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2010年8月 7日 (土)

「ゲゲゲの女房」 第19週 漠然とした願いと覚悟との狭間

 「ゲゲゲの鬼太郎」 という題名の誕生秘話を織り込み、「鬼太郎ブームがやって来た」 などという副題がついていながら、「ゲゲゲの女房」 第19週の話のメインは、布美枝(松下奈緒サン)の妹で上京中のいずみ(朝倉えりかチャン)と、茂(向井理クン)のアシスタント倉田(窪田正孝サン)とのラヴ・ストーリー。 現代よりもだいぶ奥手の、まさしく 「前世紀の遺物」 的な(笑)秘められたスローモーションの恋愛が展開していくのです。 この奥ゆかしさが、なんと言っても心地よい。 そしてそこから見えるものは。

 いずみチャンは、当時の女性としては相当進んだ感覚。
 厳格な父親(大杉漣サン)と真っ向から対立していたのも記憶に新しいですが、布美枝の出産に伴う手伝いが大きなチャンスとばかり調布に居ついたままなのです。

 彼女は、自分が東京で、何かできるかもしれない、という、漠然とした夢を描いている。
 だからおつかいで出向いた少年ランドの編集部の様子に目を輝かせ、加納(桜田聖子サン)のビジネスレディぶりにも大いに触発される。

 そんないずみチャンに実家からお見合いの話が舞い込むのですが、布美枝は厳格な父親にあまり逆らうことなく育ってきたからなのでしょう、いずみチャンがどんな思いで東京に出てきているか、そして彼女が誰を好きになっているかにあまり頓着せず、見合いの話をいずみチャンに勧めるのです。
 そんな布美枝に、いずみチャンは激しく反発します。

 「女の人だって今は、布美姉ちゃんみたいに旦那さまあてにして生きていく人ばかりじゃないけんね!」

 ここでのいずみチャンのキツーイ一発は、小太りの編集者北村(加治將樹サン)とかサエないスガチャン(柄本佑サン)とか(笑)名前をあげて、いずみチャンの本命を言い当てられずにいる布美枝へのいらだちも混じったんだと思うんですよ(笑)。 言ったそばから 「あっ…」 と気付いて、言ってはならないひとことを言ってしまったことを後悔するいずみチャン。
 布美枝も 「痛いところを突かれた」 という感じで、なんとも言えない複雑な表情をするのです。
 松下サンの顔の演技って、この前も指摘した気がするのですが、ちょっとハッとさせられる時があります。

 布美枝はいずみチャンに改めて、こっちで何がしたいのか話してほしい、と尋ねるのですが、いずみチャンにも、自分がいったい何がしたいのか分からない。
 というより、倉田クンが自分のことをどう考えてるのかが分からない(笑)。 「仕事探そうかな」 などと言っておいて、結局それかい!(笑)と言いたくなりますが、漠然としたビジネスレディの願望よりも、恋愛問題のほうがよりリアルだった時代なのですから、仕方ありません(笑)。

 いずみチャンの 「後悔の一言」 は、懐かしい中森(中村靖日サン)が村井宅を訪ねて来た時に打ち明けた話で、その氷解のきっかけをつかむのですが。

 その昔、夜中にトイレを借りようと降りていくと、夫婦揃ってカリカリとマンガを描いているのを見た、「あの頃の、先の見えない泥沼のような苦しさ、あれを乗り切ったのは、奥さんが一緒にいたからこそですよ」 と語る中森の言葉に、中途半端ではない苦労が成功に至るまではあったのだ、という認識を強くするいずみチャンなのでした。

 あの一言を謝るいずみチャンに、けれども布美枝はこう答えるのです。

 「ここでやっていくしか、なかったんだもん。
 それに、悪いことばかりじゃなかったけん。
 いつもとなりで、茂さんが仕事しとった。
 ペンの音が聞こえてきて、マンガ描いとる背中が見えて。
 あのころは、いっしょにがんばっとるような気がしたなぁ…。
 けど…。
 今は時々、お父ちゃんの背中が見えんくなるときがある」

 貧しかった昔を懐かしがる布美枝の現在の疎外感。
 貧しかったときのほうが、肩を寄せ合って生きていた、という、そのときなりの喜びがあった。
 貧乏時代を2カ月にもわたって見せられていた側としては、この布美枝の孤独感が、強く身に迫ってくるのです。 ちょっと鼻に、ツンと来ます。

 いっぽう倉田クンのほうは、スガチャンからいずみチャンへの恋心を打ち明けられて、はじめて自分がいずみチャンを好きだということに気付く極度の恋愛鈍感症(笑)。
 ここらへんの描写、倉田クンがあまりにもマンガ家として独り立ちすることにばかり目を向けているような感じで、見ている側にも倉田クンのいずみチャンへの恋心にちょっと気付きにくい、というほどの演出方法。 これがいいんです。

 マンガの新人賞へ応募する原稿をいずみチャンに大急ぎで郵送してもらったお礼に、「何かお金では買えない物」 をいずみチャンから要求される倉田クンなのでしたが、それを自分がマンガ新人賞の大賞に選ばれることと決めた倉田クンは、思った通りの作品ができないと、焦って茂に相談します。

 「一生懸命なのはええが、焦ったらいかんなあ。
 じっくりやんなさい。
 促成栽培では、すぐに枯れてしまうぞ。
 本を読んだり資料を調べたり、もっと勉強せんとな。
 早こと世に出ても、すぐに消えてしまっては、なんにもならんぞ。
 どんなに好きでも、マンガを描き続けるというのは苦しいもんだ。
 脳みそが空っぽになるまで考えて、スカスカになってもまだひねり出さねばならん。
 今のうちに勉強しとかんと、すぐに脳みその貯金がなくなるぞ。
 近道を探したらいけん。
 近道行ったら、その先は、…行き止まりだ」

 まあ実際の話、倉田サンのモデルである池上遼一サンは、どちらかというとオリジナルストーリーを得意とするマンガ家ではなく、原作者とタッグを組んで最高の価値を生み出すマンガ家として、その後に君臨していくわけですが。
 それに、現在は池上サンはチョーうまいマンガ家であるのですが、やはりデビュー当時は、比べ物にならないくらい、絵が稚拙だった気がします。 出世作 「男組」 の最初の方などは、同じ人が描いたとは思えない感じがするのです。
 やはり、この人は、努力の人です。
 努力して努力していった結果、あそこまでの絵師に上りつめた。

 話戻ってその矢先、ゼタの合併話破綻の夢破れた深沢(村上弘明サン)が、よろよろと口から血を流しながら村井家を訪ねてくる。
 結局相手の会社が欲しかったのは、ゼタの抱える有名マンガ家だけ。
 利益至上主義の編集方針と、深沢の人材発掘養成の方針とはそりが合わず合併は決裂、加納も深沢のもとを去っていくのです。

 深沢を見捨てたかのような加納の行動に、いずみチャンは 「冷たい人なんだね」 とごくフツーの反応をするのですが、布美枝の見立ては、ちょっと違う。

 「仕事をして生きていく人だけん、きっと、大事なものを捨ててでも、やりたいことがあったんだわ」

 「私には分からんわ」

 「私にも、よう分からん。
 けど、それだけの覚悟をして、仕事をしておられたんじゃないのかな。
 郁子さんも、深沢さんのこと、お好きだったんじゃないだろうか。
 おふたりとも、つらい思いされただろうな」

 そんな深沢や加納の覚悟や、倉田の覚悟、茂の変わらぬ努力をほめたたえる布美枝を見ながら、いずみチャンも自分の漠然とした夢に、覚悟というものがなかったことを、実感していく。
 今週の 「ゲゲゲ」 の底流には、この 「覚悟」 というキーワードがあった気がします。
 そしてこの覚悟を学んだいずみチャンは、安来に帰る決心をするのです。

 倉田クンのいずみチャンへの 「お金では買えない」 お返しは、いずみチャンが安来へ帰るその日、手渡されます。
 それは倉田クンが描いた、いずみチャンのポートレイト。
 おそらく倉田クンはいずみチャンの写真など持っていなかったでしょうから、想像で描いたんだと思うんですよ。
 それが、満面の笑顔の、いずみチャンの顔。

 「いつまでも、こないして、笑うてくれたらええな」

 涙をためながら、あふれる思いを胸にしまい込んだまま、精一杯笑顔になろうとするいずみチャン。

 「だんだん…」

 あまりにも、プラトニック。
 こういう純愛のストーリーは、私久々に見ました。
 別に 「愛」 っていうのは、世界の中心で叫ばなくてもね(笑)。

 その倉田クンもマンガ新人賞の大賞を射止め、小峰クンもまた旅に出るという。 残るはいちばん頼りないスガチャン(笑)、そこにやってくるのがイトツ(風間杜夫サン)とイカル(竹下景子サン)。 時の移り変わりを予感させながら、来週は藍子チャンが布美枝の少女時代を演じた菊池和澄チャンになるようです。
 とここでちょっと解せなかったのは、藍子チャン役の女の子、今週だけだったんですか?ということ。 一週だけで交代なら、先週までの篠川桃音チャンでよかったのに、という感じですけど。

 いずれにせよ親をわが家に招き寄せることができるというのは、子どもにとって結構勲章のような気がするものです。 イトツもイカルも、ビンボー時代は放っといたくせに今頃なんだ、と思われる向きもございましょうが。
 ただこの夫婦、そーとーキョーレツな個性の持ち主(笑)。
 村井三兄弟はそろって戦々恐々としておりましたが、それにしてもオニーサン(大倉孝二サン)、まだ風呂ないんですかぁ?(笑)

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