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2010年7月 4日 (日)

「ゲゲゲの女房」 第14週 自分の名前と自分の存在

 今週冒頭から、テレビによってますます厳しくなる貸本屋の現状を見せた 「ゲゲゲの女房」 第14週。 もともと 「こみち書房」 自体が架空の存在らしいのですが、その架空の場所を舞台として、ダンナ(光石研サン)のシベリア抑留から燃え尽き症候群になるまでの過程、田中美智子(松坂慶子サン)の子供が亡くなった件が、これまでこのドラマのなかでは小出しに織り交ぜられてきました。
 それはとても消化不良な印象だったのですが、今週はこの、田中家の話が凝縮されて、とても心を揺さぶられる話に昇華していた気がします。
 そして今週で、この田中家の人々ともお別れ。 何ともさびしいものを感じます。
 調布市が東京オリンピックのマラソン折り返し地点であったように、田中家はちょうどドラマの折り返し地点まで布美枝(松下奈緒サン)の心の支えになっていたわけですね。

 貸本という形態から脱却する月刊漫画誌である 「ゼタ」 の発売を急ぐ深沢社長(村上弘明サン)、結核の悪化という大病を乗り越えたからこその急ピッチぶりだったようです。
 この 「ゼタ」、実際のモデルは 「ガロ」 だということは、ちょっとマンガに詳しい人ならすぐに分かるのですが、それにしても、なぜ 「ゼタ」 なんだろうなーと、私ずっと考えとるのですよ(笑)。
 ドラマで出てきた、出来上がった表紙のロゴを見てちょっと思いついたんですが、「ガロ」 の 「ガ」 の字をちょっと変形させると 「ゼ」 の字に近くなり(笑)、「ロ」 の字の右下の部分を伸ばすと 「タ」 の字に近くなる(笑)。 それだけのことかなー、なんて(笑)。

 茂(向井理クン)が貸本から雑誌に進出した、というのも、実はかなりの転機だった気がするのですが、大人の読者を見据えているペーソスというものを茂が描くことができた、というのはとても大きい。 時代劇や少女漫画まて描かなければならなかった水木しげる氏が最も自分のスタンスで描くことのできたマンガが、これのような気が私にはするのです。 そのことが、どんなにマンガ家にとって喜びであるか。 このドラマは女房のほうの話なのでそこらへんの突っ込んだ描写はありませんでしたが、しっかり茂のその社会批評眼の凄さを織り込んでいたのには、毎度のことながら感心です。

 村井家にやって来た戌井(梶原善サン)とはち合わせた深沢とその秘書加納(桜田聖子サン)。 ふたりの出版社社長のコントラストをまたここで鮮やかに切り取りながら、布美枝はやり手の秘書加納の言葉に、ちょっとしたショックを受けるのです。

 「私、名前がないのイヤなんです。 名前がなかったんです、ずっと。
 前に勤めていたの、そこそこ大きな会社でした。 きれいな秘書室もあって、お給料もまあまあ。 でも、誰も名刺持ってないんです。 何とか重役の秘書、それが名前ですから。 仕事をしていても、自分の名前はないのと一緒です。
 つまらないじゃないですか。
 会社では誰々の秘書、結婚したらなんとかサンの奥さんになって、なんとかチャンのお母さんになって…そんなのつまらない」

 ここでこの言葉にショックを受けている布美枝に、戌井が 「奥さん!」 と呼びかけるのです。 連合艦隊の模型作りを手伝ったことを口々に褒める戌井と深沢。 でも布美枝のことを名前で呼ばず、「奥さん」 とばかり呼びかける。 さりげなくも、実に秀逸なシーンでした。 今週の 「ゲゲゲ」 では、名前についての話がもう一度、重要な場面で出てきます。 えっ? もう忘れました?

 とにかくいっぽう、はるこ(南明奈チャン)は、貸本マンガ家としての限界を強く自覚し始め、「私には、時間がないんです!」 と浦木(杉浦太陽クン)に激白するのですが、どうにも意味深でした、このセリフは。 南明奈チャン、この役、合ってますよね。 ここまで演じることができるんだなあ。 杉浦太陽クンも憎々しい役どころなのですが、なんだか出てくると必ず笑わせてくれる。 このふたりのキャスティングには、正直舌を巻きます。 合わないようでいて、合っている。

 加納の 「名前がないのはイヤ」 という言葉に発奮したのではないのでしょうが、布美枝は売り上げ不振に悩むこみち書房に、オリンピックに便乗して、本を多く借りた人にはメダルをあげよう、というアイディアを提案します。
 果たしてこの思惑は当たって、こみち書房はまた子供たちで繁盛し出すのですが、これがかえって悪書追放団体の格好の標的となってしまい、ダンナの光石研サンと大モメ状態となって警察が割って入る騒ぎとなり、そのことがきっかけで、決定的に客足が遠のいていくのです。

 警察沙汰寸前の騒ぎになったあと、キヨ(佐々木すみ江サン)は政志を厳しく叱りつけるのですが、政志は店先に落ちていた、布美枝の作った金メダルをいったんは足でけっぽろうとし、思い直して自分のポケットに入れ、店を出ていく。

 気まずい雰囲気が流れる中、いつものように気を取り直して明るく 「お茶でも淹れようか」 と場を和ませようとする美智子に、キヨは 「どうして女房なら政志にちゃんと言わないんだ!」 と一喝するのです。
 それまでにないほど、意気消沈してしまったような、美智子。
 お客さんの呼ぶ声にも、いつもの元気さが全くなくなってしまいました。
 それを見ながら、キヨは布美枝に、美智子はなんにも悪くない、と打ち明けるのです。

 「何度も言って聞かせたよあんたのせいじゃないって…。
 それでも、自分を責めちまうんだろうね。
 …母親だから…」

 泣けました。

 「でもね、美智子が、自分を責めてるうちは、政志だって救われないよ…どうしたらいいかねえ…」

 叱るのは、親の愛情。
 そのキヨの苦悩が、とてもよく分かるし、親ってのはちゃんと言うべきことは言ってくれてありがたいなあと思うと、自然と泣けてくるのです。

 それからひと月。

 地主さん(九十九一サン…年食ったなぁ…)から地代を倍にするというムチャクチャな話をされているのを政志に相談した美智子でしたが、あっさりと 「貸本屋なんかやめちまえ」 と言われ、キヨの言葉を思い出したのか、政志に初めて、涙ながらに詰問するのです。

 「なんで簡単に言うのよ!
 やめろなんて、なんでそんなこと、軽く言うのよ!
 ここやめたら、なにが残る?
 だってそうでしょう?
 ここがあったから、今までやってこられたのよ。
 この店があったから、町の人や子供たちが集まってくれて、みんなで笑ったり泣いたりできた。
 だからやってこられたの。 ここがあったから。
 あなた、私にも、自分の人生にも、背中向けたままじゃない。
 私を許さず、いつだって、背中で私を責める。
 そんな人と、どうやって暮らせばよかったのよ!」

 今まで外見上はいつもニコニコしていて、まわりにいる人の太陽であり続けようとしていた、そんな美智子の初めての激白。 それまでの彼女の頑張りが見えたからこそ、彼女の悲しみがこちらに素直に流れ込んでくる。 ここでも泣けました。

 「おしまいなのかなぁ…。
 店も…私たちも…」

 その場に居合わせた布美枝に、美智子はふとそうつぶやく。
 それまで明るくみんなの支えであろうとしてきた人だったのに、自分のほうが折れようとしている。
 顔を両手で覆って泣いてしまう美智子。
 悲しすぎます。

 いっぽう政志は、美智子の初めての自分への反発に恐れをなして家に帰れず(笑)、茂のもとに話を聞きに来るのです。
 その際政志は藍子チャンを野犬から救うことになるのですが、前の回から野犬がうろついている、という前フリがあったわりには、大したことにならなくて(笑)。 「ゲゲゲ」 では、よく藍子チャンが受難する描写があるのですが、先週のビー玉飲み込みに続いて今週は野犬にほえられ(笑)。
 子供というのは、かように危険に取り囲まれている。 目を離したすきにとんでもないことが起こる、というのは、日常茶飯事と言ってよいでしょう。

 その政志は、茂にこう尋ねます。

 「前に言ったろ? 好きだから漫画描いてるって。
 でもよ、…もしも、マンガが先生を追い詰めたら、どうする?
 マンガのせいで、仲間から裏切られたら?」

 政志はシベリア抑留時代、得意だった電気工の仕事のせいでロシア人から重宝がられ、それがアダとなって同じ日本の仲間から痛めつけられた過去を持っていたのです。

 それに対する茂の答えは、実にご本人が言いそうなセリフでした。

 「戦争では、みんなエライ目に遭いましたなあ。
 仲間も大勢死にました。
 死んだ者たちは無念だったと思います。
 みな生きたかったんですから。
 死んだ人間が一番かわいそうです。
 だけん、自分は生きている人間には同情せんのです。
 自分も貧乏はしとりますが、好きなマンガを描いて生きとるんですから、少しもかわいそうなことはありません。
 自分をかわいそうがるのは、
 つまらんことですよ」

 自分をかわいそうがるのは、つまらないことだ。

 私もなにかって言うと、自分をかわいそうだと思う癖があります。 これって、つまらんことなんですね。 いや、実際そう思います。 つまらんです、自分に同情するのは。

 そこに東てる美サンが、美智子がいなくなったと告げに来る。
 布美枝と政志は、美智子が自分の亡くなった子供のお墓に行ったのではと同時にひらめくのですが、迎えに行くことをためらう政志に、布美枝はこう言うのです。

 「迎えに行ってください!
 美智子さん…『もう終わりかもしれない』 って泣いてたんです。
 『こみち書房も、政志さんとも、もうダメなのかな』 って…。
 いま迎えに行かないと、美智子さん、戻れなくなる。
 政志さん!」

 メダルのことにしろ、政志への強い要請にしろ、今週の布美枝は、加納に 「名前でなく奥さんなどと呼ばれるのはつまらない」 と言われたことに反駁しているような決断が多かったような気がします。 ここでさりげなく、「自転車で行かないと日が暮れる」 と助け船を出す茂も、いいですなあ。

 そして政志は結局、千葉で電気工としてもう一度人生をやり直そうと決断するのです。

 「勝手なんだから、ホントに」

 「すまん」

 「そうね…行こっか」

 ここのやりとり、小憎らしいまでの出来でした。 実話の中に挿入されたフィクションシーンかもしれませんが、実話部分を凌駕していた気がします。

 そのあと店にある本を片付けながら、美智子は政志に、「こみち書房」 の名前について話をします。

 「『みちこ』 を入れ替えて、『こみち』 だろ?」

 「うん。 だからね、場所はどこでもいいの。
 どこでやっても、私がいるところが 『こみち書房』。 エヘヘ」

 そんな美智子に、政志は布美枝の作った景品の金メダルをかけてあげるのです。

 「今まで、よく頑張ってくれた。 …金メダルだ!」

 ここでも、泣かせていただきました。

 場所はどこであろうとも、自分の生きている場所が、間違いなく自分自身の生きている証となっていくのだ。 たとえそれは、誰々の奥さんとか、なんとかチャンのお母さんでも構わない。 例え名もなき庶民でも、そこに生きていたことは、確かなことなのだから。
 布美枝にしたって、たまたま水木しげるというマンガ家が売れたからこそこうして名前を知られるようになったかも知れませんが、もともとなんの野心も自己顕示欲もなく、ただ毎日をひたすら生きてきた庶民のひとりなのです。

 このドラマの説得力は、まさしくここにある。
 普通の暮らしを追いかけることに、限りない意義が詰まっているのです。

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BOOKS

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  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
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    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
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    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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