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2011年1月 4日 (火)

「赤い指」 親を思う子、子を思う親

 去年の春ドラマ(先だっての記事で、夏ドラマなどとマヌケなことを書いてしまいました)「新参者」 のスペシャルドラマとして、2時間半弱の単発ドラマとしてよみがえった、阿部寛サン演じる加賀恭一郎シリーズ。

 正直なところ、「新参者」 では話にどうにものめり込むことが出来ませんでした。
 それは一話完結にすることで、話に奥行きがなくなってしまう点。
 無理に人情ドラマを作り上げている部分。
 加賀恭一郎のキャラクターが、「狙いすぎている」 点。
 その点が気になってしまって、いい素材が生かされていない、ということを強く感じていました。

 ところが今回のスペシャルドラマ。
 原作は知りませんが、話的に2時間半、という尺が最も適しているように思える。
 そして物語の重層構造。
 これが映画みたいな長さだと、一気に見ることが出来てとても分かりやすい。

 「新参者」 は連続ドラマにしなければ成立しない話だったのでしょうが、その構成において大きな失敗を犯していた。
 毎回繰り広げられる人情ドラマのたたみかけが、そのままドラマ全体のマンネリ感に直結していた気がするのです。
 それに対してこの 「赤い指」 は、親と子の関係、という同質の話を数パターン用意し、極めて完成度の高い構成を見せつけていました。 同じスタッフとは、到底思えない。 見終わったあとは、映画館で1800円を出して映画を見たような感覚でした。

 そして加賀のキャラクターも、「ちなみに」 を連発することもなく、甘いものばっかり食べていることもなく、たい焼きをどうしても食べられないこともなく。 要するに狙っている部分が全くなし。 2時間半のドラマにすることで、警察の中の余計な他の登場人物に力を注ぐようなこともなく(松重豊サンと、アンジャッシュの人だけだったかな~)。
 これで結果的に、とてもすっきりドラマを見ることが出来るんですよ。

 ただし容疑者の前にいきなりぬっと現われて、ぎょろっと見つめる不気味さは健在(笑)。 つまり加賀は、最初っから犯人の目星をちゃんとつけているわけです。
 今回は最初から犯行の瞬間以外は一部始終が明らかにされているため、なぞ解きの部分はちょっとなりを潜めているのですが、クライマックスの部分での加賀の思惑は、「いかにして犯人を裁くかではなく、どうしたら犯人を救うことが出来るのか」、という一点に集中しているため、見る側を最後まで強く話に引きつけたままにすることが可能なのです。

 今回のドラマで最も強烈な印象を残したのは、杉本哲太サン。
 そしてその認知症の母親を演じた、佐々木すみ江サン。

 杉本サンはこの前までの 「流れ星」 の役とはうって変わって、家庭の問題から逃避し続けた末に息子の犯罪を隠蔽しようとする父親の役。 彼が逃避していたのは、認知症の母親の問題もさることながら、妻や息子が抱える問題。 でもそのレベルって、どこの家庭でも大なり小なり抱えていて、回避行動が行なわれているレベルの逃避なのです。 現に彼は息子の犯罪を知ったとき、警察に届けようとするまともな神経の持ち主なのです。

 それが 「表沙汰になったらうちの家族はみんな破滅だ」、という妻の西田尚美サンの思い込みに負けて、息子を守ることがすなわち自分や自分の家族を守ること、みたいな倒錯した心理状態になっていくのです。 そこに至るまでの杉本サンの演技力は、まさに迫真。 その昔横浜銀蠅の弟分としてツッパリ野郎だった杉本サンさえ思い起こさせるまでの激烈さでした。
 まさしく普通の人が、犯罪隠蔽にどうして命をかけてしまうのか、という説得力が、杉本サンの演技から、物語全体から、満ち溢れているのです。

 そんな杉本サン、加賀恭一郎の登場によって、徐々に追い詰められていくのですが、ここでの阿部サンは、病院で死にかけている父親の山崎努サン(この人も元刑事)が将棋を指しながら看護士の田中麗奈チャンに語るように、「相手を揺さぶってどう反応するか、それが楽しい」 をまさに地で行っているような事情聴取の方法で。

 けれどもその阿部サン、父親の山崎サンに、けっして会おうとしないのです。 この事情にも、後半胸の熱くなる展開が。
 そしてその将棋、看護士の田中麗奈サンがヤケに強い、と山崎サンは感心しているのですが、これにもある事情があった。 この山崎サンと田中サンの取り合わせは、すごく意味のあったものだった、と結末を見たいまとなってはただただ感心するばかりであります。

 そして杉本サンの母親を演じた、佐々木すみ江サン。
 クライマックスシーンでは、ただただ、泣けました。
 途中でも、杉本サンが必死の形相で自転車をこぎながら隠蔽工作を敢行している場面と並行して、その杉本サンが子供時代だった頃を思い出しながら、「おててつないで」 の歌を人形相手に嬉しそうに歌っている場面でも、もう泣けて泣けて。 佐々木サン、個人的には、「ふぞろいの林檎たち」 で初めてその存在感に圧倒されてから、「篤姫」「ゲゲゲの女房」 と、もう近年、空恐ろしいまでのバイプレイヤーとしての地位を揺るぎないものにしている感がとてもするのです。

 ネタバレブログにはあるまじき、物語の核心をちっとも書かない記事になっておりますが(笑)、教えちゃうのはもったいない気がすごくする。 ネタバレ、というのは、要するに感動を共有したいがためのひとつのルール違反の書き方なんですけどね。

 結局のところ、杉本サンに隠蔽をそそのかした西田尚美サンの存在が、表面的に見るといちばん間違っているような気もするのですが、それもこれも、息子を守りたい一心なのだ、ということが、ラストシーンで佐々木サンの号泣するところと同時に進行することによって、おぼろげながら見えてくる。 けっしてそれは褒められた愛情ではありません。 でも、西田サンもただ一方的に悪い人物として決着をしていないこの脚本の意志は、感じることが出来るのです。

 そして山崎サンをめぐる、このドラマのラストシーン。 風呂敷のたたみかたとしては、大変正鵠を射ている気がする。 ここから、この物語が 「子を思う親の心」「親を思う子の心」 という大テーマを鮮やかに浮かび上がらせたまま、エンディングを迎える道筋が完成するのです。

 すごすぎる。

 杉本サンは異常な心理状態に突入する前までは、なんとなく加賀恭一郎に犯人を見破ってほしかったようなところも、どこかにあったような気がします。 加賀の推理にいちいちびくびくしながらも、加賀の 「救いたい」 という気持ちに共振していたような部分。 暗黒面に取り込まれながらも、ぶくぶく沈みこみながら、手を伸ばして、「助けてくれ!」 と言いたげな表情。

 それがラストでは、一気に加賀のその思いに、登場人物たちもドラマを見ている側も、すべての人が救われる気がする。

 すごいドラマに、昇華したものです。

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コメント

 「赤い指」見ました。 面白かったです。
「新参者」は原作も読みましたしドラマも見ましたが、もろ手を挙げて面白いとはいえなかったです。

 リウ様も書かれているように「新参者」は一話ずつに人情話を持ってきてむりやり1クール続けた様な気がしました。 面白いんだけれど、、、やっぱりあんまり面白くない、そんな感想のまま終わってしまいました。

 「赤い指」は同じ加賀恭一郎シリーズですが、コミカルな場面は全く無くてずーんと心に染みるドラマになっていましたね。やはり原作の力でしょうか。

 恭一郎の父親の山崎さん、杉本さんの母親の佐々木すみえさんはさすがですね。このお二人が出てくるとドラマに凄みが増します。佐々木さんの「篤姫」での凛とした最期には涙したものです。

 杉本哲太さんも渾身の演技でした。 色々なドラマでお見かけしますが、このドラマでは主役とも言える役柄で素晴らしかったです。「流れ星」とはまるで違う杉本さんでした。

 私は娘しかおりませんので分らないのかもしれませんが、母親にとって「息子」は文句なしに可愛いそうです。 客観的に見ればおかしいと思えることも息子を守る為にはやってしまうのが母親なのかもしれませんね。

 佐々木すみえさん演じる認知症の母親を見ていて、高齢者と言われる年齢の私はとても辛かったです。将来の自分もそうならないという保障はないわけで・・・。

 最後の恭一郎と父親の将棋のエピソードや亡くなった母親とのいきさつも心に響きました。阿部寛さんの加賀恭一郎ははまり役になりましたね。いいドラマだったと思います。

投稿: ゆみ | 2011年1月 4日 (火) 20時39分

リウさま

いつもこまやかなレビューありがとうございます。
今年も存分に楽しませていただきます。よろしくお願いいたします。

「赤い指」このトリックのみミステリだったといえばミステリでしたね。
でもリウ様の言うとおり単発連続ドラマの方がストーリーもキャラクターも生かせていました。

加賀さんの父と父が想った母への思いが胸にしみいりました。
支える方の力強さが阿部ちゃん演じる加賀さんから充分に伝わって、
こういう男同士みたいな親子関係もいいねって。

投稿: みり | 2011年1月 4日 (火) 20時40分

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

「赤い指」期待して見始めたのですが、冒頭の死体遺棄、父親(杉本さん)と母親(西田さん)のその後の対応部分あたりから、どうも感情移入できなくなり(こういうことしちゃダメでしょう!というダメだしモードに突入)、結局、耐えきれずチャンネルを替えてしまいました。(家族からもブーイングが出てました)

まあ、そうなってしまうくらい真に迫った演技といえるのかもしれませんが・・・(杉本さんの演技力はすばらしかったと思います)

「新参者」が放送されてた時も、全部通しではなく、ちょこちょこ見てました。阿部さんは好きなのですが、「鯛焼き」や「ちなみに」は毎回見てると、くどさが鼻につくといった感じでしたので・・・

リウさまの感想を読んで、もう少し我慢して見るべきだったかもと反省しきりのrabiでした。まだまだ修行が足りませんね〜。


投稿: rabi | 2011年1月 5日 (水) 00時18分

ゆみ様
コメント、ありがとうございます。

「新参者」 での失敗は、記事に書いた以外にも、毎回出てくる容疑者たちに、「豪華ゲスト」 ばかりを配したことにも原因があったんじゃないでしょうか。

原田芳雄サンとかの大物になってくると、自分のそのドラマにおける立ち位置というのが分かってそれなりの演技をするものなんですが、中堅どころや若手になってしまうと、頑張りすぎてどうしても自分が前に出る演技をしてしまう。
それでなくとも皆さん芸達者ですから、そちらのほうに見る側も神経が行ってしまう。

でも、「新参者」 という物語にとっていちばん大切だったのは、次々出てくる容疑者によって明らかにされていく、被害者だった原田美枝子サンの、まわりの人たちに対するやさしさ、だった気がするのです。
それを大事にするならば、毎回大物ゲストを呼ぶ必然性そのものが、なくなってしまうと思うのです。

簡単に言えばTBSの視聴率ほしさ、というヤラシイ面が出てしまった、ということなんでしょうけどねcoldsweats01

不肖(笑)「息子」 の私からすれば、母親は娘のほうが腹を割ってしゃべりやすい、という面があるような気がいたします。 ただ自分の子供は、やはり誰だって守ってあげたい、なんとか道を外さないでもらいたい、というのは、いずこの母親も同じなのだろうと考えます。

私の母親は健在ですが、佐々木すみ江サンの姿には、この先もしかして訪れるかもしれない母親の姿を想像して、それだけで胸が締め付けられるようでした。 祖母がほんのちょっとですが認知症気味でこの世を去ったので、心配が棘のように胸に刺さったままなのです。

自分はどうして、この親の子に生まれたかったんだろうな、ということを、よく考えます。 そんな自分だからこそ、このドラマは共感できる部分が多かったのだろう、と思うのです。

投稿: リウ | 2011年1月 5日 (水) 08時52分

みり様
コメント、ありがとうございます。 こちらこそ、つまらないブログになってしまわぬよう、精進したいと思います。 よろしくお願いいたします。

親子関係に目を奪われながらも、「赤い指」 が持つ意味とは何なのだろう、と思いながら、やはり見ていましたよね。 真相が分かる場面では、その意味が分かったことで、さらに涙が。

ただ、佐々木すみ江サンがそこまでのことをやるのは、並大抵のことでは出来ない、そうも一方では思うのです。

それを、「現実味がない」 ととらえるのか、それとも 「そこまでのことをして息子に分からせたかった」 と見るのかは、受け止める側の 「心」 の問題だ、とも思うのです。

阿部サンと山崎サンとの父子関係にしてもそうですよね。 「そうまでして相手の気持ちを尊重するのか」 と思うのか、「会いたい気持ちに逆らうことが本当の愛情なのか」、ということですよね。 これも受け止める側の問題だ、と思うのです。

投稿: リウ | 2011年1月 5日 (水) 09時05分

rabi様
あけましておめでとうございます。 こちらこそ、よろしくお願い申し上げます。

rabi様が嫌悪感を抱くほど、杉本サンと西田サンの最初のやり取りは、醜いものだったと私も感じます。 特に西田サンは、被害者の女の子のことなど、全く考えていない。 自分たちの保身ばかりを考えているし、夫に責任転嫁をしているし。 それもこれも、最終的には同情されるような感じにはなるんですが、やはり自分勝手のそしりは免れない。

このドラマ、結果的に見て、被害者の女の子に対する救済が、ほとんどなされていないです。 ホントに最後のシーンで加害者家族は被害者の墓参りをしに来るんですけどね(このくらいのネタばれはいいかな…)。

けれどもどうやって償っていくのかは、重大な問題だ、と私は感じます。 でもそこまで切り込むのは、刑事ドラマでは限界があるような気がいたします。

投稿: リウ | 2011年1月 5日 (水) 09時12分

ひゃ〜見ればよかったなー。
数ヶ月後の土曜の午後あたりに再放送希望!

映画「アマルフィ 女神の〜」のほうを選んでしまい、
テレ東のYOUちゃん、キョンキョン&マツコの箱根旅を録画。(濃いメンツでしょ)

「アマルフィ」もなかなか良かったので、
今度の連ドラも期待できそうです(たぶん)
織田クンの青島以来のアタリ役(シリーズ化)になることでしょう。

投稿: マイティ | 2011年1月 5日 (水) 23時46分

マイティ様
コメント、ありがとうございます。

このドラマ、去年の連ドラ 「新参者」 の出来が視聴者の 「見たい」 という気持ちに悪影響を及ぼしているよーな気がしますcoldsweats01。 私も大したことはなかろう、と思いながら見始めたのですが、杉本サンの演技にぐいぐい引き込まれました。

土曜の午後に再放送、うーんよくあるパターンだ(爆)。

「アマルフィ」、今度の連ドラの前哨戦だったんですか! こりゃ見ときゃよかった、とゆーか…。

YOUサンにキョン2にマツコ…。
んなんじゃそりゃぁ!(展開が読めない…爆!)

投稿: リウ | 2011年1月 6日 (木) 07時25分

>YOUサンにキョン2にマツコ

基本的にヤフーの観光ガイドサイトと
撮影先のお店や旅館のタイアップ番組だったんですけど

マツコ「アタシはちあきなおみさんの喝采がレコード大賞とった年に産まれたのよ」
キョン2&YOU「あたしら、それ、テレビで見てたわ」

キョン2「40で人生折り返しって言われて、今まで来た知ってる道を帰るだけなら、怖くないわって思った」
YOU「今日子とは男のタイプが被るのよ。小学校のときの根津甚八とか」
などなど
面白い会話がたくさん聞けました。

マツコの寝顔をキョン2が撮影しながら
「アタシ、ピントが合ってないのか、自分が老眼なのか、わからないわ〜」と言ったり。

女とオカマは楽しいですわsmile

投稿: マイティ | 2011年1月 6日 (木) 11時32分

マイティ様
再コメ、ありがとうございます。 返信大変遅くなりました。 ゴメンナサイ。

マツコサン、そうなんですよねー、私らより年下。 意外。 なんか、お相撲さんがトシ食っているように見えるのと同等の感覚、と言いますか(爆!)。

キョン2が老眼とは…。
ちなみに私はもうすぐ46になりますが、近眼が幸いしてか、全く視力に変化なし。 それも何だか成長しとらんよーで情けないものがありますが…coldsweats01

根津甚八サンは私もファンでした~。 「誇りの報酬」、だったっけな? 中村雅俊サンとやってた、刑事モノ。 ちっとも見なくなった、と思ったら、引退のニュースが最近流れてましたよね。 残念です。

しかしマツコサンの健康状態は、なんか気になります。 移動するにもご苦労されているようで…。

投稿: リウ | 2011年1月 7日 (金) 05時54分

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