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2011年3月20日 (日)

「ダークエイジ・ロマン 大聖堂」 第6回 神の意志はあるか

 モードから市場開催の権利を承認してもらうためフィリップは100ポンドをアリエナから借りていたのですが、モードが劣勢になることでそれがフイになってしまう。 そこに今回のウィリアムの襲撃による商品消失。 アリエナはリチャードのバックアップが出来なくなり、絶望に打ちひしがれます。 手下を雇ったり必要経費がなんだかんだとかかって、騎士でいられるのもそんなにたやすいことではないようであります。

 そんなアリエナの絶望を見ていたアルフレッド。
 父親のトムのあとを継ぐ、とフィリップに持ちかけます。
 彼が考えていたのは、トムからソデにされていた、大聖堂天井を石材で弓状にする構造の建築方法。

 これは、トムが 「無理だという言葉は捨てろ」 と教訓していたことの逆効果の意味合いを持っています。

 無理だということに果敢に挑戦することと、無謀なことをやるのとは違う。
 フィリップはアルフレッドの意見に耳を傾けます。
 これが今回後半の悲劇へと、つながっていくことになる。

 フィリップから棟梁として認められたアルフレッドは、アリエナに求婚します。
 経済的な絶望のなかにいたアリエナは、ジャックへの思いを断ち切れないながらも、それを受け入れる。 修道僧としてこの地にとどまっていたジャックはそのことに激高して暴れ、地下牢に閉じ込められます。

 いっぽうモードの敗北が確定しても、ウェイルランとリーガンの目論みは破綻することなく着々と進行中。 カンタベリー大司教を亡きものにしようと、息子のウィリアムの結婚をお膳立てして、カンタベリー大司教を呼び寄せる手はずを整えます。
 ちょっとこれは意外でした。
 なぜならリーガンは息子のウィリアムに対して、近親相姦的な感情を抱いている。
 それなのに息子を誰かに取られることに対してあんまりためらいがないんだなあ、という感じ。
 これは推測ですが、リーガンはそんな息子でさえ、目的のための道具としか考えていないのかもしれません。
 道具だから、倒錯した愛情も向けられる。

 地下牢に閉じ込められたジャックは、母親のエレンに助けられて脱獄。 この牢は、ジャックの父親であったフランス人の男が閉じ込められていた場所でもあったのです。
 そこから抜け出したジャックはアリエナの元へと向かう。

 ジャックとアリエナはその場でベッドを共にするのですが、このときにアリエナは、ジャックの子供を授かってしまったようであります。 でも、弟を爵位につける誓いを破れないアリエナは、ジャックとの仲をあきらめざるを得ない。
 後日アルフレッドと結婚したアリエナは、アルフレッドが不能であったことが原因で彼から不遇な扱いを受けるのですが、そんななかでジャックの子供が出来ていることを悟る。 けれどもそれをアルフレッドに隠し通すことを決意します。

 まあすぐにばれることなんでしょうが、どうなんでしょう。
 当時の服装から言って、お腹が大きくなることをそのまま隠し通せたとも思えます。 それともアルフレッドは、その秘め事を知りつつも鬱々と不満を鬱積していったのでしょうか。 ここらへん、細かい描写がなくてちょっと混乱します。

 リーガンはカンタベリー大司教を呼び出すことに成功、回廊上部から突き落とします。
 うーん、神をも恐れぬ所業…。
 リーガンはその罪におののいたのか、狂気をはらんだ声で、その場で叫び続けます。

 数カ月後。

 いっこうに息子が爵位を与えられないことにいら立ったリーガンは、ウェイルランを脅迫します。

 「私は24年も忍耐強く待ってきたのよ!」

 息子の剣が、ウェイルランの喉元に突き付けられます。

 「地獄で焼かれるぞ」

 地獄に堕ちる、というのは、いずこの時代も世界中どこに行っても、宗教者のおんなじ脅迫文句のようであります(笑)。 けれどもリーガンは眉ひとつ動かさない。

 「バカ言わないで。 息子の罪はあなたが許したでしょ?」

 リーガンは聖職者の言い分など、ただのたわ言としか受け取っていないのです。
 「私を満足させろ」 と言われて股間をさわったり、リーガンは聖職者の暗部の構造を、知悉しているようであります。

 ウェイルランは脅されながら、キングスブリッジの大聖堂中心部の、弓状の天井が閉じたことを祝う席でウィリアムの爵位を報告する、と約束します。

 そしてその当日。

 大司教に昇格したウェイルランが、ウィリアムの爵位を発表します。
 鳴り響く拍手と、打ち鳴らされる床。
 その振動が、石で組み立てられた、弓状の天井を、徐々に崩していくのです。

 そして大音響とともに、その祝いの場を直撃していく巨大な石たち。

 この場面、ちょっと津波を連想させて、恐怖が倍増しました。
 善き者も悪き者も、その場にいたすべての者たちが、その惨劇に言葉を失います。
 79人もの人々が、この事故で死ぬことになるのです。

 この石の崩落によって、その場に居合わせていたカスバートの妹ケイトも、死んでしまう。
 彼女は悔い改め、娼婦となり下がっていた身を恥じ、兄を頼って来ていたのです。

 血だらけになって息絶えた妹を抱えながら、カスバートは神に向かってこう責め立てます。

 「イエス様、なぜです?

 慈悲を求めた妹への答えが、これですか!

 私は命を捧げたのに!

 なぜ妹を殺したんです!

 なぜケイトを…」

 直近、大災害に直面したからでしょうか、このカスバートの言葉は、私の胸をえぐりました。

 この事故には、確かに複合的な要因が積み重なっている。
 言わば、人災のひとつであります。

 けれども、もし神や仏が意志によって救いたもう者を選んでいるのならば、こんな無差別な事故など、起こすはずがない。

 要するに、神に意志なんて、ないんじゃないか。

 そりゃ、思い返してみれば、思い当たるフシなんか、人間誰にだってあります。
 みんな後ろ暗いところを、何かしら抱えているのです。
 だからそのバチがあたったのだ、という理屈は、いくらだってつけられる。

 しかし、そこに神の選別意志など、私は正直感じることができません。
 悪い者はいくらだって生きているじゃないですか。
 死んだあと地獄に行くにしたって、生きている間はのうのうと生きているじゃないですか。

 私はもし超越的な存在があるとすれば、それはどんな試練にも耐えようとする、人間自身の意志なのだ、と感じます。
 神が宿るとすれば、そこだ。

 この事故のショックか、アリエナはその場でジャックの子供を産んでしまいます。
 衝撃を受けるアルフレッド。
 自分がこの事故の責任の一端を担っている、という罪の意識など吹っ飛んで、憤怒だけが彼を支配する。
 彼はアリエナを、家から叩き出すのです。

 ウェイルランはこの一件によって大司教のポストを撤回され、フィリップは一介の修道士に降格。 大聖堂の建設も中止。 キングスブリッジの院長には、フィリップが聖アドルファスの遺骨をねつ造していた事実を暴露したレミジウスに。 ウェイルランと結託している、ワルモノです。

 家を叩き出されたアリエナは、生まれたばかりの赤子を抱きながら、父親のことを調べるためにフランスへと向かったジャックを、追いかけることになるのです。

「ダークエイジ・ロマン 大聖堂」 に関する当ブログほかの記事

第1回 圧倒的な徹底ぶり
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/1-237d.html
第2回 骨のあるドラマとはこういうものかhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/2-4477.html
第3回 利用される神々http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/3-537a.html
第4回 むせかえる死臭のなかでhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/4-34e0.html
第5回 永遠の一部たるべきものhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/5-a7e7.html
第6回 神の意志はあるかhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/6-69bf.html
第7回 信仰の本質とは、どこにあるのかhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/7-1f00.html
第8回(最終回)前編 神とどう向き合うのかhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/8-46ec.html
第8回(最終回)後編 神になるのか、神を敬うのかhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/8-1065.html

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BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 上

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     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ記事より抜粋)。 この上巻ではビートルズの祖先から遡ってリバプールで人気に火が付き始めたところまでが書いてあります。

  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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