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2010年4月27日 (火)

「おくりびと」 親不孝してる身には、ちょっと堪えました

 TBSで放送した、映画 「おくりびと」。 「おくりびと」 のロゴが画面の右上に陣取ってうるさかったり、エンドマークも出なくて 「え、終わったの?」 って感じで終わっちゃうし、放送の仕方はサイテーでしたけど、映画のほうは、さすがに賞を100個も獲ったというだけあって、珠玉の出来でした。

 楽団員でチェロを弾いていた本木雅弘クンが楽団の解散に遭ってから里帰りし、納棺師という葬儀屋の一種ですか、そこに半ば騙されたようにして、なし崩しに入ってしまい、納棺の解説DVDに無理矢理遺体役で出たり、というところまでは、ちょっとマンガっぽくて、ずいぶん前に同じ本木クンが出ていた映画 「シコふんじゃった。」 みたいなのかなーと思ったんですが。

 ただ、そこから本木クンが社長の山崎努サンについて納棺師の仕事を覚えていくあたりは、とても興味深い出来事の連続で。
 腐食が進んでいる遺体の処理をした後、銭湯で何度も体を洗い、女房役の広末涼子チャンに取りすがって、「生」 の感触を確かめる、というシーンは、とてつもなくリアルでした。 おかげで、ヒロスエが本木クンに犯されるという、結構ショッキングな映像が、さほど気にならなかった(笑)。
 そしてそのヒロスエ、本木クンがひたすら隠していた夫の職業を知り、「触らないで!けがらわしい!」 と拒絶する場面では、普通だったらそういう反応をしてしまうのかな、なんて考えたりもしました。

 広末チャンから本木クンに突き出された問いは、「その仕事を一生に仕事にするだけの覚悟が、あなたにはできているの?」 というもの。 ただその仕事に興味を持ち始めていただけの本木クンにとっては、そんな重大な覚悟など、その時点ではあるはずもなく。

 それでも本木クンには、自分のしている仕事に別にけがらわしさも感じることがなく、人間の 「死」 というものの尊厳さに触れ続けてきた、この納棺師という仕事に対する誇りだけは、生まれつつあるのです。 だから山崎サンに仕事をやめると言いに行った時も、結局は言い出せずに終わってしまう。

 その時山崎サンは、フグの白子を食べながら、「これもご遺体だ」、だけど困ったことに、これがおいしいんだと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。 なんとも説得力のある、変化球ではないですか。

 山崎努サン、と言えば、伊丹十三監督の 「お葬式」 にもお出になってましたね。 あのときは喪主で、今度は納棺師ですが、主題が葬式である映画、という点では、共通しています。

 話はそれますが、それと見ていて気になったのは、この映画にお出になっていた山田辰夫サンや、峰岸徹サンが、すでにお亡くなりになっていること。 たまたまなんでしょうが、ちょっと感慨深いものがありました。 山田辰夫サンは、チンピラ役とか、「傷だらけの天使」 の水谷豊サンみたいな役が、とりわけ多かった気がします。 なんだか心に引っかかる、印象的な脇役をなさっておられました。 峰岸サンは、ホントにしょっちゅうテレビで見ていたような気がします。 結構コミカルなこともこなす人でしたよね。 おふたりとも、この映画では、とても印象的な役をおやりになっていました。

 印象的な役、と言うならば、この映画の大きな特徴は、出演された役者サン全員が、印象的な役をされている。 おそらくそのほとんどの人が、死とかかわった役どころであるがゆえに、印象的にならざるを得ないのです。

 そのなかでも特に涙なしでは見ることができなかったのは、吉行和子サンの息子役だった、杉本哲太サンの演技。
 吉行サンがひとりで切り盛りしている銭湯を建て替えようとしていた杉本サンは、火葬場で母親の焼かれるところを、火葬場の職員で銭湯の常連だった笹野高史サンに頼んで見せてもらうのですが、笹野サンが点火のスイッチを入れた瞬間、「母ちゃん、ゴメン…」 と何度も詫びながら、泣き崩れるんですよ。

 私も、親不孝しているので、このシーンはただひたすら、号泣しました。

 それからは、なんか知らないけど、別に悲しくもないシーンでも、ずっと泣いてましたよ。

 で、本木クンが自分を捨てた父親(峰岸徹サン)の死を知り、最初は拒絶しながらも、結局父親のもとへ向かう。
 そこで本木クンは、自分の父親のおくりびとを買って出るのですが、父親が、何かしっかりと握っている。 それは幼いころに自分が父親にあげた、石文(いしぶみ、自分の思いを込めて渡す石)だったのです。 その時、すっかり忘れたと思っていた父親の顔が、鮮明に記憶の底から浮かび上がってくる。 そして本木クンは、その石を、自分の子供を宿した広末チャンのおなかに、そっとあてるんですよ。

 なんだか、ずーっと、泣きっ放しだったです、私。

 生きている人、死んでゆく人。
 それぞれにみんな、いろんな思いを抱えています。
 そしてとりわけ家族は、お互いに対して、「思い」 どうしで、つながっている。
 「死」 による別れというものは、その家族の 「思い」 を、改めて身をもって感じる、ひとつの契機なのではないでしょうか。

 いい映画でしたー。

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コメント

リウさん、こんばんは。

この映画、昨年母と見に行きました。山崎努さんがいい味を出していた記憶があります。

先週、親戚の葬式がありました。火葬場で、亡くなった叔父さんの長男が、あの点火ボタンを押していました。見ていて辛いものがあります。

モックン、好きな俳優です。

投稿: 弥太郎 | 2010年4月27日 (火) 20時38分

弥太郎様
コメント、ありがとうございます。

そうでしたか。 私は幸いにして、両親とも健在ですが、別れというものは、必ず訪れるものですからね。 自分も40半ばともなれば、もう親との残された時間はそんなにない、と思うと、胸が痛くなります。

私も、他人に点火のボタンを押してもらうよりは、産んでもらった責任として、自分で押すのかも、しれません…。

投稿: リウ | 2010年4月27日 (火) 21時05分

リウさま。こんにちは。

「おくりびと」映画館で観ましたが、TVでもう一度視聴しました。時間の問題でしょうけれど、ちょこちょこカットされていましたので、できれば映画バージョンで見られた方がより深みが増すような気がします。
 本木くんも私の好きな俳優の一人です。チェロにしても納棺師の所作にしても、彼のストイックな部分が現れているのではないでしょうか。
 妻役は広末さんじゃなくても良かったかなぁと思いましたけれど・・・
 私の中では、最初の雪の中を車で走るシーンは結構印象的なシーンになっています。
 全編通して泣くことが多かったですが、ときおり笑いが織り交ぜられていて、感動的な名作だと思います。
 

投稿: rabi | 2010年4月28日 (水) 13時58分

rabi様
コメント、ありがとうございます。

放送時間延長とかしてましたけど、カットされていましたか。 ややこしいことしますねー(笑)。
でも、テレビで見たこの映画、すべてのシーンが緻密に組み合わさっている印象がしましたので、結構重要なシーンも、カットされたんでしょうね。 ということは、感動も8,9割くらいだったかな?(笑)。

広末サンは、「けがらわしい!」 とか、反感買いそうな役でしたからね(笑)。 でも夫の仕事ぶりを見ていくうちに、自分の考えの浅さに気付いていく、という感じでした。

本木クンのチェロの弾きかた、ビブラートの効かせ方とか押さえ方とか、どんだけ練習したんだろ? ただ感心しきりです。 あの雰囲気のある喫茶店あとの住まいでチェロを弾くところは、「セロ弾きのゴーシュ」 を連想したりしました。

日本映画のいいところが、すべて込められていた気がします。

投稿: リウ | 2010年4月28日 (水) 15時22分

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