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2011年2月23日 (水)

「美しい隣人」 第7回 主体と客体の遊離

 「地獄の快気祝い」(笑)の経過を描写したあと、マイヤー沙希(仲間由紀恵サン)が絵里子(檀れいサン)に 「自分があなたの夫慎二(渡部篤郎サン)の浮気相手だ」 と名乗るまで、たたみかけるような緊張感で疾走した感のある、「美しい隣人」、第7回。

 ドラマに引き込まれるいちばんの原因は、それまでほぼ完ぺきだと思われていた妻が夫に浮気されて普通じゃなくなっている、檀れいサンのその 「自己喪失」 の演技によることは確かだと思われます。

 そして単なる怨恨ではなく、自分が不幸に見舞われたからこそそんな完璧な家庭が崩壊していくところを見たかった、という限りない暗黒を演じ切っている仲間由紀恵サンの演技も、ともに化学反応を起こしている。
 すごいドラマになってきました。

 そして今回は、クセモノ役者の印象が強い渡部篤郎サンも、ようやくドラマに大きな化学反応をプラスしてきたような気がした。
 ここまでくると、次回への期待もいやがおうにも高まっていく気がします。

 そのなかで唯一、なんの実にも毒にもならない存在なのが、左右田一平サン演じる、慎二の父親で草笛光子サンの夫(笑)。

 この人を見ていると限りなくほっとするのですが(笑)、まったくウラオモテのなさそうなこの 「平凡の権化」 とも呼べるこのジイジにも、「妻が入院中にやめたと言っていたタバコをやめられないでいた」、という実に恐るべきフツーの秘密があったのです(笑)。

 かように今回のこのドラマ、「表と裏の顔」、というテーマで統一されている気がしました。

 そんなジイジからタバコをもらって、「地獄の快気祝い」 の会場から抜け出した慎二。
 頭の中は混乱の極致、「具合が悪い」、とかろうじて言い訳が出来る程度。
 快気祝いのあと家族が出払ったところに、ひとり自宅にいる慎二のもとに電話が来る。
 沙希です。
 隣家に呼ばれ、「一体何を考えてるんだキミ…!」 と怒鳴り込んだはいいものの、いきなりキャミソール姿の沙希が着替え中(笑)。 クールダウンを強制的に強いられます(笑)。

 そんな沙希、どうしてこんなことをするのか、という理由を語り出します。

 「ここに引っ越してきてすぐ、となりに、とっても、きれいでかわいい人がいるのが分かったの。

 ただきれいでかわいいだけの人なら、いっぱいいるけど、彼女まるで、…
 からだじゅうのどこ切っても、幸せな蜜があふれ出そうな…。

 幸せって人を輝かせるものなのね…。

 眩しくて、羨ましくて、私、クラクラした。

 …私、

 彼女になりたかったの」

 慎二だけではないと思いますが、こんなことをする沙希は、やはり理解不能。
 慎二は思わず叫んでしまいます。

 「人が、幸せだったら、なんだっていうの?!」

 沙希はこう答えます。

 「不幸を味わえば分かる。

 …本当の不幸をね」

 いっぽう絵里子はもはや夫のことが、完全に信じられなくなっている模様。
 会社の電話にさえ疑心暗鬼の表情を向ける。
 そんなどす黒いオーラが、檀れいサンから出ているのが分かるくらいの演技力であります。
 そのくぐもったオーラに息子の駿クンが、敏感に反応しているのがとてもよく分かる。
 牛乳を園児服にこぼしてしまったことを必要以上にきつく叱る絵里子。
 駿クンは泣いてしまい、慎二も絵里子をたしなめるのですが、もはや絵里子は、そのことに反省とか後悔をする心の余裕すらない。

 夫との話し合いをするために駿クンを両親の家に預けようとしたときも、駿クンは言うことをきかない。
 母親の心の余裕のなさを、やはり感じ取っているのでしょう。
 まわりに幼稚園児や母親たちがたくさんいるのに、構わず駿クンを激しく叱ってしまう絵里子。
 哀れなほどに、完全に、自分を見失っているのが分かるのです。

 その直前に交わした友人の真由美(三浦理恵子サン)との会話で、絵里子は自分がおっとり系のかわいらしい女だと思われていることを、はからずも知るのです。 自覚症状なしか…(笑)。

 「私って、そんなふうに見えてるんだ…」

 自分が他人からどう思われているか、ということは、結構自分では分かっている気になっています。

 ところが人にいざ自分の印象を訊いてみたりすると、そんなところが不快に思われてるんだ、とか、すごく意外だったりする。

 夫の浮気でモヤモヤしていることもあるから、余計にこの真由美の言葉は絵里子にとってショックだったに違いありません。
 夫との話し合いでも、絵里子は今までの自分が否定されていくような慎二の言動に、心を逆なでされていくのです。

 「ママもさ、もっと、世間知ったほうがいいな。 ま、外に出てないから仕方ないけど」

 絵里子は大阪の慎二のマンションで女ものの櫛に長い髪の毛が残っていたことを、いわば最後の切り札としてとっておいたのですが、却ってこれが逆効果。
 夫が完全にシラを切る対抗策に出てしまったため、その切り札を使わなければならなくなるのですが、これって心理的な負担がとても大きい気がする。
 ここまで夫がシラを切ってしまったら、もう相手に対する信用度は地に落ちますからねえ…。
 最初に使えば、傷は浅くて済む気がしました。
 ことここに至っては、慎二も頭を下げるしかなくなる。
 夫も自分が嘘をつきとおそうとしたことが、妻に筒抜けだったということで、相当自己嫌悪に陥りますよ。

 「もう、終わったんだ…。

 ゴメン、傷つけて…」

 絵里子は憔悴し切った表情から、何かの興味がもたげたかのように、慎二に向かって顔を上げていきます。

 「どんな人…?

 それって、どんな人…?

 (嗚咽して)あたしと全然違う…?

 訊いちゃいけない…?

 あたし訊く権利があるでしょ…?!

 私は何…。

 ねえ私はもう要らないの?!」

 「そういうんじゃないんだ」

 「じゃあどういうのよ!」

 「落ち着け! ママらしくないぞ」

 「あたしらしくないって、…『あたしらしい』 って何よー!」

 慎二の胸を平手で(彼女にとってはいちばん強い調子で)ぶち、絵里子は泣き崩れてしまうのです。 

 自分が考えていた自分(主体)と、他人から見えていた自分(客体)の落差に打ちのめされていたがゆえに、他人や夫が勝手に自分のことを分かったような気になって定義づけるのがとても耐えられない。
 絵里子の自我崩壊のからくりは、見る側の心を震撼させるのです。

 そんな修羅場にかかってきた電話。
 駿クンが両親の家で、帰りたいとぐずっているから今から帰らせる、という電話です。
 結局両親の家から帰ってきた駿クンは、絵里子を素通りして、確信犯的にその場に居合わせた沙希(修羅場も隣からすべて観察済み)の胸に真っ先に飛び込んでしまう。

 これは母親にとっては、かなりのショックですよ。

 しかも自我崩壊したその矢先の出来事ですからなおさらです。

 「あらあら、ママを間違えちゃったのねー」 と、なんということもなく口に出すバアバ。

 「駿! いらっしゃいっ  ! ! 駿 ! !」

 ものすごい剣幕で駿クンを家に連れ戻してしまう、絵里子。

 そんな絵里子に、さらなる試練が待ち受けているのです。
 ズタズタだな、こりゃ…。

 離婚調停中の夫(高知東生サン)から絵里子の隣の家に住んでいる理由をばらしてしまうぞと言われ、沙希はある決心をするのです。

 それは、絵里子に自分が慎二の浮気相手だ、と打ち明けること。

 散らかり放題の絵里子の家に半ば強引に上がり込んだ沙希。

 「まだ気付かないの…?」

 夫の浮気相手がまだ分からないでいる絵里子に、沙希はこう問いかけるのです。
 そのときの沙希の表情は、絵里子を面白がって睥睨している、というよりも、絵里子のあまりの純粋さに、あまりのお人よし加減に、ちょっと、ほんのちょっと哀れさを催したような表情に、私には見えました。
 沙希のその言葉に、少し驚いたような感じで、顔を上げる絵里子。

 「ご主人の浮気相手、私なのよ」

 「え…?」

 「櫛があったでしょ。 …あたしの」

 画面が少しずつ傾いでいきます。

 「ごめんなさい。 心苦しくて、あたし…、黙ってるのもつらいしね」

 ぼんやりしたような表情の絵里子。
 まるで告白のしがいがない、というように問いかける沙希。

 「分かってる…?
 あたしだ、って言ったのよ。
 このあたしが、ご主人の…」

 「嘘…!」

 「嘘じゃないの残念ながら。 残酷な現実ってあるのよ」

 ここで、かつて絵里子が沙希の浮気を容認した回想シーンが挿入されます。
 あんなこと言っちゃったから?
 言わなければよかった、あんなこと…。
 どうして認めちゃったんだろう?
 絵里子の気持ちが、渦のようにぐるぐる転回しているのが見えるかのようです。
 ついに気持ちが爆発してしまう絵里子。

 「なぜそれを私に言うの…?

 …ひどいじゃない… ! !

 なぜわざわざ言うの?!」

 「なぜ?
 …そうね、なぜかしら」

 あくまで冷静を装おうとしている沙希。

 「友達だと思ってたのに…!」

 歪みまくる絵里子の顔。
 沙希は思わず、笑ってしまうのです。 うう、なんだこれ。

 「…笑ってるの…?」

 「(こみ上げる笑いを押さえながら)ごめんなさいね。

 あたし、なんかこういうとき笑いたくなっちゃうの。

 じゃあ、帰るね。 用事が済んだから。

 お大事に」

 「お大事に」 じゃないでしょ!という感じですが(笑)。

 「あ、分かった。

 わざわざ言いに来た理由が。

 その顔を見たかったからだわ」

 第7回、以上。

 ここでの沙希の表情を見ていると、人間的な感情に行きつ戻りつしながら、残酷さをわざと絵里子に対してアピールさせているように私には思えました。
 それはけっして、絵里子に対する復讐の気持ちなんかじゃない気がする。
 自分のなかの、ある思いに対してその残虐な気持ちが向けられている気がする。
 勘違いかもしれませんけどね。
 純粋に残酷な気持ちを発散させるのであれば、ハリウッド映画みたいに単純なワルモノキャラにすると思うんですけど、ここでの沙希は、その思いに対して、どことなく迷いを生じているような気が、するのです。

 それにしても、人にはいろんな面がある、ということが重層的に表現されていたように感じた、今回の 「美しい隣人」。
 加速度的にドラマが終わりに向けて白熱してきた印象が、とても強くするのです。

「美しい隣人」 に関する当ブログほかの記事

第1回 勝手な先読み、という恐怖増幅の方法
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/1-f59a.html
第2回 鏡の中と現実の浮遊感http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/2-50e1.html
第3回 隔離された 「傷つく構造」 http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/3-31ec.html
第4回 「あたりまえ」 の崩壊http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/4-1a05.html
第5回 傷つける言葉http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/5-76e0.html
第6回 信じようとする意志の 「脆弱性」 http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/6-1e2a.html

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コメント

「その顔を見たかったからだわ」には恐れ入りました。すごいシーンでしたね。

沙希は以前、「もし私があなたを裏切ったらしちゃってもいいから」って言ってましたよね。
キッタハッタになるんでしょうか?

物語としては「絵里子夫婦の絆が沙希の悪意に勝つ」っていうのが美しいですが
…ダンナが沙希に惹かれたのも事実。

絵里子が予想外のものすごい変化をみせるかもしれませんし、先が読めません。

とにかく、これまでの沙希のいろいろな策略に対し
「なんでアタシをターゲットにした?」ってことは面と向かって聞いてほしいですね。

あと、沙希の悲しみも成仏させないといけませんね。

投稿: マイティ | 2011年2月24日 (木) 00時03分

マイティ様
コメント、ありがとうございます。 ちょっと返信、遅れました。 爆睡していましたcoldsweats01。 まだ寝足りません(笑)。

「もしも私があなたを裏切ったら…」、沙希も絵里子に、そこまでの覚悟で攻撃を仕掛けている、ということなんでしょうね。 自爆覚悟か…。 次回は 「反撃開始」 だそうですから、ラヴ・ウォーズが見られるかもしれません。

このドラマ、もう撮影が終わってしまって訂正が利きようもない、というのが、作り手の覚悟をとても強く感じます。 つまりラストまで自信を持って作り上げてしまっている。 まるで単発ドラマとか映画のノリじゃないですか。 すごいなーと思います。

成仏させなければならない沙希の思い、というものを見る側に感じさせるところが、このドラマの秀逸な部分かと思われます。 沙希の側に事情がある、だけでなく、それが沙希の行動の常軌逸脱性にまで深くかかわっているような。

「四十九日のレシピ」 のレビューも早く書きたいですが、あ~また、ひと眠りしたい…(笑)。 今日は、お休みです…。

投稿: リウ | 2011年2月24日 (木) 13時30分

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