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2010年11月14日 (日)

「てっぱん」 第7週 舌に残る記憶、舌に受け継がれる味

 「てっぱん」 というドラマにおいて私が望んでいるのは、初音(富司純子サン)とあかり(瀧本美織チャン)が20年余りの間閉めていたお好み焼き屋を開店すること。 伝さん(竜雷太サン)が 「操を立てている」 と断言している初音のお好み焼きが、復活する瞬間なのです。

 乏しい認識で恐縮ですが、大阪人にとってお好み焼きを我慢するということが、どんなにおおごとなのかなんとなく分かる気がするので(お好み焼きをそんなに命がけで好きでもない大阪のかたもいらっしゃると思います…)伝さんの心情に完全にシンクロしている私の興味は、「ああーベッチャアのお好み焼き、どんな味なんだぁぁ~っ」、ということ(笑)。 私もお好み焼き、大好物なんで。

 ところがこの物語、なかなか思ったような方向にいかないのです。

 「ひらけ!開かずの間」 というポンキッキみたいな副題(笑)がついた今週の 「てっぱん」、ついに私の望みが早くも実現してしまうのか?と思ったのですが、物語は冬美(芸名ジェシカちゃん、ともさかりえサン)がこのお好み焼き屋の店舗を借りるような方向にどんどん進行していき、しかもそのお好み焼きは、広島風のお好み焼きになる模様。 「違うんだけど…」 と思いつつ、ジェシカちゃんの夢が叶う瞬間を祝福したい気持ちもどんどん膨らんでくるのです。

 どうしてジェシカちゃんに感情移入してしまうのか、と申しますと、ジェシカちゃんの精神的な葛藤が、しっかり描かれているせいです。
 400万円を貯めてようやく自分の店、ショットバーを開店させるところまでこぎつけた矢先に新潟の実家からお姉さんがやってきて、親が借金で困っている、金を出してやれ、いままで自由奔放にやってきたんだからそれくらいやってもいいではないかと言ってくる。
 ジェシカちゃんの両親は小料理屋をやっていて、門限は5時、毎日毎日のっぺ汁に飽き飽きしたジェシカちゃんは家を飛び出したのでした(ちょっと違うか…)(それが主因じゃないでしょうけど)。

 ところでこのジェシカちゃんのお姉さん(久保田磨希サン)、片桐はいりサン似のちょっと個性的な顔立ち(失礼)。
 このお姉さんが長年抱えていた劣等感、美人な妹への嫉妬のような感情がそれだけで想像できてしまい、妹に無理な頼みを嫌味っぽく言ってしまう心情を見る側に理解させてしまうのです。 秀逸な設定です。

 そして実家が嫌で嫌で仕方がなかった、という気持ちを吐露するジェシカちゃんに、自分の娘千春と同じ部分を感じてしまう初音の姿も、カメラはさりげなく映し出す。 ジェシカちゃんの態度から千春の若いころの振る舞いを想像させてしまうこの作りが、またいいのです。

 「どないしたらよかったんか、あとになっても分からんこともあるんや。
 自分のことは、自分で決めるしかない!
 横からごちゃごちゃ口出しされたらかなわんわ!」

 ある朝、ジェシカちゃんに実家の力になってほしいと動こうとするあかりに対し、初音はこう言ってそれを遮ります。 初音が娘千春との関係を、まだ清算しきれていないことが、ここからも分かる。
 あかりは自分のやろうとしていたことをすぐに反省し、初音に謝るのですが、初音はそれには答えず、「はよ行き。 あんたに出来るのは遅刻せんことぐらいや」 と、また憎まれ口を叩く。 あかりはそれにめげずに明るく、「ほーい。 行ってきまーす!」 と会社に向かう。 その後ろ姿を見ながら、いたずらっぽく笑みを浮かべる初音。

 この構造が、とてもいい。

 こういうやり取りは、私はとても好きなのです。 いいなあ。

 瀧本美織チャンが、富司純子サンとの演技をしている間に、何かをどんどん学んでいる様子が手に取るように分かる。 うーん、これこそが朝ドラヒロインが見せる、真の醍醐味なんでしょうね。

 ジェシカちゃんは逡巡の末ショットバーの開店をあきらめ実家に200万を送金するのですが、残念会の席で自分に合っているのはおしゃれな店ではなく、その席で焼かれていた広島(尾道)風お好み焼き屋みたいな庶民派レベルの店だったと気付きます。 酔っぱらいながらそこにジェシカちゃんが気付いていく場面は、なんか実に自然な成り行きのように感じました。
 そして渡りに船のごとく、その残念会の隣の間にある、20年余り放置された初音のお好み焼き屋の店舗に、その場にいたみんなが着目する。 完全に酩酊したジェシカちゃんは、夜更けにご近所に大声で 「私はこの店を借りま~~す!」 と宣言し、初音に大々的に頼み込むのです(笑)。
 なんかこのシチュエーション、どっこっかで見たような気がしたのですが、あれですよ、「めぞん一刻」 で五代クンが酩酊したうえに真夜中ご近所に 「私は響子さんが好きでありま~~~す! 響子さーん、好きじゃああ~~っ!」 とやった場面(笑)。
 …どーも先週の 「あしたのジョー」 といい、マニアックな何かが隠されているよーな気がしてなりません(笑)。

 さて、この空き店舗を借りよう、という話になるのは自明の理ですが、初音はジェシカちゃんの運を試そうと、明日の天気が雨だったらこの店を貸してもいい、と言い出すのです。
 天気予報は降水確率10%、ほぼ間違いなく晴れ。
 こーゆー場合は雨が降るのがドラマ的なセオリーなんですけど(笑)、案の定翌日は大雨。
 初音はその種明かしを、雨が降る前の日は持病の神経痛が出るから、と打ち明ける。
 ですがここで謎なのは、初音にそんな持病があると聞いたことはない、という伝さんの証言であります。

 ドラマのなかでその答えとなる場面はどうもはっきりと探し当てることが出来なかったのですが、初音は折から家出して転がりこんでいた鉄にい(森田直幸クン)に 「あんた、尾道の家族に、ちゃんと連絡しとるんか? 人さんに意地ばっかり張ってたら、自分にも意地張ってしもうようになるんや。 おかげで、いろんなこと神さん仏さん任せにするしかのうなるでえ」 と話している。 ここに答えが隠されていそうです。
 つまり初音は、意地ばっかり張っている自分を解放したくて、ほぼ間違いなく晴れだという天気予報に、賭けてみたんじゃないでしょうか(相当分かりにくいな、この動機…)。
 つまり晴れなら晴れで、それでいい、というほぼOKの気持ちです。
 もしそれで雨でも降れば、それは神や仏がよほどこの店舗貸出しに反対しているせいだ、ということだ、という開き直り、とでも申しましょうか。
 それに、今回この店を開くのは自分の店としてではなく、他人に貸し出す、ということ、そしてその店が広島風お好み焼きの店であること。
 それを天国にいる自分の娘は許すのか?という挑戦状みたいな感覚。
 どうも憶測でしかないのですが、そんな初音の気持ちを、この 「神さん仏さん」 の発言内容から読み取ることができる気がします。

 しかし初音は、賭けに勝って断ったはずの店舗貸出しを、翻して貸し出すことにする。

 この動機は、あかりがジェシカちゃんのために心底一生懸命になっている姿を見たからです。 そしてあかりの母、真知子(安田成美サン)から期せずして聞いた、千春の尾道での様子。 これが大きい。

 真知子は鉄にいと直談判するために大阪へやってきたのですが、夕餉の支度をする初音を手伝いながら、「千春さんに料理を作ってもらっていた」 と打ち明ける。 「あの子が作ったものなんて、食べたことないよって…」 とショックを受ける初音。

 そしてその晩、出されたアジの南蛮漬けを食べながら、「昔これとおんなじ味、頂いたことあります。 千春さんが作ってくれました」 と真知子は話します。

 「不思議じゃねぇ…。
 おんなじ味を、いまも、あかりが食べとるんじゃね」

 自分の生みの母親の味…。 南蛮漬けをじっと見つめ、それを口にほおばるあかり。
 部屋に戻り、同じように自分の作った南蛮漬けをじっと見つめ、うれしそうに 「いつの間に覚えたんやろ…」 とつぶやく初音。
 見えざる神の手のごとく、いまは亡き千春の思いが、画面いっぱいに溢れかえっているように思えます。 すごい。 ここのくだり、神がかっている。

 初音はあかりに、あんたの尾道焼きは、お母ちゃんから習うたんか?と訊く。
 ほうじゃわ!お母ちゃんの味じゃった!と答えるあかりに、初音はジェシカちゃんに店を貸してもいい、と切り出すのです。
 初音はこのとき、「母から子に受け継がれる味ならばあの店を任せてもいい」、と考えたに違いありません。 初音をその気にさせたのは、やはり自分の味がいつの間にか千春に受け継がれ、それが真知子の記憶に受け継がれていたことに心が動かされたことが大きい、そんな気がします。

 これでジェシカちゃんの主導的な展開でこの開かずの間は開かれる。
 そこに再び現れたのは、ジェシカちゃんのお姉さん。
 「余計なことをするなとお父ちゃんからひどく怒られた」 と200万円を返されます。
 そこで父親の具合があまり良くないことを聞かされたジェシカちゃんは、いったん新潟に帰ることにするのですが、そこから物語は大きく転換していくようです。 ナレーションの中村玉緒サンが、はやくもネタばらししちゃってます。 グフフフ…(笑)。

 しかしタダで済まさないのが、このドラマのすごいところ。

 新潟に帰ることをちょっと渋っていたジェシカちゃんに、初音はお姉さんから聞き出したレシピで作ったのっぺ汁を、食卓に出すのです。
 それをうまいうまいと食べる下宿人たちに対して、ドン引きしまくるジェシカちゃん。

 「あんたら舌どうかしてるで。
 そんなおいしいわけないわ、こんな普通の田舎料理」

 そしてしぶしぶ食べ出すジェシカちゃん。

 「…ほら、…やっぱり好かん。

 門限、夕方5時でな、友達とも遊ばれへん。
 ちょっと寄り道もでけへん。 そういう味やもん。

 うん! ようダシ取れてるし、さすが大家さん。
 味もとろみも、メチャウマやけど、
 …これ、お父さんののっぺまんまやん…。

 いままで食べた中で、こんな好かんもんない。
 大家さんの料理で、ワーストワンやわ!

 …ほんま好かんわ…。

 …泣きそうやわ…」

 そしてジェシカちゃんは、いったん新潟に戻る、すぐ戻るけどとあかりに話すのです。
 泣けました。
 舌に残った記憶。
 人を納得させるのは、その舌の記憶を刺激することなのです。 それに勝る説得力はない、というのが、このドラマの持つスタンスであるといえる。

 「かならず腹は減る。 かならず朝は来る。」
 というのが、この番組HPの冒頭に来る文句であります。
 その大前提が物語を貫いているのは、特筆に値します。

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