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2010年12月12日 (日)

「坂の上の雲」 第6回 人を思いやる心

 衛星ハイビジョンの第2部第2回目(通算第7回「子規、逝く」)を第2部の開始と勘違いしたために大恥さらしの痛恨記事を書いてしまいまして、3日ばかり謹慎しておりました。 これは男一匹恥をさらした以上せねばならないけじめではあったのですが、身勝手な謹慎にお付き合いいただいた読者のかたがたには、改めて最大級のお詫びを致します。

 そのため改めて第6回の記事を書くのは少々恥の上塗りで躊躇したのですが、こんな拙記事でも読んでいただけるかたがいることをぶしつけながら期待して、僭越ではございますが書かせていただきます。

 あらためて、第2部の開始であります。

 やはり第2部の開始ですから、スケール的にもその巨大さがアピールされておりましたね。
 次の回の 「子規、逝く」 はそれに比べればいくぶん市井のスケールになっていて、この回から第2部を見てしまった私は 「ずいぶん小ぢんまりとした始まりかただな」 と思ったものでした(汗)。

 この回でまず強調されていたように思うのは、日本が軍事費を捻出するためにどれだけの犠牲を自らに課してきたか、ということです。
 日露開戦前夜のポーツマス港で秋山真之(本木雅弘クン)と広瀬武夫(藤本隆宏サン)は再会するのですが、そこで搭乗した戦艦朝日の威容を、数字の一字一句もたがわずに表現していきます。
 これはリアリティという観点から見れば、こんなに正確に覚えてなくてもよかろう、というレベルなんですが(笑)。
 イギリスにその戦艦建造のほとんどを任せた金額は、敷島三笠なども含め5851万4000円。 
 この数字を正確に広瀬が言うことで、国民の血税によるありがたみを使用する側がじゅうぶん覚知していたことを表現する。
 そしてイギリスでの晩餐会で、会場に流れる弱小国蔑視の空気の中、広瀬は堂々とこう話します。

 「5845万4000円という、英国の造船所に支払った金は、生糸を売った金ではありません。
 貧しい日本人が、爪に火をともすようにしてためた金です」

 「それはそれは…」 と小馬鹿にしたように立ち上がって頭を下げるイギリス人。
 真之はそこで、こうぶち上げるのです。

 「日本人の意志表示でもあります。
 外国からの侵略は決して許さない」

 貧しい日本人が、先進国から小馬鹿にされながらも、決して誇りを失わない気概が画面から溢れ出すかのようでした。
 当時の日本人にとってのいちばんのバネとなったのは、なんと言っても江戸幕府の外交下手から決められてしまった不平等条約の数々だったのではないでしょうか。
 文明下等国と見做された日本人が自らの自尊心を大きく傷つけられ、自らの美しい歴史的な伝統さえもかなぐり捨てて、その誇りを回復しようとした。
 明治という時代は、そんなエイトスに包まれている。 現代に生きる我々は、ジャパン・パッシングなどと自嘲的に嘆いている場合ではないではありませんか。

 そしてそんな誇り高い国だからこそ、戦闘状態になだれ込むのが必至なロシアとも、最後まできちんとした友情を築くことが出来た。
 今回はその象徴的な唯一の人物として、広瀬が大きくクローズアップされるのです。

 ロシアでの恋人アリアズナに対して、広瀬は日本の戦艦につけられた名前の由来を語ります。
 朝日、朝霧、曙、村雨…。
 それらは皆、美しい自然からつけられたもの。
 ちっとも勇ましくない、と言うアリアズナに、広瀬はこう言うのです。

 「力が強いだけでなく、心が優しい。
 それが日本の武人の理想です。
 君がよく使うロシア語で言えば、――『グマナスティ』 という言葉」

 グマナスティ、それは、人が人を思いやる優しい心のことです。

 「いつか必ず、私と君の国はそれで繋がる…」

 広瀬はそう言うのですが、果たして現在、そうだろうか?と考えを思いめぐらすとき、必ずしもそうはなっていない気がしてなりません。
 それは両国の間に領土問題、という重たい課題が横たわっている故のことなのですが、広瀬がこの後帰国するに際してロシア人たちに向かっても強調していたこの 「思いやりの心」 は、これから戦闘状態になるであろう相手に対しては、およそ相容れないような思想であります。

 それでも、政治情勢がどのように緊迫しても、ひとりひとりの人徳に勝るものはない。

 アリアズナとの仲に横恋慕をしていたボリスも結局は広瀬との友情を第一に考えたように、いずれは互いに戦火を交えることとなっても、消えない信頼というものが存在する。
 これは一見、理解しがたいことのように思えます。
 それでも少なくとも広瀬とその周りのロシアの人々との間には、悪感情に任せて相手を蔑みいたずらに揶揄して攻撃しようという感情が、存在していない。 そりゃこの別れのパーティの席で披露された滝廉太郎の曲を 「やっぱり盗作だ。 日本人にこんな美しいメロディが作れるはずがない」 などと言って席を立ってしまうご婦人のようなかたもおりますが。
 でも信頼によって築かれた感情は、どこまでいっても両者ともそこに誇りを保つことが出来るのです。 騎士道精神、または武士道とも通じる側面がある。 この意義を考えることは重要に思えます。

 しかしながら、衆愚というものは、いつの世にも存在しているものです。

 日英同盟に浮かれる日本の民衆たちは、これが対等なものではなくイギリスが極東地域を疎かにせざるを得なかったことからくる安全弁の役割としか見做していないことに、気付いていません。
 そしてその感情の底辺には、先ほど指摘した 「不平等条約からの誇りの回復」 という要因が深く絡み、清国、満州をめぐるロシアへの国民的な悪感情にすり替わりつつある。

 人が人を思いやる心が、そんな悪感情によっていとも簡単に壊されてしまう局面に、後世の日本人は直面していくことになる。

 それにしてもやはり何度も書くようですが、1時間半という放送時間は結構見ていてきつい。
 途中、またまたダレてしまいました。

「坂の上の雲」 に関する当ブログほかの記事

第1回 いや、ガイじゃのう!
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2009/11/1-46c5.html
第2回 列強に植民地化されなかった日本とはhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2009/12/2-3ded.html
第3回 親というものは、ありがたいものですhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2009/12/3-9188.html
第4回 戦争の真実を見つめようとしない人々http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2009/12/4-4583.html
第5回 今度は、一年後ですか… http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2009/12/5-16b5.html

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コメント

>「いつか必ず、私と君の国はそれで繋がる…」
今のロシアの幹部に聞かせてやりたいですわー!

>イギリスでの晩餐会
ここのシーンは誇りと美しさに圧倒されました。
真之も広瀬も堂々としていて、しかも美しい。(これ重要confident
現代の日本人も誇りを持ちたいもんですよ!
外交なんとかして!

ロシアロケのシーン、特に湖が美しかったですね
できれば新しいほうのテレビで見たかったです…。(今晩は見られます)

伊藤博文がああいった動きをしていたことを知りませんでした。
加藤剛さん、随分痩せられましたよね。心配です。

あと、子規の包帯を取り替えるシーンに引きました。(しかも来客中)
脊髄カリエス、恐ろしや。
俳句のことは全くわからないのですが、戦った人なんですね。


投稿: マイティ | 2010年12月12日 (日) 16時32分

マイティ様
必殺のコメント4連発、撃沈いたします…(笑)。 でも、単純にうれしいです(マゾじゃないんですけどcoldsweats01)。

伊藤博文サンと言えば旧世代の私などは必然的に千円札の肖像を思い出してしまうのですが、それに比べると加藤剛サンはカッコよすぎる感じがします(笑)。 お年を召したなあ…というのが正直なところですが、今回の博文役は見ていて鬼気迫るものがあります。 結局博文は当時の朝鮮人に殺されてしまうのですが、この人の人物像というものを功罪両面から検証したドラマというものを一度見てみたくなりました。

子規の病状の真実、というのも、この回の描写があってこそ、次の回の苦しみがもっと真に迫ってくるはずでしたのに…。 順番、間違えました(かなり引きずるタイプであります…coldsweats01)。

投稿: リウ | 2010年12月13日 (月) 12時30分

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