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2010年7月28日 (水)

「天使のわけまえ」 第4回 逃げる人たち

 このドラマの感想で前回も書いたのですが、このドラマ、見終わる頃にはなんだか悲しくもないのに自然と涙が出てくるのです。 私にとっては初めての体験ですね。

 河口恭吾サンの主題歌がメチャクチャいいのも一因ですが、BGMもまたことのほかいい。 そして、じわじわと人の優しさが感じられるような作りになっているところが、最大の原因かな、という気はするのです。

 このドラマの中心には、主演のくるみを演じる観月ありさサンの料理があることは論を待たないのですが、だからと言って観月サンの演技が、押しつけがましいというわけでは、けっしてない。
 彼女は何かトラブルがあればオロオロしてメソメソするし、悩んでいる相手に、特別目からウロコ、の的確なアドバイスをしているわけでもない。

 彼女の作る料理にだって、グルメ漫画のように、食べた瞬間富士山が噴火したり(笑)まわりのものが光輝いたり(笑)するわけでもない。 ただ、あるがままに、人を感動させるだけなのです。

 でも実は、こんなありきたりな素朴な料理が当たり前のようにあることの幸せ、というあまりにも平凡すぎる事実に気付かせてくれる、そんな柔らかな力をこのドラマから感じるのが大きいんですよ。

 今回くるみたちは建設現場のキンパツ君の持ってきた話で、結婚式のケータリング(仕出し)をすることになり、自分流のレストランを開業しようという夢を持っている八百屋のオニーサン(佐藤祐基サン)に相談するのですが、彼はあからさまに不安を口にする。 ともさかりえサンや西原亜紀サンが食ってかかるのも当然、というような冷たいお言葉の数々。

 私も観月サンの料理の腕を見続けているので特に気にするほどのこともなく、そーだそーだと彼女たちに同調していたのですが、じゅうぶんすぎるほど用意周到に見えたこのケータリングのお仕事、当日になってスタッフのひとり西尾まりサンが子供の病気で途中離脱。
 ここから彼女たちの焦りが加速し、戦力的にウィークポイントと呼べるともさかサンのやらかす失敗によって、完全に50人分の料理は行き詰ってしまう。
 料理の目玉とも思えるローストビーフは真っ黒焦げ、それに気を取られて別の揚げ物まで真っ黒に。

 ここでともさかサンはひたすら謝り続け、西原亜紀サンは怒りをともさかサンにぶつけ、「もうできない」 と勝手にキレてあきらめモード。

 ここで主役たる観月サンがなにかいいアイディアでもひらめいて万事解決か、と思ったんですよ、見ていて。

 ところが、彼女もボー然自失で、なにをしたらいいのか真っ白状態。

 この展開にはシビレましたね。

 普通のドラマでは、主役の人が得意なことを生かして難局を乗り越える、というパターンじゃないですか。
 ところが、観月サンはこのドラマにおいて、スーパーウーマンではないんですよ。
 結局野菜を新たに調達するために現れた佐藤祐基サンによってこの難局は乗り越えられるのですが、「だから安易に引き受けるなって言ったんだよ! オレはこういうのがいちばん腹立つんだよ!」 と激昂する佐藤サン、シェフの夢を追い続けている男の仕事に対する毅然とした責任感を強くにじませる演技で、まったく嫌味を感じさせない。

 佐藤サンはくるみたちの頼みを聞いてほうぼうに連絡、ローストビーフの簡単な作り方についても知識をいかんなく発揮して、あまりにも頼りになりまくりの存在感を見せつけたあげくに終わったらさっさと退場。 まるで日活アクション映画の主人公のような活躍でした(笑)。

 佐藤サンはこの絶望的状況の中で 「逃げない、あきらめない」 という姿勢をくるみたちに見せつけまくったわけですが、くるみもいったんあきらめかけたのと同様に、今回のドラマのなかでは、困難から逃げてしまういろんな人の姿を描いていたような気がします。

 この当の結婚式を挙げるふたりも、ミュージシャンを目指していたからこそ付き合っていたというカノジョのほうが、カレシが音楽をやめて働く、と言い出したことから、結婚式もやめる、と言い出す。
 カノジョはそれをのちに悔やんで観月サンに打ち明けます。

 「なんで私、あんなこと言っちゃったんだろう…。
 『音楽続ける自信がない』 なんて、彼がいまいちばん苦しんでいることを、分かってたはずなのに…。
 あの人、たぶん逃げてるんです、自分の夢から…。
 もしも私が、そういう思いをさせてしまったとしたら、私のせいだとしたら…」

 そんな彼女に、観月サンはメレンゲで作ったマシュマロ菓子を彼女に差し出し、こう話しかけます。

 「パーティに来た人に、お土産に渡したらどうかと思ってね、作ってみたの。
 私の夢だったの。
 自分の結婚パーティに来てくれた人に、こんなマシュマロを渡したいなあって。
 ま、叶わなかったんだけどネ。
 …食べてみて」

 そのマシュマロを食べながら、涙をこぼすカノジョなのです。
 ここらへんのくだり、なんだか全く何の変哲もない、気の利いたセリフもない場面なのですが、なんか、泣けてくる。 先週に引き続いて私、ドラマの魔法にでもかかってしまったようです。

 「どんな生き方を選んだとしても、きっと幸せになれるわよ…だって、こぉーんなに好きなんだもん、カレのこと」

 こうでなくちゃならない生き方なんて、ホントはないんじゃないか。
 カレがミュージシャンの夢をあきらめて仕事を探してきた、というもの、カレにとってみれば必死の行動だったに違いないのです。 自分の信じてきた道以外の仕事が、どんなに場違いに思えることか。
 必死になって生きていこう、とすれば、どんな生き方だって、間違いじゃない。
 くるみの何気ないセリフには、そんな重大な意味が隠されているような気がするのです。

 ケータリングの混乱の中でくるみたちの料理運びに協力し、このふたりの結婚式を見ることになった、イッセー尾形サン。
 大滝秀治サンから招待状が送られてきた、自分の捨てた娘の結婚式のことに思いを致したせいか、かなり複雑な表情。
 というのも、捨てた女房のところへ勇気を振りしぼって電話をしたのはいいのですが、そこに割って入った娘の 「家にはお父さんなんていないわよ!」 という言葉が胸を貫いているからで、結局その電話でも、自分は一言も発することができなかった。
 逃げ続けている自分と対峙する瞬間が、刻一刻と迫っているようです…って来週最終回なんだから、そーなんですけど(笑)。

 そして今回ラストに現れた、細川茂樹サン。
 いったん野村周平クンの前に姿を見せた時は一目散に逃げて行ったのですが、ラストの細川サンはヤケに自信満々そう。 宝くじでも当たったんでしょーか?(笑)

 ああもう来週最終回なんて、短すぎっス。 今クール最高作品です、このドラマ。

当ブログ 「天使のわけまえ」 に関するほかの記事

第1回 手作りの料理が幸せを運ぶ
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/07/1-32da.html
第2回 さりげなさに包まれたドラマhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/07/2-061f.html
第3回 気まずい食卓http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/07/3-d0ef.html

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BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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