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2011年2月 2日 (水)

「美しい隣人」 第4回 「あたりまえ」 の崩壊

 自分の人生に対して、人はこれでいいと思いながら生きています。
 そのいっぽうで、他人からの反応を見ながら、「もしかして、自分はこれでいいと思っているけれど、本当にいいんだろうか?」 と不安になるときがあります。
 自分の場合はそれに、「オレはこのままじゃいけない」 という気持ちがあるために、容易にその不安が膨張したりする。
 「美しい隣人」 第4回で沙希(仲間由紀恵サン)は、絵里子(檀れいサン)のそんなアイデンティティを崩壊させようと、初めて直接けしかけてくるのです。

 「もしかして絵里子さん、嫌いなんじゃない?」

 「え?」

 「真由美さん(三浦理恵子サン)のこともお母様(草笛光子サン)のことも、…本当は、嫌いなんじゃない?」

 檀れいサンの場合、私以上に完璧なので、初めはまともに、それにとりあおうともしません。 却ってそんなことを言い出す仲間サンに、ちょっと警戒モードになる。

 これはきわめて正常な反応であります。

 今回仲間サンは檀れいサンとの会話のなかで、義母に対するネガティヴ発言を引き出そうとするのですが、檀れいサンの反応は至ってまとも。 「入院中ってこともあるけど、気難しいとこもあるかなぁ。 …でもそれって当然よね、診断なかなかつかなかったし、不安だったと思うの」。
 他人と付き合っていくのに、多少の軋轢は覚悟の上です。 檀れいサンはそれをあたりまえと思っているし、ほとんどの人は他人に対して、一方的にいい部分ばかりを見ていない。 悪い部分の批評眼というものも、必ず持ち合わせています。
 それが人付き合いをしていくうえで、とても 「あたりまえ」 のことなのです。

 「ショック?」

 「そりゃそうよ」

 「ホントのことだから?」

 「ちょっと待って」

 「今まで自覚してなかっただけ。
 深層心理、ってやつ。
 …
 罪悪感、感じる?」

 「罪悪感っていうか、…嫌ってるはずがない」

 そんな檀れいサンに、仲間サンは義理の母とかご近所のママ友だからとかいうことがなければ、付き合いたくない人たちなんじゃないか、とたたみかけるのです。

 確かに付き合っていかねばならない人たち、に囲まれながら、誰もが生きています。
 けれどもそこから生まれるネガティヴなものを含めた感情が、人としての生業なんじゃないでしょうか。
 沙希はそのことをこっちに置きながら話をしている。
 そして自分は絵里子のことが本当に好きだという、ありもしない仮面をかぶりながら、話をしている。

 「こうなったら、自覚したほうがいいと思う」

 「自覚って、そういうふうに思ったら付き合えないじゃない」

 「いいえ、付き合うの。
 大人でしょ?」

 「…演技する、ってこと?」

 「そうとも言う」

 沙希も演技しながら付き合うだろうというのですが、自分はそんな義理で付き合う人がいない、と告白します。 絵里子は沙希のめくるめく話に、頭が混乱してくる。

 「嫌いな人がいるって、認める?」

 「認めたくないけど…

 …

 そんな気もしてきた」

 健常な精神状態ならば、檀れいサンは一笑に付すこともできるのでしょうが、三浦恵理子サンや草笛サンとの(仲間サンによって仕掛けられた)軋轢に少しばかり参っているため、仲間サンの誘導尋問の世界に引きずり込まれているのです。

 「それに私、全然自由じゃないってことも」

 「自由が幸せとは限らないじゃない」

 「え?」

 「みんな分かってないのに、束縛が嫌だなんて。

 …

 束縛の多い生活って、幸せなのよ…。

 …

 羨ましい、…絵里子さんが」

 自由が多いからこそ、余計なことを考える。
 仲間サンが陥っているのは、溺れ死んだ息子のことだけを考えながら生きている生活です。
 離婚の申し出をしてきた高知東生サンとの会話のなかで、彼女はその生活が、「今まででいちばん幸せ」 と話をしていました。
 でも実は、彼女はそう思おうとしているだけなのではないでしょうか。
 自由であるからこそ、息子がいたときの束縛の多かった昔を思い出してばかりになってしまう。
 そしてそれを埋めるために、絵里子の息子駿クンに、すり替えられた幻を追い求めてしまう。
 今回スイミングで駿クンのいじめ役として登場したヒロクン、沙希はこの子に死んだ息子隼人と似ているものを感じていたようなのですが、沙希はこの子を脅迫してスイミングをやめさせ、駿クンを手なずけていくのです。
 ニセモノの愛情によって、自分が今、いちばん幸せである、と錯覚したがっているように思えます。

 このドラマが単なるサスペンスホラーになっていかないのは、仲間サン演じる沙希の復讐劇のなかに、彼女自身の葛藤がきちんと描かれているせいなのではないでしょうか。
 もちろんその全貌はなかなか正体を現しません。
 それは一面では、退屈に思えるときもある。 展開のスピードが、もどかしくなる時もあります。
 けれどもこんな、悲しい演技をし続ける仲間サンの行く末がどうなっていくのか、私個人の興味は膨らんでいるのです。

「美しい隣人」 に関する当ブログほかの記事

第1回 勝手な先読み、という恐怖増幅の方法
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/1-f59a.html
第2回 鏡の中と現実の浮遊感http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/2-50e1.html
第3回 隔離された 「傷つく構造」 http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/3-31ec.html

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コメント

和裁の仕事(衣装じゃないです)を請けていて、残業して見逃してしまいました。
ヒロくんがスイミングをやめたところから見ましたw

マイヤーさん(偽名?)は絵里子の夫も友人も子供も全てを奪いたいのが本心のようですが
その理由がナゼなのか、気になりますね

ますます怖さが増してきたような気がします。沙希の手の込んだやり口がヒートアップしてますね。
ヒロくんは前回から今回だけの役回りだったのでしょうか?
リオもキーパーソンになってきそうですね。

絵里子(檀れいサン)の家庭を徹底的に破壊するまで復讐は終わらない感じですが、これは沙希の性格によるところが大きいのでしょうか?

絵里子に対して沙希が行っている深層心理への刷り込みが、どういった影響を及ぼしていくのかも興味が湧いてきますね。

絵里子の周りの人間を全部、自分の側に引き寄せている沙希。今後は、どういう展開をしていくのでしょう?

とにかく仲間さんが、難しい役を頑張ってトライされているのに惹き付けられますね。

マイティ様
コメント連投、ありがとうございます。 残業、お疲れ様です。

ヒロクンは駿クンをいじめるためだけに出てきた子供だったんでしょうかね。 なんかヒロクンは駿クンをいの一番にターゲットにしていた気がするんですが。 中途半端に隼人クンに似ていた気もしますし。 ふつう、死んだ子に似ている、なんていうと、脅迫なんかしようと思わない気がするんです。 仲間サンの反応も、ちょっと謎でした。

でもなんか、必要以上に私自身が疑心暗鬼になっている気は、するんですが…。

rabi様
コメント連投、ありがとうございます。

マイティ様への返信にも書いてしまいましたが、ヒロクンの役割がこれだけだった、ということに、私もちょっと肩透かしを食らっている気分です。

持っていたコップを叩きつけて粉々にしたり(もちろん手は血だらけ)、沙希には異常なほどの破壊衝動が備わっているようですよね。 店の人は飛んで来ないのかと思いましたけど、あんなブチ切れぶりを見たら怖くて近寄れないかも…(笑)。

いったい沙希は、死んだ息子の弔い合戦でこんなことをしているのか、どこまで絵里子の家庭を崩壊させたがっているのか、なかなか見えてきませんね。 仲間サンは、「MR.BRAIN」 での殺人鬼役があまりにもインパクトがあったので、今回はそれをさらにバージョンアップしている気がします。

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BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

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     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
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  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

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    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

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    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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