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2011年3月 8日 (火)

「冬のサクラ」 第8回 本当の愛情

 相手にとっていちばんいいことって何なのか。

 今回の 「冬のサクラ」 を見ていて、そんな感情に包まれました。

 自らの命より自らの記憶を選んだ萌奈美(今井美樹サン)。
 そんな彼女、失語症、そして手足の痺れと、病状がさらに深刻さを増していく。
 萌奈美の娘琴音(森迫永衣チャン)はそんな母親にとって、いちばんいいことって何なのだろう?と考えた末、行動に異様なものを感じ始めている父親航一(高嶋政伸サン)のもとで治療をすることではなく、祐(草彅剛クン)がそばにいられるような山形の病院、という環境で最期を迎えさせてあげることを選びます。
 認めたくない気持ちも殺しながら、「祐さんっていい人だね」 と母親に告げる琴音。

 これって娘としてはつらい決断です。
 なぜなら要するに、母親の不倫を認め、さらに言うならば、これまで信頼してきた父親を見限ってしまう行為でもあるからです。

 自分から、父親から、母親を奪い去っていった男に対して、こういう判断をせざるを得ない。
 (話は前後しますが)萌奈美が担ぎ込まれた山形の病院に駆けつけ、「君の気持ちも考えず手術を強行しようとして悪かった、頼むから帰ってきてくれ」 と土下座する父航一に、自らのその決断を話し、琴音は父親と一緒に東京へと帰るのです。
 父親の行動に気持ちは引いているのでしょうが、そんな父親を支えてあげようとする娘の気持ちは、思春期の女の子の成長、とも言えるのですが、その実あまりにも不憫なようにも感じられる。

 そして祐。

 弟の肇(佐藤健クン)から、「まだコクってないの?」 とせっつかれていたんですけど(笑)、今回登場した父親の片岡雄一(篠田三郎サン…すごくいい感じにお年を召しましたねー…もっといろんなドラマで拝見したいです)との出会いの中で、萌奈美に自分の愛してるという気持ちを伝えるのはやめよう、結局萌奈美を苦しめるだけだ、という結論に達するのです。

 いきなり現れた雄一。
 今までにない態度でその父親を、最初は拒絶した祐でしたが、母親が 「雄一さん」 という名前を最後まで口にしていたことを思い出し、母親の仏前に線香を手向けさせてあげるのです。
 これまで分け隔てなく誰にでも優しく接していた(航一には別か)祐が最初、ここまで強い調子で拒絶するのは、いかに自分がこの人のために苦しめられたか、ということを如実に想像させる。
 でもそんな自分の強いこだわりでさえも、母親の気持ちをいちばんに考えるからこそ、思い直し受け入れるのです。

 建設関係で転勤続きのとき、祐の母親百合(吉田日出子サン)と不倫関係に陥り、そのまま転勤で別れてしまった、という経緯を祐に打ち明ける雄一。

 「私にこんなことを言う資格はないが…百合さんは私にとって、かけがえのない人でした。 …ただ…その思いを伝えることはできなかったが…」

 「ご家族がいたからですよね?」
 と訊く祐。

 「うん…。

 でも…心の底から愛しているからこそ、口に出せないこともあるっていうか…。

 言葉にした瞬間に、薄っぺらいものになってしまう気がしてね…」

 そんな自分の実の父親に、母親が最後まであなたの名前だけは覚えていた、と告げる祐。 万感をこめて、祐に礼を言う父親。
 おそらく一晩母親のいた部屋で泊ったのか、母親の仏前にきれいにたたまれた布団の上に、印鑑と預金通帳が置かれているのを、祐は見つけます。
 その金額に、父親も決して楽ではなかったこと、そして自分の息子のことを、いつまでも忘れていなかったことが見てとれる。

 「心の底から愛しているからこそ、口に出せないものがある」。

 何でもかんでも愛情を確かめ合うのが、本当の愛情じゃない、ということを祐は感じたに違いありません。 祐は肇に、自分の思いを伝えないことをケータイで話すのですが、これって肇からせっつかれていたからこそ 「結果報告」 するわけで(笑)。 律儀な兄であります。
 いずれにしても、どんな人たちに対しても最後まで気配りを忘れない。
 地味~だけど、こんなできた人間はおらんですよ、今どき。

 祐は萌奈美に、自分の育った場所を見てほしい、と持ちかけます。
 自らの熱を押してでも、その外出を看護婦さんに希望する萌奈美。

 「どうしてもやりたいことがあるんです。

 だから行きたいんです。

 少しでも、体が動くうちに」

 病状がかなりの深刻さを伴っているからこそ、生きているうちに、相手の言葉を理解できるうちに、やってしまわなければならないことがある。
 翌日萌奈美は、祐に雪の中のリスの巣を見せてもらったり、雪をかぶってしまう祐に大笑いしたり、祐との穏やかなひと時を過ごします。
 ここで小さなプラネタリウムに忍び込んだふたりは、駐在の次郎ちゃん(山崎樹範サン)が、好きだった幼馴染みの千尋(遊井亮子サン)への願掛けで落書きしたふたりの名前が、織姫と彦星に 「逆」 に彫られているのを見て笑います。

 この千尋。

 このドラマではホントに、ほんのわずかしか登場しないのですが、冬に咲くサクラを育てている千尋は、今でも時々祐と顔を合わせています。
 そのときに祐に見せる表情は、千尋が祐に気があることを実に分かりやすく表現している。
 ところが今回のこのシーンで、祐は友人の次郎ちゃんが千尋に恋していたことを知っていた、ということが判明しました。
 つまり次郎ちゃんの気持ちを考えた祐は千尋の気持ちに応えてあげることが出来なかった、という経過が、ここから推測されるのです。

 相手のこと(この場合は次郎ちゃん)を考えすぎる祐の性格の一端も、ここから浮かび上がるのですが、そのことで少なからず傷ついている人(千尋)もいる、ということをここでは読み説くことができる。
 深い構造になっています。

 雪の中に立つ一本桜のもとを再び訪れたふたり。

 「春はまだ先ですね…」

 「でも必ず来ます。
 花を咲かせるときは必ず来る」

 「そうですね…」

 その日まで生きていられるかどうか…という悲しみが、萌奈美を包み込みます。
 そんな萌奈美に、祐はこう話します。

 「萌奈美さん。
 約束しましたよね。

 一緒に、またこの桜を見ようって。

 春になったら、また来ましょう。

 満開の桜を、一緒に見ましょう」

 悲しみを乗り越えて、「はい」 とうなずく萌奈美。

 萌奈美は祐に、半分不自由になった手を使って、肉じゃがを作ります。
 祐から止められながらもそれを押し通し、鬼気迫るような手つきでピーラーや包丁を使う萌奈美。
 「どうしてもやりたいこと」 というのは、実はこのことだったのです。

 かつてこのドラマの最初の部分で、記憶が戻った萌奈美は非常にあわただしく祐のもとを去って行きました。
 そのときに祐と約束して果たせなかったのが、祐の好きな肉じゃがを作ってあげることだったのです。

 「すみません、時間かかっちゃって…」

 「覚えていてくれたんですね」

 「はい。 あのとき作れなかったから」

 「いただきます…」

 ジャガイモをひとつほおばる祐。

 「どうですか…?」

 泣きそうになりながら、言葉を探し続ける祐。

 「う、…うまいです…」

 相好を崩す萌奈美。
 「よかった…!」

 ただ肉じゃがを食べるシーンなんですけど、泣けました。

 「考えたんです。

 私は、祐さんのために何が出来るんだろうって。
 いろいろ考えたんですけど、これくらいしか思いつかなくって…。

 それが、私の人生人生だったんだなあって、…思いました。
 ささやかでしたけど…悪くなかった。

 最後の最後には、祐さんにも、…出会えた。

 これが、私の、祐さんへの、精一杯の気持ちです」

 胸に迫ってくる思いに気圧されそうになりながら、祐は 「…ありがとう…俺、忘れません」 としか言うことが出来ないのです。

 相手のことを、平凡だけれどここまで思ってくれる萌奈美の気持ち。
 相手のために何が自分はできるのか。
 相手にとって、いちばんいいことって何なのか。
 祐はこのときに、もしかすると今回ラストにつながる決断へと至ったのかもしれません。

 祐が千尋のもとに啓翁桜を取りに行っていたそのとき、航一が萌奈美の前に現れます。
 航一は自分が萌奈美を愛していることをそのままずばりと切り出します。
 祐が相手のことを思って胸にしまいこんでいる言葉を、航一は自分の気持ちを優先しているがゆえに、ズバリとその気持ちを伝えるのがいいことだと思い込んでいる。

 「君は僕が君と向き合わないと言ったね。
 でも僕は君に何不自由ない生活を与えてきたじゃないか。
 ちゃんと愛してきたじゃないか!
 ほかにどうしろって言うんだ!
 君にも僕を愛してほしかった。
 僕だけのために生きてほしかった。
 それの何がいけない?
 夫婦なんだ。 当たり前だろ?
 あの男が現れる前までは、なんにもなかったじゃないか!」

 倒錯してます(笑)。 萌奈美は当然反駁します。

 「私は、自分の本当の気持ちに、フタをしてしまっていたの。
 …開ける勇気がなかったの!

 その勇気を、

 …その勇気を、祐さんにもらったんです」

 思いつめた航一。
 メスを片手に、萌奈美を殺そうとするのです。

 そこに飛び込んできた祐。 もみ合いの末、航一を力いっぱいぶん殴る。

 「いい加減にしろよ!
 萌奈美さんは限られた命を、必死に生きようとしてるんだ!
 何で分かってあげないんだよ!」

 「お前に何が分かる ! ! !
 僕は…僕は萌奈美を愛してるんだ!」

 「だったら!
 最後ぐらい!
 萌奈美さんの思う通りに生きさせてあげて下さい!

 あなたが、本当に萌奈美さんを愛してるんなら!」

 呆然とする航一。
 申し訳なさそうに頭を下げる、萌奈美。

 人を愛するということは、自分の感情を押しつけることじゃない。 相手にとっていちばんいいことを考えることだ。
 相手を思う気持ちとは、相手を束縛し独占しようとすることとは違う。
 このドラマの真のテーマが、見えた気がしました。

 突っ伏して悔しがる航一。
 今回の航一は、病院内で愛人の存在を大っぴらにしてしまったりとか、それをなじる母親(江波杏子サン)に食ってかかるとか、どうも社会的地位の存続も危ぶまれるほどの自我崩壊に至っている印象がありましたが、この祐の言葉は、どこまで航一の胸に届いたのでしょうか。

 航一が帰るのを見送ったあと(どこまでも律儀な男です…笑)、祐は部屋で萌奈美が倒れているのを発見。
 病院に運び込まれた萌奈美、心拍数は低下、生命の危機的状況に陥ります。
 このまま帰らぬ人になってしまうかのごとき描写。

 もしそうだとすると、萌奈美の人生最後の記憶は、航一と祐の修羅場、ということになってしまう。
 祐は萌奈美にとってそれがいちばんいいことなのか、考えたんじゃないかな、って思うんですよ。
 そして祐の心をあらたに侵食し始めたのは、記憶がどうなってもいい、萌奈美に生きていてもらいたい、という感情。
 愛する人の死に直面したとき、自分が今まで理性的に保っていた建前が、崩れてしまう瞬間がある。
 この祐の葛藤は、見ていて緊張しました。 祐は航一に、萌奈美の命を助けてもらえるかどうか、頼んでみると肇に言い出すのです。

 萌奈美はひょっとすると、自らの記憶をなくしながら、生きてしまうのかもしれない…、そんな展開になってきました。
 航一が本当の愛情に気付くことが出来るのかも含めて、ますます目が離せなくなってきました。

「冬のサクラ」 に関する当ブログほかの記事

第1回 …大丈夫…
http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/1-1d6a.html
第2回 「逢いに行こう」、「なんのために?」 http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/2-96f6.html
第3回 折れた翼で飛び続けることhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/01/3-cff9.html
第4回 自分の納得する生き方をhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/4-5b32.html
第5回 冷たく乾いた罠http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/5-906b.html
第6回 …間違ってないよ… http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/02/6-7950.html
第7回 翼があることを信じてhttp://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/7-8d77.html

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コメント

院長は「否定されたくない」という気持ちが強い人なんですね
医者の家に生まれ、相当抑圧された人生を送ってきたのかも。

>萌奈美はひょっとすると、自らの記憶をなくしながら、生きてしまうのかもしれない…、

そうかもしれません。
すっかり記憶がなくなったとしても
娘さんが「山形に桜を見に行こう」と誘い出して、また祐と初対面として出会う
…っていうのも美しい展開だと思いますけど、どうでしょう。

投稿: マイティ | 2011年3月 9日 (水) 19時27分

マイティ様
コメント連投、ありがとうございます。 先の返信のあと力尽きました(笑)。 時間差の返信失礼いたします。

航一サンは改心する可能性を残しているな、と見ていて感じました。 メスを手にしたときは 「萌奈美を殺してぼくも死ぬ」 かと思いましたが(笑)。

となると萌奈美も生きていていいような感じがするんですよ。 姑さんの理解も得られた気がするし。

するとマイティサンのお考えの展開が、すっごく余韻の残るものなんじゃないかな、って。 読んでて思わずウルウル…いやまだ早いか(笑)。

投稿: リウ | 2011年3月10日 (木) 12時26分

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