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2011年2月15日 (火)

「冬のサクラ」 第5回 冷たく乾いた罠

 このドラマ、第1回目を見たときは山形の美しい雪景色に心を奪われ、「冬のソナタ」 との共通項を感じたものでしたが、物語の舞台が東京主体になってしまって、とても乾いたドラマになっている気がします。
 山形でのロケをもっと見たいですね。

 山形は今、雪は積もっていないんでしょうか?
 前回祐(草彅剛クン)と萌奈美(今井美樹サン)が偶然遭った山形でのロケでは、雪が半分なくなっているような感じでしたよね。

 第1回での感想でも書かせていただいたのですが、このドラマと引き合いに出される韓国ドラマ 「冬のソナタ」 全編に漂っていたのは、人々の心を凍らせる圧倒的な雪と、室内で繰り広げられる、寒いからこそ心を寄せて温め合おうとする人々の心が織りなすコントラストの妙だった気がするのです。

 別にこのドラマに 「冬のソナタ」 と同じものを求めてはいませんが、カラカラに乾いた東京の冬景色と、祐や萌奈美が直面する問題でささくれてしまいそうになる展開が、見ていてとても痛々しい。
 萌奈美が冬のサクラに心魅かれ、もう一度あの、まるで祐の存在感と一体化しているかのような一本桜を見たいと願う気持ちが、だからこそとても分かる気がするのです。

 「冬のソナタ」 では、ペ・ヨンジュンサンと恋敵になってしまう今は亡き(もういないのか…涙)パク・ヨンハサンが、自分の性格の悪さに自分自身が苦しめられる、という展開を示していました。
 それはやはり、あの圧倒的に真っ白な雪の景色のなかで、自らの嫉妬心が汚く見えてしまったことも大きな要因となっていたのではないでしょうか。
 「冬のサクラ」 も、いつかまた山形の圧倒的な雪景色の中に物語が溶け込んでいってほしいと、私は願っています。

 萌奈美の夫航一(高嶋政伸サン)は萌奈美の病状について、やはりおおかたの医師と同じ判断をしている、と思うんですよ。 萌奈美が手術をしても記憶をなくす可能性というものは、限りなく高い。
 しかも病気が判明してからずいぶん時間が経過してますから、その確率は日ごとに高まっていると考えられる。

 けれどもそれを承知の上で、航一は萌奈美に手術をさせようとする。
 愛してもいないようなのに、なぜなんでしょう?

 私が考えているのは、前回の感想文で書いたとおり、コレクターとしての感覚が航一にはあるからだ、ということです。 愛していないわけではない、と私は思う。
 航一はじっくり観察用ボックスに萌奈美を閉じ込めて、萌奈美をいたぶってそれを楽しもうとしている。
 それは、かなり歪んでいますけど、愛情の一種だろうと思うのです。

 航一は果てしなく感情的になって萌奈美をどやしつけたりしますけど、次の瞬間猫なで声を出したりしますよね。
 あれって自分に置き換えてみると、個人的にはペットに対する飼い主の行動ととても似通ったものを感じる(笑)。

 そんなペットから、「私の人生はあなたのものじゃない」 などと言われたら、なんだとペットのクセに!と、はらわたが煮えくりかえることでしょう。

 その感覚からいくと、萌奈美が手術で記憶をなくしてしまうことは、航一にとって願ったり叶ったりなのではないでしょうか。
 これで完全にペットとして、観察用標本として、萌奈美を自分のものにすることができる。
 そのために自分の脳外科医としての技術を最大に宣伝材料にして、手術成功の確率の高さをアピールし、猫なで声でかなんとか萌奈美を懐柔しようとする。

 これは航一の、冷たい心から発生した、からからに乾き切った、罠なのです。

 そんな航一にとって、祐の存在は実に不愉快。
 ペットが自分以外のものを愛しちゃいかんのですよ。
 しかも祐は、脳外科医としては国内最高レベルだと評価されている自分と比較するには、あまりにも取るに足らない存在。
 おそらく自分のプライドをも根本的に破壊させるような存在なわけです。

 航一は祐が同居させてもらっている肇(佐藤健クン)のアパートをやおら突き止めていきなり訪れ、お前なんかとコソコソ逢って家族を裏切るような女なんか、死んでもいいくらいのことを祐に言い放ちます。

 「私にとって大事なのは、娘だけなんでね」

 娘が悲しむのを見るのは忍びないから、記憶をなくそうがなんだろうが萌奈美を生かしてやる。 だがそれには、きみの協力が必要だ。 萌奈美から手を引け。

 祐は前回、会食の席であからさまにネチネチ攻撃されたり、金を投げつけられたりと、常軌を逸した航一の性向を目の当たりにし、記憶が戻ることを怖がっていた萌奈美の本心を理解出来ていた。
 だのに今回、祐は言いたい放題の航一からのこの要求を飲み、萌奈美とはもう二度と会わない、と決断するのです(いきなりラストのネタバレですが)。
 それは祐が萌奈美の娘(森迫永衣チャン)と会ってしまったことが最大のきっかけですが、それは、萌奈美が自分の人生でかけがえのないものを見失わずにこれからも生きていってほしい、と祐が心から考えた末の結論なのです。

 これはもちろん、航一がどれほどの医師であるのか、という情報も肇から仕入れたうえでの判断です。 この情報が祐の判断にもたらした力は大きい(この情報の信憑性、次回は大きく揺らぐようです)。

 萌奈美は航一の仕掛けてきた罠にはまり、生きられるものなら生きたい、と前回ラストに出した 「手術はしない」 という結論が、根本から揺らいでいます。
 迷うのが人間。
 いったんその結論を宣言した祐に向かって、萌奈美は素直にその心情を吐露するのです。
 そんな萌奈美を精一杯後ろからさりげなく支えようとする、草彅クンの演技。 こんな穏やかな笑顔が作れる男の役者は、あまり見た記憶がないです。
 萌奈美はそんな祐の存在を、心強い、と表現します。

 「なんだか愛おしいです、
 自分の生きてきた、この世界が…」

 萌奈美は東京タワーからの下界を見ながら、祐にこうつぶやきます。

 この世界は素晴らしい…。

 自分が死ぬ、という現実に直面したとき、やはりこの世のすべてのものがそう感じられるのだと思う。
 どんなに汚い現実でも、どんなにうまくいかないことだらけでも。
 そのすべてをひっくるめて、この世は輝きに満ちている、そう思える気がするのです。
 確かこのドラマの以前の感想文にも書きましたけどね。

 「なんか普通に生活してると、自分が抱えているものを、ふと忘れてしまう瞬間があるんですよね。

 こういうなんでもない毎日が、これからもずうっと続いていくような気がして。

 自分がいなくなるっていうことが、現実味がない、っていうか。

 だけどすぐに、
 『ああ、違うんだ…。
 一年後には、自分はここにいないかもしれないんだ』 って、思い出すんです…。

 声を出して笑ったり、
 幸せとか、楽しいとか思える瞬間って、
 すごくかけがえのないものなんだなって。
 …いまさら気付きました」

 そんな萌奈美の手を握る、祐。

 肇との語らいのなかで、性格悪いかもしれないけど、院長の腕を信用しろ、と言われていた祐は、逡巡の末、萌奈美に手術を勧め、航一に萌奈美とはもう二度と会わない、と言いに行くのです(鍋焼きうどんと金メダルの話、またまた兄弟のほっこり話に心が温かくなりました)。

 萌奈美は東京タワーで、祐の決意に気付く由もなく、病気が治ったらまた祐さんとあの大きな一本桜を見に行きたい、と無邪気に話します。
 萌奈美の後ろ姿をいつまでも見送ったまま、こぶしをかたく握りしめる祐。

 自分はただ、あの人のために何かがしたい。

 祐の恋愛感情は、実はそんな奉仕精神があまりにも巨き過ぎて、ちゃんとその感情に向き合いでもしない限り、ストイックの影に隠れて見えなくなってしまう恋愛感情だと私は考えています。
 そんな祐が、航一の仕掛けた罠にはまったまま、自分を押し殺していく過程は、心が痛みます。 心はカサカサ、お肌はガサガサ(笑)。
 東京には雪が降りましたけど、このドラマは乾燥注意報が発令されたまま、なのであります(笑)。

「冬のサクラ」 に関する当ブログほかの記事

第1回 …大丈夫…
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/1-1d6a.html
第2回 「逢いに行こう」、「なんのために?」 http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/2-96f6.html
第3回 折れた翼で飛び続けることhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/3-cff9.html
第4回 自分の納得する生き方をhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/4-5b32.html

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コメント

はじめまして、リウ様。いままで何度もコメントしようと試みては途中でやめる、を繰り返してきました。きっと、私のような人、大勢いるんだろうなあと思います。リウ様の記事に心打たれたり、ものすご~く共感したり、感動したり、で、それを伝えたいのに上手く文章に出来なくて、途中で諦める。そんな読者が大勢いると思うんです。


リウ様の記事、特にドラマレビューが大好きです。ドラマを見ながら涙ぐむように、リウ様の記事を読みながら涙ぐむことがあります。ああ!上手く言えないのがもどかしい。


たとえば私が演出家だったら、脚本家だったら、役者だったら、完成した作品をリウ様のような方に見てもらいたいなと思います。作品に込めたものを、きっとリウ様は感じとってくれる。密やかな溜め息にさえ、気づいてくれると思うから。


「冬のサクラ」のレビュー、これからも楽しみにしています。(もちろん他のレビューもです)まとまりのない文章でごめんなさい。


Kiyoka

投稿: 希代加 | 2011年2月16日 (水) 03時03分

希代加様
こちらこそはじめまして! とても励みになる温かなコメント、ありがとうございます。

そんなに敷居が高いですかcoldsweats01。 コメント投稿すると、すぐに表示されちゃいますもんね、このブログbearing。 なかなか思いを伝えることが出来なかった、というのは、そんな私のブログの特殊な設定が邪魔をしていたのかな、と考えると、とても申し訳ない気持ちでいっぱいになります。

ただこの設定、悪意のあるコメント防止のためですので、なにとぞご理解いただきたいなー、と思います。 希代加様のような手放しでほめてくださるコメントはいつでも大歓迎!(笑) ますます増長しちゃいますけどね(爆)。 でもとてもとても、書き手としては励みになるのです。 とてもとても、感謝します。

このブログに何度か足を運ばれているかたであれば、私がいかにお調子者でケーハクでとっつきやすい人間であるかお分かりになると思いますcoldsweats01。 どんな簡単なコメントでも、気軽に投稿していただけたら、今回のように全力で返信させていただきます。

ともあれ、希代加様のようなかたがほかにもいらっしゃると思って、今後ますます精進したいなーと考えております。 大変ありがとうございます!

投稿: リウ | 2011年2月16日 (水) 10時06分

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