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2010年5月 9日 (日)

「ゲゲゲの女房」 第6週 人事を尽くして天命を待つ

 「ゲゲゲの女房」 第6週では、「墓場鬼太郎」 の評判が、下辺部から徐々に高まっていく様子が、いつもどおり丁寧に描かれていました。

 その中で重点が置かれていたように感じるのは、暗いとか、売れないとか、マニア受けとか、そんな厳しい現実の中で、ただひたすら、一生懸命になってマンガを描き続けている、村井茂(向井理クン)の姿。
 茂の姿勢には、どんなに逆境でも、いくらひどい目に遭っても、けっして腐ったり怒ったり世を羨んだりするところがない。

 それはある意味で、とても楽天的である、とも言えます。
 第5週目の今週は、茂のその楽天主義の基礎となっているように思われる、ゲーテの話も登場しました。

 けれども、茂はただ座して、のほほんと構えているわけではないのです。 ムチャクチャ頑張って、マンガをひたすら描き続けている。
 自分を信じて、最高のものを描き続けていれば、結果はおのずからついてくる、という姿勢なのです。

 これは、このブログを書き続けてきた私にとっても、大変共感できる話でした。
 最初のうちは、アクセスが一日に2、3件、まるでなしの日も。
 やりがいがなかったなー。
 それでも、試行錯誤を続けながら、いいものを書いていればそのうちいずれ…と思っていたものです。 とりあえず、一生懸命書こう、と。

 話は戻りますが、戦記マンガを描く茂には、ある種のこだわりが潜んでいます。
 それは、浦木(杉浦太陽クン)に 「もっと勇ましい戦争マンガを描け」 と言われた時の、茂の反応に象徴されていました。

 「だらい言うな。 あれは冒険活劇じゃろが。 都合よく弾が飛んできて派手な空中戦やって、食いもんに困ることもない! あげな都合のいい戦争があるか!」

 それは実際に戦場で、限りなく悲惨でみじめな体験をした茂だからこそ、言える言葉です。
 ここで挿入されるのが、こみち書房の田中美智子(松坂慶子サン)のダンナ、政志(光石研サン)の描写。

 戦争に行った精神的な後遺症で、ダラダラとした人生を送っている彼が、寝床で茂のマンガを読みながら、美智子に 「このマンガは、本物だ…」 とつぶやく。
 映画 「ディア・ハンター」 などで、ベトナム従軍後遺症の人たちを見てきた私などにとっては、光石サンの演じている男は、この温かいドラマに、独特の陰影を与えている気がしてなりません。
 語り口が、さりげないくせして、相変わらず、すごい。

 茂の家を調べようとやってきた、元軍人の刑事(山崎銀之丞サン)が、茂のマンガを読んで感銘し、調査を中止する、というエピソードでも、戦争の影が、繰り返し匂ってくる。
 光石サンと山崎サンという、ふたりの元軍人に茂のマンガを評価させることで、茂のマンガが世間に評価されていくことに、説得力を与える外壁を作っていく。
 この構図、やはりうなりますね。

 第5週目では、ものの1分程度でしたが、茂が自分の左腕を切断したときの回想シーンがありました。 それはとてもよくできていて、とても1分程度に思えないくらいの、重苦しい、凄惨な描写でした。
 いろいろ戦争の映画とかドラマを見てきた私にとっては、これが当たり前だ、という感覚だったのですが、なんかこの回のあと、ネットで見る限り、視聴者の一部に拒絶反応が見られたようです。 温かい泣けるドラマだと思っているのに、朝ごはんの時間に凄惨なシーンを流すな、みたいな。

 うーん、悪しき傾向だ。

 さっきの茂の叫びを、ちゃんと聞いていないのでしょう。
 都合のいい戦争なんてものは、ないのです。
 茂の片腕が切断されている以上、この話はこのドラマでは、避けて通れない話でも、あるのです。

 片腕がないからこそ、茂はマンガで生計を立てなくちゃならない。
 片腕でできる仕事って、なんかありますかね?
 たまたま絵が上手だったこともありますけど、茂にとってマンガというのは、結構数少ない選択肢の中のひとつなのです。 つまり、あとがない。
 だからこそ、戌井(梶原善サン)や中森(中村靖日サン)のように、現状を嘆いたり、自分の才能のなさに落ち込んだりしている場合では、そもそもないのです。

 そして季節は、夏。
 鬼太郎の話の続きを描くことが許され、それに打ち込む茂も汗だくなのですが、布美枝の顔にも、汗が浮かび上がっている。 蒸し風呂のような描写も、さすがです。
 一心不乱にペンを走らせる夫の後ろ姿を見ているうちに、布美枝(松下奈緒サン)は、気づかぬうちに涙を流してしまう。

 「あんなに仕事に打ち込んでいる人を、初めて見ました…。 あの人、片手ですけん、左肩で紙を押さえて書いとるんですよ。 背中が、ぐいっとねじれて…あげに精魂込めて描いとるもんが、人の心を打たんはずない…売れても売れんでも、もう構わんような気がして…あの人の努力は、…本物ですけん」

 その話を聞いていた戌井は、「鬼太郎は水木サンの最高傑作になる」 と、太鼓判を押す。 布美枝は、なんとか茂の仕事の手助けをしたいと、強く思うのです。

 そして布美枝は一回は断られながら、茂の原稿の墨入れ(ベタ塗り、と申します)や、点描を任される。

 この原稿、鉛筆の下書きからペンあとまで、水木しげる氏の絵そのままのタッチで、マンガの原稿にちゃんとなっているとろが、芸が細かいです。

 それで思い出したんですが、先週だったか、梶原善サンがうじきつよしサンのところに持ってきたマンガには、当時の仕様のスクリーントーン(網目とかさまざまな、模様だけの用紙のことです。 絵の上からそれを切って貼るだけで、ペンで描かなくても模様や陰影をつけたりできる)がちゃんと貼ってあったような気がします。
 実にこれも、時代考証がきちっとしている、というか。
 それに比べると、茂の絵には、スクリーントーンというものが、基本的に貼られていない。 だから茂も布美枝に、点描をお願いしたりするのですが。
 ホントに、こんな細部にわたるまで、手を抜いていない。 恐れ入りました。

 それから、この原稿用紙サイズ、現在のマンガの原稿と比べると、A4くらいでとても小さな紙のように見えますが、これもたぶん、貸本マンガ時代は、このサイズで描いていたのでしょう。 さすがに私もサイズについての知識はないのですが、ここまでこだわっているならおそらくこれが正しいのだろう、と思わせます。 すごいなー。 しみじみ。

 そして、鬼太郎の新しい本が出来上がった日、布美枝は最初の本を茂から贈呈され、原稿料が入らなかったことを知らされ、鬼太郎の長編を新たに依頼されたことも知らされ、禍福はあざなえる縄のごとし状態。
 週の終わりに単純なハッピーエンドにしない、というところも、心憎い演出です。

 けれども、嫌なことはとりあえずこっちに置いといて、うれしさを爆発させて 「やった!やった!」 と飛び跳ねまわる布美枝。
 飛び跳ねながら、感極まってしまう。
 壁に掛けてあった布美枝の分身(笑)、いったんもめんの絵も、喜んででんぐり返しをしています(笑)。
 なーんか、見ているこっちのほうが、胸キュンキュンしっぱなしになってしまいますね(笑)。

 今週、いっぽうで、こみち書房に集まる若者たちの事情にも、ドラマはスポットを当てていました。

 地方から東京に出てきて、工場で働いている若い男(鈴木裕樹サン)。 こみち書房の常連である、女工のひとりに恋しています。

 「いーい若いもんが、休みの日にほかに行くとこないのかと思うけど、給料も安いし、田舎にも仕送りして、こずかいも少ないんだろう…貸本屋は、あの子たちの、避難所みたいなもんだ」

 うちの親もそんな人たちと同様だったので、佐々木すみ江サンのその話には、とても感情移入していたみたいです。
 このドラマ、テレビを見ているあらゆる世代に向かって、発信されています。
 ここまでやるかな普通(笑)。 ここまで良質なドラマ、ぜいたくしすぎで、見続けるのが怖くなってきた(冗談です)。
 NHKサンには、やられっぱなしという気がします。 スポンサー離れとかなくて経営が安定してるから、ドラマ制作も安定している、そんな気が、するんですよね。

当ブログ 「ゲゲゲの女房」 に関するほかの記事
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http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/03/1-nhk-c7ac.html
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