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2011年8月 1日 (月)

「それでも、生きてゆく」 第4回 触れようとしない意志、触れようとする覚悟

 密告することで、娘を殺した犯人の家族の居住先を転々とさせる、という復讐を行なってきた大竹しのぶサン。
 息子(瑛太クン)の尽力によってその復讐劇は終わったのですが、自分が転居させたその加害者家族の居住先にやってきて、家族(時任三郎サン、風吹ジュンサン、福田麻由子チャン)に出くわします。
 そのとき福田麻由子チャンが着ていたゴリラの絵の入ったTシャツを見て、同じTシャツを着ていた満島ひかりチャンが、加害者家族のひとりであったことを大竹サンは知るのです。
 このことを知るのは時間の問題、などと前回のレビューで書いてしまいましたが、坂元サンのドラマに出てくる人たちはみな一様にすごくカンがいい、ということを忘れていた(笑)。

 それはそれといたしまして(笑)、被害者家族の大竹サンを、加害者家族の住むところへ向かわせたものは、やはり 「真実が知りたい」、という欲求だと思うのです。
 「どうして亜季は殺されたの?」 と亜季チャンの幻影に問いかけられた大竹サン、自分が復讐ばかりに汲々とすることで、今まで自分がわざと目をそらせてきたことに気付かされたんだ、と思うのです。

 大竹サンは瑛太クンと行動を共にしている満島チャンを、最初瑛太クンの恋人もしくはガールフレンドとばかり思っていたんでしょうが、ゴリラのTシャツに気付いてしまった大竹サンは、もはや満島チャンと、従来通り話すことができません。
 検視調書、亜季チャンが姦淫されていなかったことを読んだのか?と冷たく満島チャンに訊く大竹サン。
 大竹サンに自分の正体を知られていないとばかり思っている満島チャンは、「よかったですね」 と思わず他人事を装ってしゃべってしまいます。
 それを聞いてキッと満島チャンを睨み返し、「何がよかったの?」 と努めて平静を装いながら尋ねる大竹サン。
 「双葉ちゃんでしょ?」
 大竹サンは、小さいころの彼女を、覚えていたのです。
 顔から血の気が引いていくような表情の満島チャン。
 「さっきお宅へ行ってお父さんとお母さんに会ってきたわ。 ――会いたくなかったな」
 いたたまれなくなって、その場を立ち去る満島チャン。

 被害者家族は、やはり加害者家族が罪の意識にさいなまれながら暮らしていないと、自分のなかにしまいこんでした報復の心が頭をもたげるものだ、と思います。
 「姦淫されてなくてよかっただとぉ~?フザケンナ!」 という感じですよね、確かに。
 そして大竹サンの心を逆なでしたのが、再会した際に時任サンが相変わらずつけていた、という、高級そうな腕時計。
 満島チャンがその場を去ったあと、大竹サンは瑛太クンに、事件前の思い出を語ります。
 当時、時任サンは町が誘致した時計工場の課長さんで、とても羽振りが良かったのですが、柄本明サン(大竹サンの当時の夫、瑛太クンの父親)が酔っぱらって時任サンに話しかけたとき、蔑むような感じで 「がんばってくださいよ」 と肩を叩かれた、と。
 時任サンがいまだに身につけていたというその腕時計は、大竹サンにとって夫の柄本サンが侮辱された象徴的なアイテムなのです。

 そのことを語る大竹サン、回想シーンなど一切入らないのですが、そのときの状況がまざまざと目に浮かぶような、見事な語り口。

 うなります。

 そのせいか、その思い出話に聞き入る瑛太クンも、父親が侮辱されていた、という怒りが、しっかりと潜在的に刷り込まれていくのです。
 この大竹サンの独白場面は、今回の物語を動かすキモでしたね。

 「あのとき――あの子もそういう顔してた」

 大竹サン、柄本サンの肩を叩いていた時任サンを、事件の犯人である文哉(風間俊介クン)も同じような顔で蔑むように見ていた、というのです。
 文哉が父親に抱いていた思いと殺人との関連性の糸が、ちょっと垣間見えた気がしました。

 この回想のくだりで、大竹サンは少女時代の満島チャンが、殺された亜季チャンに、野茂選手のトルネード投法を真似して喜ばれていたことを語ります。 その様子をなんとなく面白がりながら真似しようとして瑛太クンに話を伝えようとする大竹サン。
 ここ笑っちゃいましたが、亜季チャンが喜んでいた、という記憶が、大竹サンを面白がらせちゃうんだと思うんですよ。
 同様に、夫だった柄本サンの話をするときの大竹サンも、とてもうれしそうなのです。
 「もともと骨壷みたいな顔だったじゃない」 とか(笑)、最初のデートで書道展、あり得ない、とか(笑)。

 その柄本サンの最期、文哉を探そうとしていた、という様子を瑛太クンから聞き、それまで亜季チャンの写真を全部燃やしてしまうという暴挙に心を閉ざしたままだった夫の骨壷に向かって、「御苦労さまでした…」 とねぎらう大竹サン。
 瑛太クンはこのとき、父親の気持ちにリンクしているような気が、私にはしました。 いわれのない一体感。 その一体感が、瑛太クンをこのあとの行動に駆り立てている。

 瑛太クンはその後、満島チャンから父親の時任サンの話を聞きます。
 時任サンは文哉に一度偶然遭っていたのですが、事件当時生まれてなかった福田麻由子チャンをはじめとする家族のことを考えて、声をかけられなかった、うちに引き戻すことができなかったらしい。
 時任サンにとってそれは家族を守るために、自分の息子を捨てたのだ、という、父親としての、家長としての紛れもない意志だった。
 けれども満島チャンもそのことに反駁したように、瑛太クンにも、時任サンが事件から逃げている、フタをしようとしている、というように映ったようです。
 満島チャンは被害者家族に何回か会おうとしたがダメだった、と語る父親に、何回じゃなくて何十回、何百回と会おうとしなければダメなんじゃないのか?と反駁していた。

 時任サンがそのことから逃げてしまったのは、家族の幸せを壊したくない、という思いからですが、それを象徴していたのは、福田麻由子チャンが作っていたカレーライス。
 カレーライスなんて、いちばん基本的な家庭料理のひとつです。
 誰にでも安価で作れる。
 それまで羽振りのよかった時任サンにとってみれば、「なんだこんなの、料理じゃない」 みたいに蔑んでしまいそうな、庶民的料理。
 それが、事件後の時任サンにとって、いちばん壊したくなかった幸せの象徴になっている。
 時任サンが被害者家族に対して積極的になりきれてなかったことが、このカレーライスひとつで、とても共感できるのです。

 瑛太クンはしかし、そんな時任サンに対して、何らかの行動を起こしたくなってくる。
 彼は時任サンの仕事用のワンボックスカーに文哉が置いていったと思われる日向夏(果物の名前、分かりました~…笑)を置いて、彼を事件当時の自分の住居跡へと向かわせます。
 ここで時任サンは、草ぼうぼうの住居跡で、何かを探そうとしていた。
 いったい何を探していたのかとても気になりますが、そこに現れたのが、瑛太クン。

 事件当時のその場所からほど近い喫茶店で、ふたりはおそらく初めて、きちんと向き合います。
 時任サンの言葉の端々にいちいち突っかかる瑛太クン。 当然です。
 瑛太クンの知りたいことはただひとつ。
 「なぜ亜季は殺されなければいけなかったのか?」

 なんとなく臆病な時任サンの反応に、瑛太クンの語調は、次第に荒くなっていきます。
 そんなとき、事件当時の近所の知り合いだったおばさんが、ふたりの会話に割って入ってきてしまう。

 おばさんは瑛太クンの怒りを通り越して、時任サンを激しく責め立てます。
 その話から、時任サンが昔エラソーな人だったというのは、周知の事実だったことが分かります。
 瑛太クンはその怒りのすごさに却って我に返ってしまい、おばさんを止めに入る。
 そのとき時任サンは、意を決してその場で土下座します。
 「やめてください」
 瑛太クンは時任サンの前にしゃがんで、まるで父親が以前に侮辱された仕返しみたいな感じで、冷たく言い放つのです。

 事件のあった町の商店街を歩きながら、瑛太クンは時任サンに、お宅の息子、殺してもいいですか?と切り出します。
 土下座されたくらいでは収まらない被害者家族の怒りが、物静かに時任サンを狼狽させる。

 「あのう…。
 文哉、殺してもいいですか?
 まあ、どこにいるか分かんないし仕事あるしマンガも読みますけど(?…笑)たぶん、殺す時が来たら、たぶん殺すと思います。 あなたが文哉捜す気ないみたいだし。

 僕の死んだ父は、ちょっとダメなところのある父でしたけど、でも最後はなんていうか、覚悟してました。

 たぶん、どう生きるか、ずっと考えてて、どう死ぬかずっと考えてて、最後は覚悟しました。
 すごく悲しいこととか、恐ろしいこととか理不尽なこととか…そんな逃げ出したくなるようなことと、最後は向き合う覚悟をしました。

 僕は、そんな父を、最後の最後に尊敬しました…」

 家族を大切にしようとして、目の前の問題にあえて触れようとしない心。
 真実を探ろうとして、不幸をあえて飲み込もうとする覚悟。
 どちらが正しい、ということは、一概には言えない気がします。
 ただし被害者家族の知りたい気持ちから、加害者家族は、逃げることはできない、そんな気もするのです。

 時任サンは、自分の息子を探して、一緒に住むと決意します。
 それを風吹ジュンサンや福田麻由子チャンの前で話そうとするのですが、そこで作られようとしていた料理が、カレーライス。
 幸せの象徴でもあるカレーライスを守ろうとするためか、風吹サンは頑強にその考えを拒絶しようとします。
 でも麻由子チャンは、「家族なんだから、受け入れてもいい」、という考えです。
 おそらく麻由子チャンの意識的には、そんなにそれが大変なことだとは、考えていない。
 「家族は大事」、というちょっとした浅い道徳観で、受け入れてもいいとしている気がします。

 けれども風吹サンが頑強に拒むのには、それ以上の理由があった。

 文哉は、自分の産んだ子供ではない、というのです。
 「それって、…じゃアタシは?」 という疑念が、満島チャンのなかで当然湧き起こります。

 泣き崩れる風吹サン。

 それを見て、すべてを悟ったように、何もなかったことを無理に装おうとします。

 「あっ、違う違う。 いいよいいよ」

 カレーを運ぶ会話に没頭しようとする満島チャンのこのセリフ、「今のことは聞かなかったことにするから」、というダブルミーニングでもある。

 「参っちったな、へへっ。

 あ、火、点けなきゃ」

 彼女はそのあと家からいなくなります。
 娘を探しに飛び出す時任サン。
 そのとき彼女は、道端で、小さいころから再び長い間することのなかった、野茂選手の投球フォームのマネをしています。

 「野茂できた」

 あまりにショックなことがあると、それを箱のなかに、閉じ込めてしまう。
 彼女のひょうひょうとした、人を食ったような態度は、加害者家族っぽくない、ということでは、ないのです。
 ひょうひょうと、悲しみを、ショックを、受け流さなければ、生きてゆけないのです。

 当の文哉は、自分の過去を知る安藤サクラサンを軽トラに乗せている。 荷台には、スコップ。
 折しも瑛太クンが連絡を取ろうとしていた、当時の看護師の知り合いの看護師。
 行方不明になっているらしい。
 これって文哉が、自分の意に沿わない人間を、次々殺してまわっている、ということなのか?

 満島チャンの幼いころの兄の記憶が、蘇ります。

 「お兄ちゃんと双葉は同じだよ。 夜を見たんだ。

 同じ夜を見たんだ」

 そこにはどんな闇が、広がっていたのでしょうか。

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コメント

 今期のドラマでこのドラマがやはり一番かなと思っています。 重いテーマのせいか視聴率は芳しくないようですが。

胸が苦しくなるようでした。 大竹さんの演技には本当に脱帽です。 主役のお二人もなかなかだと思います。 彼らを取り巻くキャストも素晴らしく、やはり坂元さんのドラマは見ごたえがありますね。

 先が気になるドラマです。

 

投稿: ゆみ | 2011年8月 1日 (月) 20時48分

「意志と覚悟」確かにそうでしたね。
リウさまのサブタイトルさすがですね。

大竹さんの演技、秀逸です。前回も今回も。
鬼気迫る演技とは、このことですね。

文哉と双葉の幼い頃に、何があったのか?
文哉は今までどうしていたのか?
これからの展開に目が離せないですね。

投稿: rabi | 2011年8月 2日 (火) 00時38分

ゆみ様
コメント下さり、ありがとうございます。

視聴率が悪い、ということは、あえて自分の意志で見たくない人が、あまりに多いんでしょうね。
ちょっとハスッパな物言いをいたしますが、このドラマにあえて目をつぶる人たちは、それを 「暗い」 とか 「満島ひかりの演技が受け付けない」 とか、まあ自分にとって都合のいい理由をあえてつけたがる、そんな気がします。

悪い奴にも理由がある、ということを、人はあんまり受け入れたくないのかもしれません。
だから人を殺した奴は死刑に決まってる、加害者家族は損害賠償するべきだ、…それは当然の気持ちですが、あえてもう少し踏み込んで、真実を見極めることをしよう、

…そう考えるのは、並大抵のことではないのかもしれません。

投稿: リウ | 2011年8月 2日 (火) 07時11分

rabi様
コメント下さり、ありがとうございます。

せっかくおほめいただいたのに、記事を読み返してみたら 「被害者家族が罪の意識にさいなまれているのを」 などとまったく逆のことを書いてしまっていましたcoldsweats01。 その部分、今そぉ~っと直しておきました(遅い…笑)。

それはそれとして、大竹サンはこのドラマで、キチンと全開で演技させてもらっているようです。 このドラマは、彼女のキャパシティを発揮できるドラマだと私も考えています。

風間俊介クンはやっぱり、人殺しなんだ、としか思えない描写が続いていますよね。
でもここまできて、このドラマ中で彼が亜季チャンを殺している現場の描写がない。
どぉ~も引っかかります(いつもの考え過ぎですかね、やっぱり)。

投稿: リウ | 2011年8月 2日 (火) 07時19分

お疲れ様です。

自分も今クールは、このドラマが一番だと思ってます。ちなみにモテキ再放送にもはまってて、満島ひかりのギャップというか演技の幅を楽しんでいます。

しかし展開も気になるし、見た後、なんかひきづるし、いいドラマですね。

投稿: ima♂ | 2011年8月 3日 (水) 07時53分

ima♂様
お久しぶりです。 コメント下さり、ありがとうございます。

「モテキ」 って、「カイジ」 とか 「アカギ」 とかと同じ系統のネーミングとばかり思っていたのですが(笑)、「モテる期間」 のことらしいですね。 私も生涯2度ほどありました、が、最近はさっぱりです(爆)。

「それでも…」 は 「流れ星」 と同じ製作陣。 同じ匂いを、ima♂様もお感じになっているのでしょうか。

投稿: リウ | 2011年8月 3日 (水) 12時40分

リウ様

>今そぉ~っと直しておきました。
そ〜でしたかぁ。気づいてたんですけど、指摘しなくても、読めばわかるかな?と思ってスルーしちゃいました。

風吹さんが風間君のことを、自分の子供じゃないからって言ったのを、私自身はなぜか素直に受けとれなくて、自分が産んだ子供じゃないと思うことで、自我を保っている母親という図式が浮かんだのですが、どうやら、それは表現どおりの親子関係だったみたいですね。

第5回目は、また大いなる転換点?になりそうですね。

投稿: rabi | 2011年8月 5日 (金) 17時32分

rabi様
再コメント下さり、ありがとうございます。

バレバレだった!(爆)
そりゃそうですよね。

このドラマはでも、見る人の心の形を探ってくるようなドラマですよね。
rabi様が風吹サンのことを同情的な目でとらえようとしていたのも、rabi様の心のなかに、慈愛の心が潜んでいるからなのでは?と思えます。

慈愛、なんというと大げさなんですが、要するに 「人を殺したら死刑、それでいいの?」 みたいに思ってしまう心のことなんだと思うんです。 冷たさに、怒りのままに感情を吐き出すことに、徹しきれない。

罪が憎いのか、人が憎いのか。
それを振り返ってみることのできる機会を、このドラマは与えてくれているのだと思うのです。

投稿: リウ | 2011年8月 6日 (土) 08時20分

このドラマを、もう何度見ただろう。
またDVDを見始めました。

今世紀最高のドラマと思っています。
その中で、野茂出来たのセリフは、凄く胸を打つ、最高峰のシーンでありセリフだと思います。

双葉の幸せだった頃から、殺人事件後の苦労、
実の子ではない事の受け入れ、いろんな意味を感じられる。心象描写として、映像表現として、練りに練ってる。

投稿: limo | 2017年5月 9日 (火) 15時47分

limo様
コメント下さり、ありがとうございます。

現実はドラマよりもっと猥雑で醜悪で、自らの性欲のためだけに少女を誘拐し凌辱する人でなしがいます。 そして捕まったあとも自分に都合が悪いから事件のことを一切しゃべらない、という、「黙秘してりゃ罪は軽くなる」 みたいな、ネット情報におそらく感化された卑怯な逃げ方をし続ける。 この件に限らず近頃は黙秘がどうも流行っている様子。

そしてその犯人の動向を見つめる私たちも、簡単に 「死刑以外に考えられない」、という短絡的思考を、このドラマが放送された当時よりさらにこじらせている。

このドラマはそういう人たち全員に見せたいものです。

投稿: リウ | 2017年5月10日 (水) 07時44分

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