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2010年7月10日 (土)

「ゲゲゲの女房」 第15週 夢をあきらめないで…

 「ガロ」、もとい 「ゼタ」 に描くようになってからも、劇的に経済状況がよくなったわけではない布美枝(松下奈緒サン)と茂(向井理クン)の暮らし。 ビンボー神(片桐仁サン)もすっかり村井家の居心地がよくなってしまっている模様です(笑)。

 それにしても、自分がマンガで描いている 「ビンボー神に取りつかれたアゴのない出っ歯のメガネ男」、「戌井サン(梶原善サン)に似とるなあ…」 と茂も思わずつぶやくのですが、私もずーっとそう思ってました(笑)。
 この「アゴのない出っ歯のメガネ男」 というのは、水木マンガにはよく出てくるキャラクター。
 梶原サンがこのドラマに出て来た時から、「よくこんなイメージぴったりの人を探したもんだ」 と、とても感心したことを覚えています。

 「なんか今、ザワッとした…」 と布美枝はビンボー神の寒気を感じるのですが、「ザワッ」 ではなく、「ザラッ」 とする、というのが、今週よく使われたキーワードでしたね。
 ドラマの中での説明によると、「トヨタのヒットの法則」 として、「個性がある」 という形容詞らしいです。 当時よく使われたんですかね。 不勉強でよく知りませんが。

 この 「ザラッとする」 という形容は、私がドラマを見ていて感じたのは、「ザラッとしていて何か引っかかるものがある」、ということ。
 深沢(村上弘明サン)や少年ランドの編集部の人々が常にこだわっているのが、マンガの良しあしを判断するのに、「絵がうまいとか話がうまいかではなく、心に何か引っかかるものがあるか」、という点です。

 その基準に達しなかったがために、河合はるこ(南明奈チャン)はマンガ家をあきらめざるを得なくなるのですが、今週は茂のマンガがメジャーになる前触れ、という心浮き立つ話題と並行して、夢破れ立ち去っていく者の悲哀も、同時に鮮やかに描かれていました。

 そのはるこは親と約束した 「3年頑張って芽が出なければマンガ家はあきらめる」 という期限切れが迫って焦ったあげく、布美枝にこんな暴言を吐いてしまいます。

 「余計なお世話です。 布美枝サンに話したって仕方のないことです。
 マンガ描いている人間の気持ち、布美枝サンに分かるんですか?
 そばにいるだけでしょ?
 布美枝サンは先生のそばにいて、見ているだけじゃないですか。
 自分で苦しみながらマンガを描いているわけじゃない!」

 はるこチャン、深沢にもそのジレンマを激白していましたよね。

 「それじゃあ売れないって言われました。
 自分の描きたいように描いていたら、雑誌では相手にされません。
 人気マンガを研究して、読者に受けるように描き直せって言われます。
 自分らしさなんて、認められなきゃ意味がないんです!
 雑誌で描けなきゃ何にもなりません。 大手でなきゃ。
 『ゼタ』 だって、大手には相手にされてないじゃないですか!」

 本人にここまで言うか(笑)という感じですが、「自分らしさは、認められなければ意味がない」 というのは、ある一面の真理を突いています。

 ただ、それは真理ではあっても、自分に負けてしまっている証拠なのだと私は思うのです。 そして、自分には才能がない、と自ら認めてしまっている証拠だとも、思うのです。

 少なくとも、自分がその道で成功したければ、相手が悪いとか自分を受け入れてくれない世間が悪いとか、思うべきじゃない。
 どこまでも自分を信じて、先の全く見えない真っ暗な道を歩くしかないのです。
 自分があきらめなければ、やがては自分に合った場所が提供されるもの。
 はるこチャンは今回、実家に帰ることとなりましたが、浦木の提供する挿絵の仕事とか、自分のやりたいことを続ける術はまだあるような気がします。 自分の子供に絵本を作ってあげるとか、そういう方法もあるかもしれない。

 茂と布美枝に、最後のお別れに来たはるこチャン。

 「マンガは、もう諦めます。
 でも、ほかに何をしたらいいか分かんないんです。
 子供のころからマンガ家になることしか考えていませんでしたから。
 先のことは、まだ全然。

 結局3年間、無駄にしただけかも知れません。
 今の私、空っぽです」

 それに対して、茂はこう言って励まします。

 「がんばっとるのは、みんな一緒だからなあ。
 マンガ家を目指す人間は、みんながんばっとる。
 けど、プロになれる人間はわずかしかおらんし、ずっと描き続けられるのは、そのまた一握り。 ほとんどの人は夢破れるんです。
 世の中、思い通りにはならんですよ。

 けどね。 空っぽということはない。
 3年描き続けとった、マンガ家魂が残っとる。
 あんたはそれ、ずっと持っとったらええですよ」

 マンガをあきらめるのに、そんなこと考えてもしょうがないと言うはるこチャンに、茂は自分の父親が小説家志望で映画館までやり、いろんな話に触れてきたからこそ、今の自分につながっている、と話します。

 「あの人は昔から、『なんとかなる主義』 でやっとるけんなあ」

 なんとかなる…この言葉を聞いたはるこチャンは、ようやく自分を納得することができるのです。 輝くようなはるこチャンの笑顔。 野際陽子サンもナレーションで語っていましたが、それははるこチャンが希望に燃えて東京に出てきた頃の笑顔でした。 その独特の背広姿と、髪の毛も少々くたびれた感じでしたが、「笑っていればなんとかなる」 というこのドラマの隠された主題をまた実感させるような、輝く笑顔でした。

 その後はるこチャンは布美枝を深大寺まで誘い、この前の暴言を詫びるのです。

 「私、本当は分かってるんです。
 布美枝さんでなきゃダメなんです。
 布美枝さんが奥さんだから、先生は安心してマンガに打ち込めるんだと思います。

 先生は考えたことないんじゃないですかね、布美枝さんがいなくなる、なんて。

 だって布美枝さん、この花みたいですもの。
 いつもそこにあって、目立たないけどよーく見ると可憐な花が咲いてる。
 それでいて、根っこはしっかり、たくましく伸びてるんです。
 布美枝さん、ナズナみたい。
 だから先生、安心して一緒にいられるんですね」

 そしてはるこチャンは、茂に対する思いを、つい口走ってしまいます。

 「私、先生のことを好きだったんです」

 それを聞いて、とても複雑に表情をしてしまう、布美枝。 このときの松下サンのなんとも言えない表情、すごいなあと思いました。

 「あ! 変な意味じゃなく、先生の描くマンガが好き。
 先生のマンガに賭ける情熱が好き。
 それから…。
 先生のご家族が好き。
 先生と布美枝サンの関係、羨ましいです」

 笑いながら、そっと涙をぬぐうはるこチャン。 「それは、気付いてもどうにもならない思いでした。 布美枝はそっと受け止めて、胸にしまうことにしたのです――」 という野際サンのナレーションが、はるこチャンの本当の思いを静かに打ち明けてくれます。 やっぱり、恋愛感情もちょっこし入っていたんですね。
 この一連のくだりは、「ゲゲゲの女房」 のなかでも、完成度のとても高い部分のように感じました。 アッキーナ、なかなかよかったですよー。 俳優として、じゅうぶんやっていけると思います。 今後に期待です。

 それにしても、こないだの帰省編の時に出番のあまりなかった茂の両親(風間杜夫サン、竹下景子サン)でしたが、ドラマの作り手は意外なところでその穴埋めをしてくれましたね。
 風間サン(イトツ)が小説出版の甘言に乗って竹下サン(イカル)を連れ東京にやって来る、という話は、先ほど書いたように、はるこチャンを心から元気づける話の伏線となりました。
 来た早々、テレビを買ったくせに相変わらず風呂をもらいに来ていた兄夫婦をイカルが一喝するくだりは、なんか胸がスッとした、と言いますか(笑)。

 「こげな貧乏所帯に…」

 目を丸くする布美枝(笑)。

 「風呂もらうなら、銭湯代くらいおいていきんさいよ!」

 そーだそーだ(笑)。

 小説出版の話の最中に現れた浦木(杉浦太陽クン)、間がいいんだか悪いんだか、「小説を出版したいという人をだまして金儲けする」 という話を玄関先でとうとうと語る(笑)。
 「こんな悪い男と一緒になって悪さをしてるのか」 とイカルの矛先が茂に向かい、茂が狼狽しながらなんにもやっとらんと強弁するのですが、やってましたよね(笑)、「少年戦記の会」。 「女房がしっかりせんけんこげな怪しい人が出入りするがね!」 と次の矛先は布美枝に向かい(笑)、助け船を出したイトツも撃沈(笑)。

 「もっ! 誰もかれも…

 しっかりしてごしなさい!」

 シャンとする一同(笑)。
 なんか、スッキリしますなあ。 こんないいキャラの人の出番が少ないのは、誠にもったいない。 しょっちゅういたら茂兄弟は戦々恐々でしょうけど(笑)。

 そのイカル、「こげな貧乏所帯」 に嫁いできた布美枝に、ある夜両手をついて頭を下げるのです。

 「お父さんが刺激受けた三浦綾子という人ね、『氷点』 書いた。
 茂と同い年らしいわ。
 それも脊椎カリエスで長いこと寝たきりだったとね。
 諦めずに書いた小説が、大当たりして、一躍人気作家だが。
 ハハハ…。 40過ぎて陽の当たることもああだけん、茂もまだまだ諦めることはないわ!

 けど…。

 貧乏暮しのままで終わるかもしれんよ。
 ずっと、売れないマンガ家のままかもしれん。
 それでもそばにおってやってね?
 苦労かけるかもしれんけど、あんたは女房だけん。
 一緒にやってごしなさいね…。
 どうぞ…お願いします!」

 親の思いがじわじわ伝わってくる、とてもいい場面でした。 泣けました。
 ここで寝ていたはずのちいさな藍子チャンがいつの間にか起きていて、 「どーぞお願いします」 とマネをするのにも、胸キュンキュンでありました。 しかも、ここでも自分のやりたいことをし続けることの尊さをさりげなくかませている。 なんという構成だ。 凄すぎ。 

 さて、少年ランドの若い編集者の目にとまった茂のマンガですが、執筆依頼という千載一遇のチャンスに、自分の得意のマンガでなければチャンスを逸する、と考えた茂は、その話を断ります。
 これは、自分の描いているものによほどの自信を持っていなければ出来る所業ではありません。 そうでなければ、はるこチャンをはじめとしてマンガ家をあきらめた人々のように、とうの昔に筆を折っていたに違いないのです。 茂は、勝負に出たのです。

 とうとう出口が見えてきた貧乏暮しですが、その振幅の激しさがどうやって描かれていくのか、ますます目が離せなくなってきた 「ゲゲゲ」 なのです。

 最後に、太一クン(鈴木裕樹サン)も厚木に引っ越し、ということになってしまいましたね。
 「ゼタ」 の編集部に持って行った彼の詩集なんですが、とりあえず当ブログは 「詩集」 ということもありますし(どこがじゃ?)、ちょっと彼の詩をここに掲載してみたいと思います。


 幻の沼

ほんとにあるのに僕には見えない
見えないけれど そこはある
とても遠いところだが
あの娘は行ったことがある

深い 深い 山の中
ぽっかり浮かぶ 沼がある
海豚と岩魚が棲む場所
ザバンドブンと泳ぐ場所
鮭の親子は共にいる

どこまで行けばあの娘に会える(以下ワカリマセン…)


 リズムが中途半端なように感じるのですが、体言止めのテクニックとか、「よくあるよなあ、こんな詩…」 と思わせるにじゅうぶんの出来のように感じます。 こんな一瞬しか写さない詩がちゃんとできたものになっていることに、ちょっと驚きます。 この沼の話でまた一つエピソードができていましたし、物語とちゃんとリンクしているのもすごい。
 まあNHKの場合、ドラマで出てくる食事も相当うまいらしいですし、こんな細部にまでこだわっているのがよく分かる話ではあります。
 もしかしたらモデルでもいるんですかね、太一クンには?

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