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2012年6月23日 (土)

「外事警察」 第3-4回 秘匿すべき情報

 2年以上のブランクを置いたレビューとなります。
 第1-2回のレビューはこちら→ http://hashimotoriu.cocolog-wbs.com/blog/2010/03/1-2-365c.html

 この2年前の記事にコメントを下さった ゆき 様、書くと言っていながら結局そのままになってしまいました。 この場を借りてあらためてお詫び申し上げます。
 言い訳をいたします(笑)。
 このドラマ、特に住本健司を演じる渡部篤郎サンのセリフに、聞き取れないところが多数あった。 そのどれもが重要なセリフのように思われ、字幕がない録画ではレビューに限界がある、と感じました。
 そして協力者(スパイ)として敵(「フィッシュ」)の手先(ジュリオ)のもとに送り込まれた下村愛子(石田ゆり子サン)が、エライ危なっかしくて(ハハ…)。
 第3回の途中でその先が怖くて見ることが出来なくなりました(はぁぁ…)。

 「先が怖くて見ることが出来なくなる」、というのは、私の場合よくあるのですが、それとセリフの件とがあいまって、録画したものがほったらかしになってしまったのです(それ以外でも途中放棄のドラマ、ちょっと私、多過ぎますよね)。

 その2年の間に、ヒョッ子刑事を演じていた松沢陽菜は朝ドラ 「カーネーション」 主役として大ブレイク。 脚本の古沢良太サンは 「鈴木先生」「リーガル・ハイ」 など傑作を生み続けています。
 さらに 「外事警察」 自体も、映画化になるまでに成長いたしました。
 今回はその映画化の宣伝の一環でもあるのでしょう、「プレミアムサスペンス」 としてNHKBSで再放送してくれました。 レビュー再開です。

 前置き長いぞ(笑)。

 第1-2回までを見る限りでは、住本健司という人間は、公安の外事課を束ねる有賀局長(石橋凌サン)とつるんで 「行き過ぎ」 とも言える捜査を断行している、まさにドラマの中で表現される通りの 「公安が産んだ魔物」 という描写がなされていました。
 彼はその名の通り、公安にとっても危険な諸刃の剣的な存在。
 そして遠藤憲一サン演じる公安の陰の実力者・倉田は、住本と有賀局長の動きに目を光らせ、機会があれば彼らを潰そうとしている。
 さらに内閣官房長官の村松(余貴美子サン)は、秘密裏に諜報的な活動を続ける外事の存在そのものを、「平和な日本にテロなど起こるはずがない」 として、疎んじている。

 住本が魔物と化した背景に、彼の少年時代、同じ外事課の職員だった父親が死んだことが深く関わっているらしいことは、インサートで断片的に匂わされていた。
 住本は要するに、視聴者側にとっても、「ヌエ」 的存在なわけです。

 彼の行動にはいちいちウラがあって、捜査に関わる人物を自分の意のままに操ろうとする行動しか採らない。
 そのために相手の素姓を徹底的に調べ上げ、相手がどういう行動に出るかを前もって予測し抜いている。

 この、「徹底的に調べ上げる」 ということも、口で言うのは簡単ですが、「生まれたときの体重」 から家庭環境から周囲の状況から、およそ知り得るものはすべて、ですから。
 松沢陽菜(尾野真千子サン)も外事に配属された時点で、それには大いに面食らってしまう。

 「相手がどういう行動に出るか予測し抜いている」 からこそ、爆発物探知機を製造していた谷口テックの社長(田口トモロヲサン)が、いよいよ経営が追い込まれて(それをわざと追い込んだのも住本だったのですが)首をくくろうとしても、住本は黙ってそれを監視し続けようとするわけです(第1回)。

 松沢陽菜は 「人間のやることじゃない!」 とそれに反発していくのですが、その反発は第3回に於いて、下村愛子を協力者として 「運営」 していく過程で、ますます強まっていきます。
 「フィッシュ」 の手先であるジュリオに接触した下村愛子。
 とても危なっかしくて、前述の通りこれで私はこのドラマをいったん見るのをやめました(笑)。
 しかしそこで得た情報は結局ものの役に立たず、住本はさらに下村愛子に協力を求める。 その過程で、下村愛子はジュリオに手籠めにされてしまうほどの危険に晒されるのです。

 視聴者は最初のうち、松沢陽菜の 「正義感」 というものの側に立っている。 住本の存在そのものがウサン臭すぎることに対して、松沢陽菜の正義感には、容易に感情移入できるからです。

 けれども、話が進んでいくごとに、それは松沢陽菜の 「未熟さ」 なのだ、ということに、視聴者は気付いていく。

 松沢陽菜は下村愛子の置かれた不幸な境遇について、なんとかしてあげたい、という強い気持ちを抱いています。
 もともと下村愛子の夫が植物状態になっているのも、妻である愛子の浮気が原因。
 松沢陽菜は夫への贖罪として、彼女が夫の献身的な介護をし続けている、と思い込んでいます。
 だから下村愛子の気持ちを利用して彼女を危険な目に晒す住本が、許せない。

 けれども松沢陽菜は、下村愛子がスパイみたいな危険なことを、その贖罪が基本にはありながら、自分の中にある鬱積した気持ちを振り払い、また自暴自棄的、またスリルを楽しむ悦楽的な感覚で遂行していることに、気付いていない。
 ただ下村愛子は心の奥では、自分の夫が死ねばいいとは思っていなかったらしい。
 これには住本も、気付かなかったようです。

 「物事の本質、道理が分かっていない」 という観点からもうひとり、さらにずれたところに配置されている人物がいます。

 内閣官房長官の村松女史です。

 この人は松沢陽菜以上に、物事の内情を理解していない(笑)。

 彼女の感覚では、「この国は大丈夫」 という、まさに平和ボケした観点が基本にあるのですが、重大なテロ事件が進展しつつあるのにもかかわらず、なお秘密裏に動こうとする有賀局長に、「醜悪!」 と、愚かにも怒りを爆発させる。
 そして村松女史は自分のかつての教え子だったエンケンサン(倉田)に 「手を組まない?」 と持ちかけるのですが、それがどのくらい国家どうしの裏の信頼関係を損ねる行為なのかに、思いが至っていない。
 内情が知らされないことに、内閣官房長官としてのプライドがいたく傷ついていらっしゃるわけですよ。
 そんな村松女史を、余サンはわざととても機械的なしゃべりかたの、面白味のなさそうな人物として演じている。 うまいです。

 ただこの構造、これって去年の大震災における、原発をはじめとしたさまざまな重大事から蚊帳の外にされていた、かの国の総理大臣殿を想起させますね。
 まあこの場合、情報を秘匿する側にも、それを解決できるだけの力が備わっていなかった、という、あまりにも情けないケースでしたけれどもね。 どっちも危機管理能力が極度にお粗末であることは、国民にとってこれ以上の不幸はないと断言していい。

 で、ドラマはこうした経過を経て、警察庁の内部では、エンケンサイドと有賀-住吉ラインの2極化、という分裂が進んでいくわけです。

 ところが物語が進んでいくにつれ、それまで断片的なインサートにとどまっていた、住本健司の少年時代の記憶が、当初視聴者が考えていたような内容ではないことに、視聴者は気付かされていく。

 住本は父親を見捨てた公安の外事を、憎んでいたわけではなかった。
 住本の父親は、有賀局長のスケープゴートとして死んだ。
 自分の家庭で起こったような悲劇を外事が繰り返すことを、住本健司はなくそうとしていたのです。

 それが明確に判明するのは、住本が協力者として運営していた 「ニケ」 という外国人が 「フィッシュ」 につかまり無残な死を遂げてしまったのを、住本が見た瞬間でした。
 腰から砕けるようにしてその場にへたりこむ住本。
 ニケの日本人妻とその子供に、自分と同じ不幸をもたらせてしまったことを、住本は心の底から後悔するのです。
 ニケの存在そのものを否定しようとする有賀局長に、住本は怒りを爆発させます。

 「テロのひとつくらい起きたほうがいいんです!」

 テロを防止する強権発動的な法律がないから、ニケを危険な目に晒すしかない。
 そしてその結果ニケは殺されたのだ、という怒りです。 

 だからこそ、住本は下村愛子が、さらにジュリオと接触しようとすることが、気に入らない。

 ここらへんの駆け引きが複雑化していくのが、第4回の 「裏切り」 です。
 この 「裏切り」 というのは、誰が誰を裏切っているのか、という疑心暗鬼のなかで、視聴者はドラマを見ていくことになる。

 まず、下村愛子が接触するジュリオは、下村愛子が自分の秘密について嗅ぎまわっていることに、気付いています。
 そのうえで彼女にやりたいようにあえてやらせている。 これが、ジュリオがフィッシュに対して行なっている 「裏切り」 なのか? それとも下村愛子を裏で操ろうとする 「裏切り」 なのか?

 さらにその下村愛子を再度運営しているのが、「住本班」 から外された、松沢陽菜なわけです。
 松沢陽菜はその正義感からエンケンサイドに取り込まれ、住本と敵対する関係になっている。 これを 「裏切り」 とするのか?

 はたまた、おそまつな村松が(笑)エンケンサンと裏で手を組むことが、有賀局長に対する 「裏切り」 なのか?

 ここらへんの進行はまさにドラマ的な醍醐味にあふれています。

 下村愛子が、ジュリオが残したメモの筆圧が残っている紙をあらたな証拠として松沢陽菜に提供したことから、爆発物のありかが判明し、フィッシュの潜伏先への手がかりがつかめます。
 しかし、これもなんだか、ジュリオの陽動作戦のような感覚。
 これが下村愛子の提供した情報と合致したために、外事4課はその団地の周辺に停めてあったトラックを調べ、爆薬?の入ったドラム缶を確認する。

 しかし住本は、ハナからこの情報に関して、疑問を感じていたのです。
 彼が持っていたニケの死亡現場の写真。
 そこに写っていた、死ぬ間際にニケが自分の血で書いたとされる3ケタの数字 「827」。
 けれどもその文字は、住本とニケの間であらかじめ取り決められていた書きかたでは、なかったのです。

 さらにスパイ活動を続ける下村愛子を咎めようとした住本は、その場にやってきた松沢陽菜によって、彼女が松沢陽菜のあらたな協力者として正式に登録されたことを知ります。
 敵に踊らされていることを松沢陽菜と下村愛子に暴露する住本。

 エンケンサイドの人間たちに羽交い締めにされながら、住本は激昂し、下村愛子に向かって、おまえは味方なのか、敵なのか、と喚きます。

 「どっちだ? 下村愛子! どっちだっ!」

 んー。

 すごいです。

 それにしても。

 こないだのオウム手配犯が捕まったことも、警察と公安の手柄合戦だ、という話も伝わってきます。
 要するに、内部分裂している(その点では、同じ外事どうしで分裂しているこのドラマと、とても構造的に類似したものを感じますが)。

 世間では、菊池直子が捕まったことを安易に公表してしまったために、最後の逃亡者、高橋克也が逃げるチャンスを与えてしまった、などと言われている。 結局つかまってメデタシメデタシだったですが、そこに至るまで、警察の捜査のありかたには、疑問を持たざるを得ない部分が多過ぎる。 「容疑者を見た」 とか言っても信用されないとか。 ネズミ獲りなんかしとる場合か(私もこの件に関してはしつこいです…笑)。

 捜査するうえで、本当に秘匿すべき情報とは何なのか。

 このドラマでは、その判断が、現実よりもずっと的確に行なわれているような気がする(スゲー皮肉)。
 原発でも容疑者逮捕でも、現実に危機管理を我々が任せている人間どもが、あまりにも抜けベンベンだから、そう思わざるを得ないのです。

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コメント

レビュー再開おめでとうございます。
(って言って良いのかな)
外事警察は「ハゲタカ」の演出もしていた
堀切園さんが監督ですね。
空気感がハゲタカのシリアス部分に相通じる
ものがあると感じます。

ところで公安警察といえば、それこそオウム事件
ではけっこう早くからあの教団をマークしていた
のは周知の事実ですが、結局公安も刑事も
地下鉄サリン事件を防ぐことはできなかった。
今回の手配犯逮捕の顛末も、リウさんが仰られる
ように杜撰極まりない対応ばっかりで、逮捕
できたのはほんと結果オーライだったと思います。
日本の警察が優秀だったのは、お上に従順な
国民性があったればこそで、最近はそのお上に
国民が皆あきれ果てているから協力も得られ
にくくなっている。
そのことが「優秀な警察」の化けの皮を剥ぐ
ことになっているのか、と感じる事もあります。
今クールでは刑事物が多く、私もATARUを
視聴しておりますが、警察のそういう
「ダメな部分」「事なかれな部分」も
描いていてなかなか良いですよ。
小ネタとギャグはスベってますけど(苦笑)

投稿: fuku | 2012年6月24日 (日) 20時39分

fuku様
コメント下さり、ありがとうございます。

堀切園サンは、名前のことで茶化すのも失礼なんですが、どうも京成沿線の堀切菖蒲園を連想してしまう(笑)。 言わずと知れた?「ハゲタカ」 組ですが、ウィキを見たら、彼の演出作品というのは、さほどないんですね。 それでこれだけの実力を示しているのだからすごいです。

この、すでに手垢の付いた過去の作品である 「外事警察」 を、あらためてレビューする気になったのは、やはりオウム関連の逮捕劇を最近見ていたからです。

そして自分もやられたことのある、「ネズミ獲り」 に対する大きな憤り(笑)。

こちらは来たことのない土地でキョロキョロしてる、で一時停止のところで車を止めなかった、でもキョロキョロしてるから、もちろんかなりの徐行だし、まわりの安全も確実に確認している。

でもそこは一旦停止違反の 「るつぼ」 らしくて、手ぐすね引いて待ちかまえていた警官に呼び止められ、罰金7000円(笑)。

あ~もうクソ、思い出したらまた腹が立ってきた(爆)。

そんなことをやるヒマがあのに、市民の通報に 「顔が違うでしょ」 なんて、そっちはちゃんと確認をするヒマはないのか、と声を大にして言いたい(爆)。

で、高橋逮捕まで菊地の逮捕は伏せておけば、2週間ばかり逃げられることもなかったし。

だいたい手配写真だって、ゲジ眉が流行っていた頃の写真ですよ(笑)。
似顔絵が似てないのは仕方ないとはいえ、あまりにもこれでは、善良な市民を混乱に陥れてるだけ、つー気が(笑)。

なんか、ドラマとは関係ない私憤が収まりそうにないので(爆)、ここで切り上げたいと存じます。 コメント下さり、あらためて感謝申し上げますconfident

投稿: リウ | 2012年6月25日 (月) 08時37分

リウさま
レビュー再開されたんですね。
お帰りなさいませ(と、いうのも変ですが)

外事警察、私も今回の再放送で初めて観たのですが、案の定、嵌ってしまいました。
今の日本のリアリティを踏まえて作った「24」といった感じでしょうか?ドンパチ、潜入捜査、軍事衛星による監視など、「24」お馴染みのアイテムを封じたうえで、どれだけサスペンスフルな諜報モノを作れるか、そのフォーマットに成りうる作品だと思います。

まあ、「24」の主人公・キーファー・サザーランド演じるジャック・バウワーも、目的のためなら手段を選ばないという点では大概の奴ですが(笑)。なにしろ、何も関係ない敵方の女房子供に銃を突きつけて自白させようとしてしまうからねぇ・・・ただ、強引さや無茶っぷりは感じますが、住本健司のような底知れない得体のしれなさは感じることができません。見かけの派手と地味との差以上に、この辺りが両作を大きく違えているところだと思います。

結局、ジャック・バウワーの行動原理って単純です。合衆国、そしてその代表たる合衆国大統領への忠誠、それしかありません。そのためなら何でもやっちゃうのです。まあ、大統領が飼うドーベルマンみたいなもんですか?
でも、住本の場合、ストーリーが進めば進むほど、彼にとっての「守るべきもの」が見えなくなってきます。一応、「国益」ということなのでしょうが、じゃあその「国益」って何よということを、この薄らボンヤリした統治機構の国に暮らしながら、明確に答えられる人は居ないでしょう。自らの使命を突き詰め、本質に近づけば近づくほど、そこに広がる空虚と対峙せざるを得なくなる。古沢良太さんは、この「日本」という国からしか生まれようもない、なんとも特異なダークヒーローを造形されたと思います(すいません、昼間ずっと消費税法案の国会中継見てたので、こんな大層な書き方になりました)。

これからも、レビュー楽しみにしています。長文、失礼いたしました。

投稿: Zai-Chen | 2012年6月26日 (火) 17時53分

Zai-Chen様
コメント下さり、ありがとうございます。

このドラマの原作を書いていらっしゃる麻生幾サンが、実際に元 「外事」 のかたにインタビューしている記事を最近読みましたが、住本の存在以外では、かなり事実に即した描写をされてますね、このドラマ。

家族にも素性を明かしてないとか、尾行のテクニックとか。 協力者の運営についても、対象者について精査をすることについても。

それを考えると、ジャック・バウアーよりもかなりコストカットされた状態で(笑)、とても地味~な存在なような気がしますね、外事って。

ジャック・バウアーの行動規範については、私もZai-Chen様と同様、「この人って国のことしか考えてなくて、すごく空虚だ」、という印象があります。 空虚だ、という意味では、このドラマの住本健司も、同じなのかもしれない。

ただ、ジャック・バウアーの場合、空虚だからこそ、非情な決断を瞬時にしてしまう潔さが、見ていて変にスカっとするインパクトをこちらにもたらしてくれるような気がします。

「外事警察」、再放送のほうはもうすでに終わってしまっていますが、まだ最後の5-6回は見ておりません。

そのレビューもいつになるのか分かりませんが(なにしろ春ドラマの最終回が目白押しなので)、気長に待っていただければ幸いです。

野田サンは、見ていて強く感じますけど、「恐怖政治」 をしますよね。

投稿: リウ | 2012年6月27日 (水) 08時10分

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