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2010年8月14日 (土)

「ゲゲゲの女房」 第20週 見えないもの、見えなくなるもの

 前週から月日は飛んで、昭和47年(1973年)。 改築に次ぐ改築で、まるで忍者屋敷のようなってしまった(笑)村井家の様子が、冒頭からコミカルに描写されます。
 しかしながら、この迷路のようになってしまった村井宅の構造自体が、村井家が陥ってしまった歪み、閉塞感を結果的に象徴している。 これは興味深い部分である気がします。

 その歪み、閉塞感というのは、多忙極まる茂(向井理クン)を中心とした、家族間のコミュニケーション力の低下が大きな原因となっていることは明らかです。 小学4年になった藍子(菊池和澄チャン)が学校で 「鬼太郎」 の作者の娘であることがばれ、好奇の目で見られたりからかわれたりすることが、その源泉になっている。

 それにしても、現代急速に発達してきた 「個人情報秘匿」 という概念そのものがなかったような当時のありかたには、若い世代ほど違和感を抱くのではないでしょうか。 私は藍子チャンよりイッコ下ですが、当時は学級の連絡網など当然の常識でした。 何かあったときにリレー式で電話をかける表が作成され、クラス全員に配られるんですよ。
 布美枝が夫の職業欄にそれまで 「自営業」 と書いていたのを 「マンガ家」 と書きなおしたとしても、どうしてそう変えたのかとか、布美枝の側には大した意識など働いていない気がする。 ただ布美枝の意識のなかでは、「お父ちゃんの職業に誇りを持っている」、ということが、「マンガ家」 とあえて書いてしまった動機になっている。 藍子チャンにもそのことに誇りを持ってもらいたい、そういう気持ちが働いているのです。

 「お父ちゃんは一生懸命マンガ描いとるんだよ。 何にも恥ずかしいことしてない。 なして隠さんといけんの?」

 これを現代の価値観から見ると、布美枝がとても子供の気持ちを考えていない鈍感な親のように思えてくる。 でも、そうじゃないんです。

 何か嫌なことでもあったの?と訊く布美枝に、藍子チャンは 「別にない…」 と答えてしまいます。
 小さいころからずっと手のかからなかった子どもだった藍子チャンは、自分の父親の多忙さを、まさに目の前で見続けて育ってきている。 父親が会社に行って家にいない、というのとは大違いなのです。 父親の姿を見ているからこそ、藍子チャンは親に気を遣ってほんとうのことを口に出せない。

 村井家の家訓みたいな感じで、「寝ている子は起こさない」 という世間から見れば常識はずれのように思える決まりごと。
 これはもともと茂が子供時代、どんなことをしても朝起きてこない子どもで、遅刻の常習犯だったことが大きな原因なのですが、藍子チャンの担任の先生の指摘で、見る側は藍子チャンが、結構遅刻を実際にしていたことを知るのです。

 実際に遅刻していたとなると途端に目くじらを立てる向きもあるのでしょうが、考えてみれば、なにをするのにも桁外れ規格外の行動ばかりしていた茂が、ここまでの人物になっているのです。 子供時代にどんな問題があろうが、そんなことはたいしたことではない、という村井夫婦のスタンスに、反論できる余地などまったくない、そう私には思えてなりません(問題なのは、子供がいい大人になってから問題を抱えているケースのほうでしょう)。

 茂の幼い頃の話をリアルに見せるために、作り手は調布に同居するようになった茂の両親を狂言回しとして利用します。
 茂の父親イトツ(風間杜夫サン)は布美枝に、こう話すのです。

 「おかしな子どもだったが、そげやって、人と違うことをやっとったことが、マンガを描く仕事に、つながったのかもしれんよ。
 あいつのマンガはよーう描けちょる。
 子供はぁ…。 そのうちなんとかなーわ、あ?ハハハハハ…」

 そんななか、藍子の担任の先生(堀内敬子サン)が家庭訪問に来るのですが、このときの水木プロの描写は、抱腹絶倒ものでした。
 スガチャン(柄本佑サン)がいきなり倒れ込んで来て、「奥さん…ぼくもう、ダメですっ…3日間ひたすら、点々を打ち続けて、…奥さんの顔まで、点描画に見えてきた…」 ガクッ(笑)。
 「救急車!」 と叫ぶ先生に、「大丈夫です、よくあることですから…」 と冷静にとりなす布美枝(笑)。
 目覚まし時計と共に編集者がやって来て、「先生ぃ~っ、出来てますかぁ~っ? 出来てないぃぃ~っ! これは落ちる、落ちますよぉぉ~っ! 先生ぃ~っ、お願いしますよぉぉっ…」 水木サン 「アンタ、背後霊じゃあるまいし、後ろに立たんでくださいっ!」(笑) スガチャン 「あああ~点々で目が回るぅぅ~っ!」(笑)。
 「なかなか個性的なご家庭ですね…」 と総評に入る担任の先生、いや、実にコメディの王道であります(笑)。

 しかしこの際、布美枝は藍子チャンが、行ってもいない高尾山に行ったという作文を書いていたことを知って、ショックを受けるのです。
 布美枝はそのことを藍子に問い詰めるのですが、ここで問い詰める、という方法は得策ではなかったですかね。 藍子チャンからは、当然のように反駁を食らいましたからね。 じゃあほんとうに高尾山に行こうか、というのがベストだと思ったのですが、このドラマはちゃんと、あとで素敵な解決策を残していてくれました。

 布美枝が子供のことにもっと目を配らなければならないとか、家の中で何もしてないとか、そんなふうに見るのは、前にも書きましたが、舅姑根性です。 そのことを明確にするために作り手がこの週再登場させたのは、布美枝の弟で婿養子に行った、貴司(星野源サン)でした。

 ミシンの販売員をやっていた貴司は、布美枝の長年使っていたミシンを見て、とても手入れが行き届いているミシンだ、と感心します。

 「姉ちゃんは、よーうがんばっとるよ。
 このミシン、使い込まれてよーう手入れされとる。
 これは、家族のために働いとるミシンだわ。
 姉ちゃんが家族のことを思って使っとるミシンだわ」

 この週の初めに、善子チャン(松本春姫チャン) のために作っていた、鬼太郎のぬいぐるみと、そのチャンチャンコ。
 袖を膨らませるかどうかを訊いていた、藍子チャンの服。
 さりげないことではあるのですが、布美枝が家の中のことをきちんとこなしている象徴が、このミシンだったのです。

 朝ドラヒロイン特有の、大きな夢とか野心とかが一切ない人物として、布美枝はちょっと、特別な存在です。 だからこそ、基本的な家事をこなしていることの尊さを、見ている側はこのミシンで感じるのです。

 高尾山の問題は、茂が富士山のふもとに別荘を購入する、という話で、発展的に解消します。
 布美枝の運転で一家4人がやってきたその別荘。
 わわっ、「北の国から」 だぁぁ~っっ!(笑)。 ボロッボロ(笑)。 屋根も赤いし(笑)。
 次の瞬間、純のイヤそーな顔、蛍の不安な顔をパブロフの犬みたいに思い出してしまいました(笑)。

 なにも考えていなかったような茂が、ちゃんと家族のことを考えている。
 この肩透かし感が、またこのドラマ独特の、安心感につながっている気がしてなりません。

 「父ちゃん、妖怪見たことあるの?」 と訊く藍子チャンに、電気のないロウソクの明かりのもと、茂はちっともたじろがず、こう言って聞かせるのです。

 「んー、ないなあ。
 お父ちゃんもはっきりと見たことはない。
 けど気配を感じたことは何べんもあるぞ」

 茂は戦争中にジャングルの中でぬりかべに遭った話や、天狗倒しの話をしながら、こう続けます。

 「昔の人は、いろんな妖怪の気配を感じて、それを言い伝えに残してくれとる。
 お父ちゃんはみんなが分かりやすいように、それをマンガや絵に描いとるんだ。
 目に見えるものしか信じない、というのはお父ちゃん間違っとると思うなあ」

 「見えるけど、おるんですね」 と布美枝。

 「ああ。
 お化けも妖怪も、見えんけどおる。
 人間はそういう不思議なものたちに囲まれたなかで、生きとるんだぞ」

 そして大きな物音を怖がる藍子チャンを見て、「それ見ろ! 怖がっとるのはお化けや妖怪を信じとる証拠だ!」 と指摘する。 なるほどです。

 見えなくなるものは、人の心も一緒です。
 忙しい、というのは 「心を亡くす」 と書く、などとよく言いますが、一生懸命になるあまりに、忙しさの中で何かが見えなくなってくる。 今まで見えていたものが見えなくなってくる。
 その見えないものに恐れおののいていては、その問題を解決することはできない。
 肝心なのは、それを恐れずに、仲間なんだくらいの気持ちで、不安や恐怖と付き合っていくことなのだ。
 週の終わりに、またとてつもなく深遠なテーマが隠されていたことに、あらためて驚きます。

 それにしても、藍子チャン役の菊池和澄チャン、布美枝の少女時代もそうでしたが、内気でネガティブな役をやらせると、とてもいいものを持っていますよね。 再来週まで出番があるようなので、楽しみに見守っていきたいと思います。

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