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2010年7月25日 (日)

「ゲゲゲの女房」 第17週 村井家ビフォー・アフター?

 今週からタイトルバックが一部リニューアル。

 自転車に乗っている布美枝(松下奈緒サン)の身振りや、茂(向井理クン)と布美枝が自転車を並走する調布市の町が、以前の片田舎的な風景から、数件の家が見える仕様へと様変わりしました。

 同様に、漫画賞を受賞してからを描いた今週の 「ゲゲゲの女房」 は、先週の福の神の助走から一気に別なドラマに変貌したかのような雰囲気。 布美枝でなくとも、ちょっと戸惑いを覚えるほどです。

 ただ話としては相変わらず揺るぎのない面白さで、環境の激変で移ろいゆく人々の感情が、そのままドラマ自体の大きなうねりとなっているところが、脱帽…した帽子をかぶり直す暇がないくらいであります(笑)。

 そのなかでも私が最も注目しているのが、菅井伸(柄本佑サン)という、どっかで聞いたような名前の(笑)、マンガの画才が全くない(でも彼の絵って、後世 「ヘタウマ」 と称されるようになる、味のあるまずさのような気がするんですけどね…笑)アシスタント。
 彼は茂がアシスタントを募集したところ集まった、「ワケの分からん人々」 の中のひとり、みたいな感じで最初は登場したのですが、なんだかんだと結局居着いてしまったような感じで(笑)。

 この 「アシスタントにヘンな人間ばかりやってくる」 という構図、ちばてつや氏のマンガ 「練馬のイタチ」 でも以前同じようなことが描かれていて、よくあるんだなぁこんなこと、という感じで見てました。

 しかしこちらの菅井きんサン、じゃなかった(笑)菅井伸クンは、絵がまずいだけならまだしも(それじゃダメじゃん…笑)、鉛筆の下書きを消しゴムで消そうとして紙をぐしゃぐしゃにしてしまうわ、原稿にコーヒーをこぼしてしまうわ、それ以上に何を頼まれてもマヌケなことばかりやっている様子。

 こういう、なにをやらせても不器用な人間って、個人的にはとても感情移入してしまうんですよ、自分が同じような要領の悪い人間ですので。
 つまり、こういう人というのは、世の中に対して、耐性がない。

 世渡りがうまい人は、自分がもし初めての場所で働くことになっても、だいたいこんなふうに仕事が流れていくのだろうということを、かなり上手に把握できる。
 ですが 「要領の悪い人間」、というのは、応用力が効かない。 だから仕事場の把握が簡単に出来んのです。
 しかも、仕事においてここがキモだ、というところが分からないため、無駄な動作が多過ぎる。 無駄で済めばいいけど、それが周囲に迷惑を及ぼすことが、また多いんだこれが(笑)。

 このスガチャン(藍子チャン命名…笑)、茂から 「カンピョウのような男」 と評され、実際栃木の実家がカンピョウ農家だったというオチには笑いましたが、そのあまりの使えなさに 「やめさせよう」 という話が出たとき、布美枝も茂も両方とも、あまり乗り気ではない。 これは、ちょっと注目に値します。

 これは、村井夫妻が自分たちの仕事をドライなビジネスとして考えていないことを意味している気がします。 スガチャンを恵まれない人として夫妻が認識するがゆえに、彼の弱点に目をつぶろうとしている。

 しかも、マンガ家にとっては命よりも大切な原稿用紙に対するスガチャンの扱いを怒っていた茂だったのに、「仕事でも、ええとこはある。 『点を打て』 と言えば一日中点を打っとるし、『渦巻きを描け』 と言うと、一日こう、グルグルグルグル描いとる。 根気のよさなら、人には負けん」 と、おおらかなところを見せるのは、いかにも水木サンなら、って感じです。

 まあけれども、茂がスガチャンを残しておきたいホントの理由は、「見とったら面白いことだ」 ったらしい(笑)。 このウザったさを受け入れる器量、というものは、人間いつでも持っていたいものです。

 さて、殺到した仕事を茂は次から次から請け負っていく。
 今回アシスタントを導入しようということになったのも、茂が全く仕事の依頼を断らないがために招いた事態なのです。
 仕事を断らない茂を見ていて、私は何より、茂のその自信がどこから来るのか、ちょっと驚きながら見ていました。
 なぜなら、マンガというものは一朝一夕でできるような代物ではない。
 話がつまらなければすぐに打ち切られてしまうし、簡単に話が思い浮かぶようなものでもないからです。

 しかし、私の心配を見透かしたように、茂は、こう語るのです。

 「少しくらい売れたからと言って、この先も同じように仕事が来るとは限らんぞ。
 マンガも、紙芝居や貸本のようにいつダメになる日が来るかもしれん。
 また貧乏神に付け込まれてはたまらん。
 忙しくても今が踏ん張り時だ。
 せっかく来たいい流れを、逃すわけにはいかんのだ」

 少年ランドからの連載依頼を最初断ったときもそうだったのですが、茂は相変わらず、勝負に出ています。
 時を逃さない、というこの茂の態度には、大いに学ぶべき点がある気がする。
 マンガが 「紙芝居や貸本のように」 ダメになってしまうのは、結果的には茂の杞憂にすぎませんでしたが、現代のメディアの多様化から言って、マンガがこの先も安泰であるということは、一概には言えないのです。
 風間トオルサンから 「鬼太郎」 の映像化の話が来た時も、一本の映画よりも、毎週続けて見ることのできるテレビのほうを茂は選ぶ。 先見性にも長けていた、茂の戦略です。

 それに対して異論を唱えたのが、浦木(杉浦太陽クン)。
 この浦木、茂がビンボーのどん底にいた時には結構的確なことを話しておったのですが、今回 「映画のほうをとれ」 と茂に進言する。

 浦木のその選択は、金儲けが念頭にあるために、目先の利益にばかりにとらわれている。  つまり、茂のように、長期的な展望に立っていない。
 時代の潮流を読み切れない男の限界を、ここで作り手は鮮やかに描いているのです。

 そして今週もうひとり、時代の潮流に乗れなかった男として、茂の長年のパートナーだった戌井(梶原善サン)を配置している。
 水木プロダクション設立パーティに遅れてやって来た戌井、大量のバナナを持ってくるのですが。
 この小道具が 「場違いなものをお土産にしてしまった」 と言う戌井の自虐を描きながら、「このバナナのお土産こそが何よりも貧乏時代の苦しみを知っている者同士の共通のアイテムだ」 という布美枝の感情を導き出す。

 結局、水木しげるの才能をじゅうぶん認識していながら、世の中に正しく送り出すことができなかった戌井の思いとは、どんなものだったでしょうか。 それを考えるととても切ないものがある。
 戌井はパーティの輪の中に入れず、村井家の家の外で昔話を布美枝とするのですが、この疎外感には正直、悲しいリアリティを感じました。 自分も、パーティって、あんまり得意じゃないんですよ。 「水木しげるはもっともっと大きくなる」 と語る戌井。 成功したことで蟻のようにまわりに人がたかってくる、茂。

 ここでアシスタントたちについてですが。

 ペンキ屋をやっていたという倉田(窪田正孝サン)、おそらく 「男組」「クライング・フリーマン」 を後年描くことになる池上遼一サンでしょう。
 もうひとり、茂が深大寺でスカウトした小峰(斎藤工サン)は、つげ義春サンでしょうか? 「ねじ式」「ゲンセンカン主人」 など、水木マンガのタッチそのままの画風で不条理な世界を描き出し続けた 「ある意味」 巨匠なのですが。 私も高校時代、ハマりました~。 マンガ好きな人なら読んでおくべき重要な作品が、いくつもあるマンガ家サンです。

 つげサンのほうは不確かですが、いずれにせよ水木サンとこのアシスタントには、すごい人物が大勢絡んでいるのです。

 そこに兄嫁である愛華みれサンが経理で加わって、手狭な村井家の一軒家は完全に飽和状態(笑)。 茂はブチ切れした勢いで、村井家の増改築を強行(笑)。

 手広くなった台所で角砂糖を探すうちに、この場所に来た当時なにもなかった台所を思い出し、感慨にふける布美枝。
 戌井にもこの環境のあまりの激変ぶりを 「怖い」 と告白していた布美枝でしたが、源兵衛(大杉漣サン)がよこした布美枝の2度目の出産助っ人いずみ(朝倉えりかチャン)には、身内だからという安心感も手伝ってか、このように話すのです。

 「これから何が起きるのか、どげなふうに変わっていくのか…。
 心配なような、楽しみなような…。
 いろんなことが、急に起こったけん、気持ちが追い付いとらんのかもしれん。
 …けど、なにがあってもついて行かんとね。
 お父ちゃんががんばっとるんだけん、私もいっしょに、やっていかんとね」

 そしていずみと一緒に、おばば(野際陽子サン)の寝物語を思い出す布美枝。

 「怖いけど…面白い。
 お父ちゃんのマンガと一緒だ…」

 戌井の持ってきたバナナもそうでしたが、今週の 「ゲゲゲ」 では、ビンボー時代にいろいろキーワードになった食材がほかにも出てきましたよね。

 貸本会社の社長の冷たい言葉に打ちのめされた布美枝が気を取り直して買ってきた、コーヒー。 ふたりで分け合って飲みましたよね。

 肉がないのでキャベツを大量に切ってパンパンにつめたギョーザ。

 そのひとつひとつが、いくら状況が変わっても変わることのない夫妻の気持ちを象徴しているようで、環境が激変したにもかかわらず、安心してドラマを見ることができた安心感につながっていた気がするのです。

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