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2010年5月13日 (木)

「Mother」 第5回 母と娘の距離感

 今回の 「Mother」。
 冒頭で田中裕子サンが自分を捨てた母親だということが分かって、それまでの態度を一転させた松雪泰子サンが、育ての親の高畑淳子サンにそのことを打ち明け、いっしょにパエリア?を作りながら、「この色きれい!」 みたいにしているシーンと、モノクロに近い薄汚い台所で、一人分の米をさびしそうに砥ぐ田中裕子サンの姿を立て続けに流します。 このコントラストは、見事です。

 ただ前回まで、見ていてどうにものめり込むことができなかったこのドラマ。
 その要因のひとつとなっていたのが、鈴原家の次女、酒井若菜チャンの 「甘えた大人ぶり」 と、前回ラストに見せた、山本耕史サンの 「ゆすり」。 特に後者は、面白くなってきたかなーと思った矢先のイヤな展開だったので、これでまた感情移入できない登場人物が増えた、と思っておったのですが。

 今週の話はそのわだかまりを、きれいに拭いとってくれました。
 まず酒井若菜チャン。
 それまで心室がひとつしかない赤ん坊をおなかに宿したにもかかわらず、悲しむでもなく嘆くでもなく、赤ん坊がモノみたいな感覚で、いかにもメンド臭そうにとっとと堕ろすみたいな態度に終始していたんですが。

 部屋で二人きりの夜、母親の高畑淳子サンから、「つらくないの?…ホントに、つらくないの?」 と訊かれ、「少しはネーっ(笑)」 とナマイキそうに答えながら、若菜チャンは次第に表情を悲しみで崩していくのです。

 「美容院に行ったばっかなのに、雨降っちゃったよぐらいの程度には…」
 そう言った途端、今まで押さえていたものが、急に胸からこみあげてしまったように、感極まって涙を流す、若菜チャン。 それを支えるようにして、抱きとめる、高畑サン。

 自分のおなかにいる子供は、いわば自分の分身みたいなものでしょうからね。 その子供に対して、一片の感情もないほうが、おかしいと言えます。
 それまでこの若菜チャン演じる鈴原芽衣は、母親としてそんな子供ができてしまったことへの絶望感や、申し訳なさや、腹立たしさがあふれかえりすぎて、その感情を一切遮断してしまったのでしょう。 おなかの中にいる子供を、そういう意味では、自分から一番遠い距離に置いてしまった、と言えます。

 ともあれこれで、私がこのドラマに対して持っていたよそよそしさの要因が、ひとつなくなりました。

 そしてもうひとつ、山本耕史サンが松雪泰子サンに仕掛けてきた 「ゆすり」 ですが、これも実は、山本サンが以前、自分が取材をしていた、虐待に遭っていた子供を救うことができなかった過去を背負っていることが明かされて、ちょっとほっとしたような感じ。

 「その子は…」 と訊く松雪サンに、山本サンは、こう答えます。

 「死んだよ…父親にハラ蹴られて、内臓……
 オレはさ、あいつのヒーローにはなってやれなかった…見殺しにしたんだよアンタと違って…
 今アンタが歩いている道は、オレの逃げた道なんだ…オレはその道の先にさ、何があるのか見てみたい…」

 ただ、だからと言って、依然として山本サンがなぜ金を欲しがったのか、という理由は明かされないままなので、油断はできません(笑)。 現にラストで、継美チャンのところにほんとうの母親の尾野真千子サンから電話が来るのも、山本サンが噛んでいる可能性が、非常に高い。

 ここで山本耕史サンに要求された金をいったんは出したのが、「うっかりさん」 の田中裕子サン。
 そのお金は田中サンが、松雪サンのために長年にわたって毎月1万円ずつためてきた、定期積立預金だったのです。
 受け取る義理はない、と松雪サンがそのカネをつっ返そうと、田中サンの家まで行って、かつて自分を捨てた母親をなじっていると、そこに高畑淳子サンがやってきます。
 高畑サン、いきなり田中サンを、すごい勢いでひっぱたく(笑)。
 実力派女優どうしの、息詰まる一瞬でした~(笑)。

 「そんなもので、そんなお金で母親になったつもり?! お金なんかで、あなたがこの子にした罪が消えると思ってんの?! こんなもので、あたしと奈緒の30年、壊さないで!」

 松雪サンは 「お母さん!もういいの!」 と高畑サンを止めるのですが、このやり取りの直前、具合が悪くなって倒れていた田中サンにとっては、体力的にも精神的にも、かなり気の毒な展開でした。 自分の目の前で、高畑サンのほうを 「お母さん」 と呼び、こちらは 「知らない人」 呼ばわりですからね。
 このやり取りを階下で聞いていたと思われる、田中サンの主治医らしき、市川実和子サン。 今後物語に絡んできそうな感じがしますが。 今はそっと、何事もなかったかのように、そこから立ち去る。

 それから、おでん屋で高畑サンと松雪サンは、母子の絆を確かめ合うのですが、「昔話を延々と語る」 というシーンって、このドラマのひとつの特徴のような気がします。
 実は昔こういうことがあった、と見ている側に打ち明けるような話の作りって、結構話を薄っぺらくしてしまう危険性があるのですが、このドラマは、真っ向からそれをやっている。
 ただ今回の高畑サンの、幼い松雪サンを施設から引き取ってからの東京タワーとかの話は、グッとくるところがありました。

 ただまあ、そこまでその時点で親子になろうと一生懸命だったのに、なんで未だに松雪サンが高畑サンに対してこれほどよそよそしいのか、という疑問はついて回るのですが(笑)。
 それも今回の田中サンひっぱたきの件で、だいぶこの母子の距離は、縮まったように思えるのです。

 それでやはりクローズアップされてしまうのが、田中サンの哀れぶりです。

 松雪サンも高畑サンも知る由がないのは分かりますが、ドラマでの田中サンの余命は半年程度。
 しかも田中サンは、松雪サンに対して、とても親身になって接している。
 わが子を捨てるというのも罪深い話だとは思いますが、捨てるには捨てるだけの、どうにもできない理由というものがあることを、松雪サンにも早く理解してもらいたいなあ、と思います。 その点で、松雪サンは田中サンに対して、適正な親子の距離を保っている、とは言い難い。

 継美チャン(=玲南)と連絡がとれた時の尾野真千子サンの表情を見ていると、尾野サンも、わが子との距離感がつかめなくて、自分から遠ざけていた、という感じがするのです。 その点では、さっきの酒井若菜チャンと、ケースは違うけれども、意識的な子供との距離の取りかたにおいて、似通っているような部分があります。

 今回このドラマでは、5通りの親子の距離感が表現されていました。
 松雪サンと高畑サンの距離感。
 松雪サンと田中サンとの距離感。
 松雪サンと継美チャンとの距離感。
 継美チャンと尾野サンとの距離感。
 そして、酒井若菜チャンとおなかの赤ちゃんとの距離感。

 その距離感を見誤ると、正常な親子関係が築けなくなる。 虐待や子捨ては、そのいびつな距離感のなれの果ての姿であるとも、考えられるのです。

 ただの逃亡劇なのかと思ったら、話の行く先が毎回見えない。 結構このドラマ、ハマってきました。

当ブログ 「Mother」 に関するほかの記事
第1-2回 主人公が、暗いですね… http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/04/mother-1-2-447a.html
第3-4回 同じテーマのドラマ 「八日目の蝉」 との相違点http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/mother-3-4-34fe.html
第6回 行く先が、見えないhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/mother-6-95e0.html
第7回 うっかりさんの裏の顔http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/mother-7-344a.html
第8回 泣いてもいいんだよhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/mother-8-8615.html
第9回 母の手のぬくもりをhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/mother-9-d640.html
第10回 優しさがつき動かすものhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/mother-10-db64.html

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コメント

いつも楽しみに拝見しています。
山本くんが1000万円ゆすっていた理由ですが,
虐待していた親が1000万円で子供を売ってやるみたいなせりふがあったかと思います。
私見ですが,そのとき1000万円あれば,自分は,その子を救えたかもしれない,松雪さんは,継美ちゃんのためにそこまでするのか,というのを試したかったのでは,と考えました。そう考えると救われる気がするのですが,どうでしょうか。
役名と俳優がごっちゃですみません。
これからもレビュー楽しみにしています。

えーじ様
コメント、ありがとうございます。
拙ブログのリピーターとのこと、とてもありがたいです!

えーじ様のご推察、なるほどです! きっと心の優しい方なんでしょうね。 私は疑り深いので、きっとまだ何かあるに違いないなどと考えてしまうんでしょう(笑)。 だから尾野真千子サンからの電話も、山本サンが仕組んだのでは?などと考えてしまう。 もっとひねくれずに、ドラマを楽しみたいものです(笑)。

役名と俳優名がごっちゃになること、私も記事を書く際、とても悩んでます(笑)。
役名で書いてしまうと、時間がたってから読み返すと、ワケの分からなくなるケースがよくあるので、そうなるかなーという時は、俳優名で書くようにしてます。
役名で書く場合は、よほどそのドラマに入れ込んでいる場合が多いですね。

当ブログ、いろいろ至らない点もあると思いますが、今後も出来れば御贔屓のほど。

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BOOKS

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    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

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    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
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  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

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    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

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    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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