヴァージョンが堪能できるとか、出来るようにすべき!とさえ思った。
 とにかく、すごいの一言。
 演奏する楽器ひとつひとつが、コード弾きだけではない、プロのミュージシャンの仕事をしている、私はユーミンの初期のアルバムを聴いていて、昔からそう感じていたのだが、この番組を見てあらためてそれを確信した。

 「ひこうき雲」 は、私の雨好きな性格の原因のひとつともなっているアルバムなのだが(笑)、なにしろ泣ける曲が多い。 「雨の街を」 もそんな曲。 この曲のヴォーカルがなかなかOKが出なくて、歌うのがいやになっていた時、正隆サンがピアノの上に、ユーミンが好きだと話していたダリアの花を、牛乳ビンに挿しておいていてくれて、それでようやく歌うことができたというエピソード。 すでに職場恋愛になっていたというユーミンの話は、なんだかとても甘酸っぱい匂いがする。

 そのほかにも、雪村いづみサンとの出会いの場面とか、ペダルスティールギターの駒沢裕城サンが37年前の自分のプレイをやりなおしたりとか、実に興味深いシーンの連続だった。 この番組は、この時代のユーミンを聴いた世代にとっては、まさに永久保存版とすべき内容の傑作番組である。

 まるで今とは別人の私がそこにいるんだけれど、パラレルワールドのように、未だにその頃の少女の私が、今もそばにいる気がする――「ひこうき雲」 の中で歌っている自分を、そのように表現した、ユーミン。 私の少年時代の思いも、その少女と一緒にそこにいる気がした。 遠い昔の儚い思い出。 そんな雨の日の日曜日の切なさを、この番組は思い出させてくれた気がする。

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コメント

いい番組でしたね。才能には自然と才能が集まるというお手本のような、夢のようなお話でした。

投稿: Macca管理人 | 2018年11月15日 (木) 16時04分

Macca管理人様
ユーミンへの思いは、管理人様のサイトへコメントさせていただきました。 お心遣い下さり痛み入りますhappy02

投稿: リウ | 2018年11月16日 (金) 12時49分

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