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2010年8月28日 (土)

「ゲゲゲの女房」 第22週 失って初めて気づく家族の愛情

 「おかあちゃんの家出」 という副題がついた22週目の 「ゲゲゲの女房」。 布美枝(松下奈緒サン)がプチ家出をしたことだけの話かと思っていましたが、弟貴司(星野源サン)の急死という展開や、美智子(松坂慶子サン)がなぜまた登場したかも含め、家族の誰かがいなくなる、という話で括れるような気がするのです。 そこに残るのはいつも、家族に対する愛情だけ。 泣けました。 ひょっとすると今までで一番泣けた週だったような気がする。 その人それぞれの、家族に対する思いが交錯し、凝縮し尽くした話の連続だったからです。

 家族の愛情というものは、いつもは当たり前すぎて、あまり有難味が感じられない。 たとえば母親や女房がご飯を作ってくれることでさえ、それが仕事だぐらいの感覚になってしまったりしている。 うまいだのまずいだの、まあ感謝することもあるでしょう。 でも、それがどんなにかけがえのないものなのか、という実感を得るには、その人がいなくなってみないと、真から理解することは難しいのです。

 仕事のゴタゴタを家に持ち込みたくない、という茂(向井理クン)は、出版会社の倒産という危機に襲われ、その穴を埋めるためにますます仕事にのめりこむ。
 そのせいでこれまでになく布美枝に仕事の心配をさせまいとキツイ態度になってしまっていたのですが、当の布美枝は限りない疎外感を膨らませていきます。
 さらに自らの思いを茂に綴った手紙が捨てられているのを見て、布美枝の孤独はもう爆発寸前。 いつもなら我慢できたであろう茂のそっけない態度に、ついにブチ切れるのです。

 「『いらんこと言うな。 口出すな』。 お父ちゃん近頃、いつもそればっかり!
 私にだって、気持ちはあるんです!
 何言っても…お父ちゃんの耳には、届かんのですけん…」

 家を飛び出して行ってしまう布美枝。

 いつも家にいる母親がいなくなったことで、次女の喜子チャン(松本春姫チャン)が 「お母ちゃん、お母ちゃん! …お母ちゃんが、いなくなっちゃった…」 と玄関先まで追いかけて泣き崩れてしまうシーンは、あまりに演技が痛々しくて、見ているこちらも泣きました。 うまいな~、この子。 台所で殊勝に後片付けをする藍子チャン(菊池和澄チャン)に 「お母ちゃんはどこ行ったの? なんで帰ってこないの?」 と泣きつく姿にも参りました。

 しかし、今週の 「ゲゲゲ」 泣かせ攻撃は、これがほんの序の口だったのです(笑)。 しかもこの喜子チャンのシーン、今週を貫くテーマとして象徴的なシーンだった気がするのです。

 布美枝の家出は文字通り 「プチ家出」 に終わったのですが、こんな今までになかった行動に出られた茂は、内心気が気ではない(笑)。 翌日布美枝が藍子チャンと喜子チャンを連れて買い物に出たのを子供を引き連れて家出したものだと勘違いして大騒ぎ、したらしいです(笑)。

 ちょっと話を飛ばしていきますが、茂が過労で倒れたことで夫婦の会話をすることができ、布美枝が抱いていたモヤモヤは雲散霧消します。
 この時点で今週の 「おかあちゃんの家出」 は終わった気がしたのですが、その矢先に故郷から入った電話。
 それは、布美枝の弟貴司が亡くなった、という知らせだったのです。

 今週の冒頭、精巧な作りの鬼太郎ハウスを喜子チャンに送って寄こし、「いい叔父ちゃん」 ぶりを全開にアピールしていた貴司が、海で波にさらわれ、3日後にやっと発見された、ということ。
 そんな状態であったため、遺体は急きょ荼毘に付され、布美枝と暁子(飯沼千恵子サン)が実家に駆けつけたときには、もうお骨になった後。 死に顔も拝めなかったというのも悲痛な話ですが、やはり源兵衛(大杉漣サン)たちの様子も、とてもいたましい。

 姉妹揃って実家に泊ったその日の夜、寝付けず酒屋の店のほうに行った布美枝は、ひと回り痩せて小さくなったような源兵衛の背中を見て、思わず声をかけるのです。
 そして貴司が死んだ後、一度も涙を見せなかった源兵衛が、絞り出すように男泣きをするのを、布美枝は見るのです。

 「…あいつは、親不孝もんだ…!
 …親より先に死んでしまうのは…。
 親不孝だわい…!
 …うっ…うっ…貴司……」

 あーダメです(笑)。 また泣けてきました(笑)。 くそー(笑)。 源兵衛サンには、おばばが死んだ時以来、ハチャメチャに泣かせていただきました。

 そして布美枝たちが東京に帰ろうという日、リューマチにもかかわらず、藍子チャンと喜子チャンにとどてらを縫って渡してくれる、母ミヤコ(古手川祐子サン)。 その心遣いも母親として、貧乏な時に何もしてあげられなかったという思いの裏返しだったりするのですが、いつも子供のことを気にかけている、そんな母親の愛情を強く感じることができるのです。
 そして話はいつしか、また貴司のことに。

 「お母さん、思い出しとった。
 貴司のちいちゃい時から、ずーっと。
 …何を思い出しても…笑ってる顔しか思い浮かばんのだわ。
 …あの子は子供の時から…いっつも、にこにこしとって…」

 ここで言ったん泣き崩れるミヤコなのですが、なんとか気を取り戻そうとする。

 「…泣いとったら、貴司が悲しがるね。
 お母さん、貴司の笑ってる顔がすきだけん。
 貴司に、悲しい顔さしたくないけん…。
 …もう、泣かんことにした。
 ああ!
 あんたも、元気出しなさいね!」

 涙を必死にこらえながら笑おうとする古手川サンに、またまたこちらもナミダ、ナミダです。

 東京に帰ってきた布美枝。
 「『お母ちゃんがいないと家の中が暗いな』、とお父ちゃんが言ってたよ」 と話す藍子チャン。
 晩御飯を食べていないという布美枝に、じゃあワシの特製てんぷらを食わしてやろう、と言うイトツ(風間杜夫サン)。
 誰もが互いに家族のことを思いやっているこの構図は、「家の中の誰かがいなくなる」 という思いで共通してつながっているのです。

 そしてその究極のシーン、やはり喜子チャンがさらって行きました(笑)。
 「しんでしまったって、どういうことかな?」 とお姉ちゃんに訊いて、「もう、あえないってことだよ」 と聞かされ、貴司叔父ちゃんに電話をするんですよ。

 「もしもーし! もしもし!
 貴司叔父ちゃんですか?
 鬼太郎のおうち、ありがとう!
 みんな待ってるから、遊びに来てね!
 もしもーし! 叔父ちゃん?」

 「めそめそしてても仕方ない」 と踏ん切りをつけようとしていた布美枝は、その喜子チャンの電話に、はからずも大粒の涙をぽろぽろ流し、座り込んで号泣してしまうのです。 思い出すのは、やはり笑顔の、貴司の姿。

 この 「笑顔」、というキーワード、実は布美枝がプチ家出をしたときにも、昔を懐かしむ言葉として使われていました。
 貧乏だったけど、あの頃のお父ちゃんには、笑顔があった。 いくら仕事が忙しくて貧乏から抜け出しても、あの頃のほうが私はよかった。
 本当に価値あるものって何なのだろう。
 源兵衛もその昔、「笑って暮らせているならそれでええ」、と言ってましたよね。

 そして貴司の死の悲しみからなかなか抜け出せない布美枝のもとにやってきたのは、懐かしい田中美智子サン。
 自分の亡くなった息子の墓を千葉に移動しようという目的で、やってきたのです。
 「これで智志(息子の名前)にさびしい思いをさせずに済むわ」
 と言って笑う美智子サンなのですが、家族がたとえ死んでも近くにいるということだけで安心できる気持ち、というのも、その人を失った悲しみを和らげるひとつの方策のような気がします。

 そして、貧乏だったあのころが懐かしくなる、という布美枝に、美智子は 「一生懸命だった時がいとおしいのよ」、と話します。 でも、今だってあとから考えれば、いとおしくなる。 それはあなたが今も頑張っているからだ、と励ますのです。
 美智子サンの再登場は、目的を失い、大事な人を失い、さまよっていた布美枝に改めて道標を示したような気さえします。

 茂は布美枝に、仕事をセーブすることを宣言。 普通の人からすればとても想像のできない超売れっ子になってしまったマンガ家と、その家族が、いったい何が自分にとっていちばん価値があるものなのかを模索しながら生きている。 「ゲゲゲの女房」 で描かなければならないものは、まだまだ多いようです。

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コメント

貴司を亡くした安来の家の人たちの悲しみようもですが、
布美枝が調布に帰ってきてから
義父義母があれこれと気をつかってくれ、
イトツが「天ぷらを揚げてやろう」と言い出した時には泣けましたね〜〜
有り難いじゃないですかー。

急に仕事をセーブすると宣言されましたが
一日3時間て…
「同時に作業するのは2本まで」とかならリアルですけどね。
ヒマになっちゃったらアシ君たちはどうするんでしょう?リストラ?

投稿: マイティ | 2010年8月29日 (日) 00時34分

マイティ様
コメント連投、ありがとうございます。

憎しみ合っている家族は別として(笑)、たいていの家族は、互いのことを思いながら生きていますよね。 それでもどうしても、「そこにいるのが当たり前」 という感覚に陥ってしまう。 家族の誰かが欠けてしまう、という状態は、家族の有り難さを再認識するきっかけになるものですよね。

アシさん、まあリストラでしょうねえ(笑)。 でも来週は、どうやら茂にスランプがやってくるようですけどネ。 自分の意志に反して、仕事自体ができなくなってしまうよーな…?

投稿: リウ | 2010年8月29日 (日) 02時32分

 リーンです。ここに出没します。
 
『龍馬伝』で頭をコチコチにしたあと、一週間ずっとこのドラマでほっこりできます(今週は悲しみと隙間風でしたが)。週明けには加納さんが出てきましたし、もちろん美智子さんも現れ、再会を喜んで見ていました。朝ドラの喜びですね。

 その加納さんが水木家の家族写真をみて、望んでいたかもしれない幸せを思って後悔するシーンがありました。人生の出来事を悔やみすぎると、仕事も上手くいかなくなるのでは、と心配(登場人物を心配してどうするんでしょう)になりました。まだ、登場することがあるのかな、と期待しています。深沢さんのところに戻ってきませんかね。

 今週は一週間のストーリーを頭に入れて見ました。最初に、貴司が鬼太郎ハウスを贈ってきたことで、週の後半にある悲劇を暗示するのか、と脚本のうまさに関心しました。(もうひとつ、喜子が描いたヒゲのある父の絵と、ヒゲを生やした浦木の登場のリンク)泣かせどころ満載のドラマの底に張り巡らせる細かい複線、プロの技とはすごいものですね。

投稿: リーン | 2010年8月29日 (日) 21時23分

リーン様
コメント連投、ありがとうございます。

加納という女性は、ときどき布美枝の前に現れては、布美枝に自分の存在とは何なのかを再確認させる役割を担っている気がします。 布美枝は加納のようなキャリアウーマンを、すごいとは思いながらも、自分にしかできないことを全うしようと日々家事をこなしている。
加納サンにしてもそれは同様で、布美枝と話をすることで、自分が捨て去ってきたものを再認識している。
ドラマの中にこういう人物を配することで、平凡な主婦としての布美枝の存在感が立体的になっていく、そんな気がするのですが、その役割のほうに重点が行ってしまって、深沢との恋愛関係に発展するよりも、同志として終わってしまいそうな気は、いたします(笑)。

毎日見ているといろんな腑に落ちない点とかが噴出しそうな気がするのですが、ちゃんと一週間で落とし所に収まっていることが分かるような気がします。 これが一週間ではなく、もっと長いスパンで見ていくと、もっといろんな仕掛けが隠れていそうです…。 すごすぎ…。

投稿: リウ | 2010年8月30日 (月) 07時11分

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