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2010年5月29日 (土)

「ゲゲゲの女房」 第9週 「生きるため」 と 「プライド」 の狭間

 「何もかも順調とはいかんだろうが、笑って暮らしてんのだけん、だいじょぶだ」 と父源兵衛(大杉漣サン)を安心させた布美枝(松下奈緒サン)でしたが、「親をあてにしてはいけんぞ、自分たちで何とかやっていけ」 とくぎを刺されたそのそばから、村井家には今週、最大の危機がやってくるのです。 最大の危機にもかかわらず、布美枝が実家を頼らなかったのは、源兵衛サンにくぎを刺されたのが伏線だったのかな。 なにしろ、「ゲゲゲの女房」 を見始めて、いちばん重苦しい週だった気がします。

 その最大の危機というのは、茂(向井理クン)のよき理解者だった出版社社長、深沢(村上弘明サン)が喀血して倒れ、収入の道が閉ざされてしまうこと。
 そこで茂は出版社まわりを再び始めるのですが、その時直面したのは、前回の出版社まわりの時よりもなお厳しさを増していた貸本業界の不況。
 今週の舞台である昭和37年は、少年サンデーが中心となってマンガ週刊誌に人気が完全にシフトしつつあった時代でした。

 茂が飛び込んだのは、春田(木下ほうかサン)という男が経営する零細出版社。
 この木下ほうかサン、浦木(杉浦太陽クン)や富田社長(うじきつよしサン)みたいなネガティブキャラクターが相当かわいく見えてしまうほどの、悪役。 私もとりあえず、経営者のほんのはしくれといたしましては(笑)、木下サンにはえらいリアリティを感じました。 でもたいていは、皆さん愛想よく笑いながら、木下サンみたいなマネをするわけですが(笑)。

 ここで木下サン演じる春田が行なうのは、あくまでもマンガ家としてのプライドを根底から傷つける方法。

 いきなり原稿にお茶をこぼしてしまうなど、仮にもマンガを取り扱う商売をしている人なら、あってはならない暴挙です。 マンガのインクって、プリンタのインクと同じく、濡れればにじむんですからね。 茂がどけだけ原稿に向かって一生懸命描いてきたかをつぶさに見ているこちら側としては、それだけでもう、ふざけんなと蹴っ飛ばしたくなる展開。

 しかも春田のやり口は、徹底的に原稿料をダンピングしたうえに、茂が描いたこともないような少女漫画を強要し、作者の名前まで変えさせ、「こんなもの、誰が読むって言うの?」 と原稿をつっ返しながら、実はそうやって、自分の思うとおりに取引を進めよう、というあざといもの。 本当に必要ないんなら、「帰って帰って」 で終わりなんですからね。
 ともあれ、相手のプライドなんて、まるでお構いなしなのです。

 先にも書きましたが、これは下請けばかりの零細企業にとっても、同様な話でありまして。

 リーマンショック以降、弱者にとってもはや、仕事やもらえる額について云々している場合ではない、そんな風潮が近年特に幅を利かせ始めているような気がするんですよ。
 そんな状況下では、まず生き残らなければならないわけで、プライドなんかドブに捨てられている感覚さえする。 選り好みなどしていたら、生きて行かれんのです。

 そんななかで茂が布美枝に仕事の内容を隠しながら悪戦苦闘している姿を見るのは、ちょっときつかったなあ。 身につまされる、と言いますか。

 自分はこう生きたいんだ、とか、そんな辱めを受けながら仕事なんかするか、とか、お金があるうちなら、そういうことも言っていられるでしょうが。

 生きていくためには、なかなかそういうカッコいいことも、言っておられんのですわ(なんかさっきから、茂の口調がうつっとりますが)。

 茂が実情を話さないために、布美枝はただ夫が自分をなんか避けてるとか、若い女の子(南明奈チャン)の手を握った(3回くらい繰り返し再生してましたね…笑)だとか、そんなことで傷ついている。
 けれども無理をしたあげくに熱を出してしまった茂の代わりに、その原稿料をもらうため春田の出版社まで行った布美枝は、茂がどれほどの屈辱に耐えながら仕事をしていたかを身にしみて思い知らされ、その帰り道、みぞれの降る神社の椅子にぽつりと座りながら、さめざめと泣くのです。

 「あの人、こんな思いで、仕事しとったんだ…こんなつらい思いして…仕事しとったんだ…」

 つまり布美枝は、夫の仕事ぶりに心から尊敬の念を抱いているから、自分の中に茂以上に、仕事に対するプライドが育ってしまっている側面がある。 そんな布美枝にとって、夫が少女漫画を別の名前で描いているというのは、屈辱以外の何物でもないのです。 しかももらったお金はおそらく契約書もない口約束で、結局半分。 文句のいいようがない怒りというものも、あったはずです。

 ところが…(と書くと、野際陽子サンの口調が思い出される今日この頃)。

 当の茂にとっては、「食っていくためなら少女漫画を描くのも、自分の名前を変えるのも、作戦のひとつであって、そんなに気に病むことではない」 という考えなんですよ。 はっとしました。

 「柄にもない少女漫画描いて、名前も女の名前で、今度ばかりはちっと具合悪かったけ、言いそびれた…(略)…あげなことは構わんのだ。 名前が変えたほうが売れるなら変えたほうがええ。 それも作戦のうちだ。 食っていくための作戦だ。 ほら、プロレスにおるだろう、覆面かぶって試合しとるレスラー。 覆面さえ変えれば、何度でも何度でも戦える。 それと一緒だ。 名前を変えても、絵を描いて生きていくんは変わらんのだけ。 それでええんだ…あ、いっそのこと、もっとしゃれたペンネームでも考えておくか」

 くよくよ考えとっても、始まらんのですわ。 茂のためにぜいたく品のコーヒーを買ってくる布美枝、妻のためにそれを入れてくれる茂。 お互いへの思いやりがじわじわと伝わる、いいシーンでした。 その貴重品のコーヒーを、水道橋から息も絶え絶えに調布まで歩いてきた中森(中村靖日サン)にふるまう、という展開もよろしい。

 出版社まわりに奔走する茂は、くたびれ果てた富田社長と偶然再会するのですが、「あんたと私は、共存共栄の固い絆でつながっている!」 などと言われ、「腐れ縁の間違いだろう」 と突っ込みたくなったのですが(笑)、「原稿が欲しい」 と言うだけ、ほかの出版社よりはまし、と言いますか…(笑)。
 結局富田社長から頂いたのは、支払期日3か月後の約束手形(10万円)。 こんなもの、何のアテにもならない気もするのですが、会社にとって約手というのは、払えなければ(確か2回かな?)即倒産。 つまり会社サイドからすれば、退路を断っているわけです。 でも富田書房の事務所には、クモの巣にとらえられた蛾が…(笑)。

 布美枝は考えた末に、靖代(東てる美サン)の紹介で化粧品のセールスレディになるのですが、東てる美サンの変わりぶりは面白かったですね。 風呂屋の番頭で、スッゴイヘンなパーマしてたのに(笑)、すっかり垢ぬけちゃって。 「ロザンヌレディ」 とか言っておりましたが、それってメナードレディのことかな? メナードと言えば、松坂慶子サンですよねえ(笑)。
 靖代について営業に出始めた矢先、布美枝につわりの症状が…。 喜ばしいことではあるんですが、なんとも間が悪い、と言いますか。

 今週は茂の少女漫画を手伝う漫画家志望の女の子、河合はるこ役でアッキーナこと南明奈チャンが登場。 私この人の芝居を見たのは初めてでしたが、予想外にうまかったですね。 いかにもこんな漫画家志望の女の子、いそうな感じでした。 演技の幅が求められるような役柄ではありませんでしたが、芝居カンがあるような気がしました。

当ブログ 「ゲゲゲの女房」 に関するほかの記事
第1回 NHKのやる気を感じさせます
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/03/1-nhk-c7ac.html
第2週まで見てhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/04/2-5cbd.html
第4週まで見てhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/04/4-a685.html
第5週 ほんとうのスタートは、ここからhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/5-9d37.html
第6週 人事を尽くして天命を待つhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/6-3192.html
第7週 時代に流されていく人たちhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/7-6a9d.html
第8週 笑って生きよう、たとえ貧しくともhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/8-82ce.html
第10週 ビンボー神の出るタイミングhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/10-8426.html
第11週 まあ…なんとかなーわね!http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/11-e5c0.html

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BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 上

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 上
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ記事より抜粋)。 この上巻ではビートルズの祖先から遡ってリバプールで人気に火が付き始めたところまでが書いてあります。

  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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