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2010年6月 7日 (月)

「龍馬伝」 第23回 後戻り?…それは誰が決めるのだろう

 「龍馬伝」 第23回は、長次郎(大泉洋サン)と徳(酒井若菜サン)の婚礼の席で、海軍操練所が神戸に完成した、という知らせが勝(武田鉄矢サン)からもたらされ、めでたいこと続きの明るい雰囲気で始まりました。
 しかし見終わってみれば、重たいものが心の奥にいつまでも残り続けるような、やりきれない思いに。

 今回の物語をつかさどる鍵の人物は、土佐勤王党から勝塾に送り込まれていた望月亀弥太(音尾琢真サン)。 武市(大森南朋サン)や以蔵(佐藤健クン)が投獄され、かつての自らの志と、否応なく再び向き合っているのです。

 操練所の新入り、陸奥陽之助(平岡祐太サン)のナマイキぶりに食ってかかり、自らのイライラを爆発させる亀弥太に、龍馬(福山雅治サン)は 「もはや攘夷だ開国だと言っている時代ではない、後戻りしてはいかん」 と亀弥太をなだめる。

 けれども、「後戻り」 ということは、いったい誰が決めることなんでしょう。

 亀弥太にとっては、武市が掲げていた尊王攘夷こそが、自らの理想にいちばん感応したからこそ、土佐勤王党に入ったのです。 そこにはやはり、虫けら同然だった下士時代の屈辱が、亀弥太には厳然としてある。
 龍馬に 「日本を守るためには、内輪もめよりも国力をあげるべきなのは、おまんじゃちよう分かっちゅうはずぜよ」 と説得されても、頭では分かっていても、自らこうと決めた生き方とは違う。
 龍馬に説得され、泣き崩れる亀弥太。
 亀弥太のどうしようもない心のあがきは、こちらの心を揺さぶるものがありました。

 結局亀弥太は長州藩士の攘夷の動きを察知して、操練所を出奔、京の池田屋に向かいます。 龍馬はそれを聞いて、亀弥太を連れ戻しに行こうとするのですが。

 「志の違うものは放っておけばいい」 という陸奥や長次郎。
 特に長次郎は、先のいざこざの時に、亀弥太から身分の違いでなじられている経緯がある。
 下士としての屈辱を背負っていた亀弥太にしても、饅頭屋のせがれに同じことをしている、という構図がさりげなく描かれているところは、秀逸です。

 ところがこれに、龍馬は激しく反発する。
 今回、作り手がいちばん訴えたかったことがここにあるような気がしました。

 「…それは違うぜよぉっ…!」

 動きが止まる操練所の男たち。

 「わしらは、…わしらはたった200人しかおらんがじゃ!
 たったの200人でこの日本の海軍を作ろうとしゆうがじゃ、わしらは!
 アメリカフランスエゲレスオロシア…異国は日本がばらばらになるのを待ちゆう! いつでも日本を乗っ取る準備ができゆう!
 けんど! そうはさせんと、そうはさせんと心に決めたもんらが、この海軍操練所に集まっちゅうがやろうが!
 …おらんでえいゆう仲間ら、…ここにはひとりもおらん!
 蒸気船は、ひとりで動かすことはできんがじゃ!
  帆を張るもん、索を引くもん、かまを焚くもん、風を見るもん、海図を読むもん、見張りをするもん、旗を立てるもん、飯を炊くもん、壊れたところを直すもん!
 誰ひとり、誰ひとり欠けたち、船を動かすことは出来んがぜよ!
 わしらはの、わしらは日本の海軍ゆう、大きい、大きい船を動かそうとしゆうがじゃ!
 …亀弥太はの…まっすぐな、えい奴ぜよ…。
 あいつを死なせるわけにはいかんき…。
 あいつを連れ戻してくるき…」

 生意気な口を聞いていた陸奥も、なんだか感激したような感じ(笑)。
 大義のためには多少の犠牲は仕方がない、という考えは、武士が刀を所持しているのがふつうの時代だった当時には、あまりにも当たり前のことだったに違いないのです。
 龍馬はこのとき、そんな 「犠牲」 という概念に、異議を申し立てた気がします。
 「三銃士」 ではないですが、「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」。
 ひとりの人間を大事にしなくて、なにが大義だ! 首を切って会社が安泰ならそれでいいのか!…あ、ちょっと本題から話がそれました(笑)。 …でもそれと一緒ですよね。

 亀弥太も含む池田屋に集まった攘夷派の志士たちは、京の町を焼き払ってその機に乗じ、帝を連れ出すという、言いかたは悪いですが大勢の人を困らせる計画。
 そこにドカドカと足音がし、画面はブラックアウト。
 新選組です。
 一介の暗殺者集団だった新選組は、この池田組事件で一気にその名を高めていくことになるのですが、ここでの斬り合いの描写は、一切なし。
 そして無言のまま、意気揚々と引き揚げていく、新選組の姿のみ。

 この新選組の池田屋襲撃の描写は、新選組ファンの人にとっては、誠に物足りないものであったかと思います。
 でもこれって結構、いろんなとこで見聞きしているし、数年前にも同じ大河でやってましたからね。

 それ以上に、もの言わず相手を斬り殺していく彼らの不気味さが、「見せない」「しゃべらせない」 ことによって一層引き立っているような気が、私にはするのです。 こういう新選組の描きかたも、私は好きだなあ。

 そしてその犠牲になった、亀弥太。
 龍馬が駆けつけた時は、すでに虫の息。 自ら小刀を、腹に突き刺しています。

 「わしは、侍やき…あんな奴らに…とどめを刺されるがは、まっぴらぜよ…!」

 最後まで武士の誇りを捨てなかった亀弥太には、泣けました。

 「龍馬…おまんの…言う通りにしちょったら、よかったかのう…後戻りは、いかんかったかのう…」

 絶命する亀弥太。 慟哭する、龍馬。 重苦しいBGMが流れる中、スローモーションで池田屋にたどり着く龍馬。 そして大惨殺の現場を目の当たりにした龍馬は、それが新選組の仕業だと知り、ただならぬ表情でその場から立ち去っていくのです。 新選組に殴り込みに行くのか、龍馬?

 後戻りかどうかは、やはり本人が決めることではないかと、見終わってから考えました。
 自分の志を全うしようとした人間は、それだけで生き抜く価値があったのだ、そう考えました。
 自分に恥じない生き方をすることこそが、いちばん大事なのではないか、と。

 久々に、「弥太郎伝」、やりますかね。

 岩崎家にも運が向いてきて、喜勢(マイコサン)に赤ん坊が生まれるのですが、弥太郎(香川照之サン)弥次郎(蟹江敬三サン)親子は相変わらずで、大声あげたりコワイ顔をして赤ん坊を泣かしています(笑)。

 その弥太郎、相変わらず憎まれ口を叩きながら、武市の家を訪れ、「あまりに幸せだとあとでしわ寄せが来るから、ここであえて損をしてやる」 と、美輪明宏サンの 「正負の法則」 かよ(笑)みたいなことを言いながら、家の修理を冨(奥貫薫サン)に買って出る。
 そこに届いた、武市からの手紙。
 「大丈夫そうじゃないかえ、武市さんは。 気にかけることらないがぜよ、な」
 と、優しいところを見せるのです。
 いいとこ、あるじゃないですか。

当ブログ 「龍馬伝」 に関する記事
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BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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