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2012年10月11日 (木)

「ゴーイング マイ ホーム」 第1回 通わない気持ち、通えない気持ち

 カンヌ映画祭で賞を獲った映画 「誰も知らない」 の監督で知られる是枝弘和サンが監督・脚本・編集。 是枝監督にとっては初めてのテレビドラマだというこの作品。

 受け手は、最初の数分間で、「実に映画的な撮り方をしている」 と感じるはずです。

 テレビドラマの場合、まず状況説明というものが最初はかなりやかましい部分がある。
 セリフのいちいちに、フツーの会話でそんな説明シネーダローという単語がズバズバ入ってくるし、登場人物を視聴者側に印象づけるために顔のアップのシーンもやたらと出るし、まずはその出だしの部分、いわゆる 「つかみ」 を面白くしないと視聴者がすぐにチャンネルを変えてしまうため、刺激的なシーンでテンポよく見せなければならない、作り手の強迫観念みたいなものを、いつも感じるのです。

 しかしこのドラマには、それが一切ない。

 つまり、余計な説明がないから、見てすぐに状況がつかめない。
 必然的に、受け手は登場人物たちに、ある種の警戒感を抱きながら、彼らの真意を探っていくことになります。
 腰が浮わついている視聴者にとって、この作業が実に退屈な時間を強いられることは、間違いないのではないか、と感じます。

 つまり、腰を落ち着かせて、別に挑戦するでもなく、ゆったりとした時間を過ごしたい人に向けて、このドラマは作られている。
 せっかちな人は簡単に 「つまんない」 と投げ出してしまうようなドラマなのではないか、と感じるのです。

 でも、まったりとこのドラマを見ていると、登場人物たちが、ちょっとカリカチュア気味な抑え気味の面白さで、人のなりわいを演じていることに気付くはずです。
 このドラマ、ちょっとしたセリフに、「少しだけ笑える」 ようなエッセンスが、とてもつまっている。
 それが軽~いマッサージのようにじんわり効いてくれば、このドラマにハマったことになります(笑)。

 技術的なことを申し上げれば、このドラマ、編集の仕方や画面の構図の取り方に、いちいちこだわりを感じる。 絵ヅラがいいんですよ。
 役者たちの演技が終わって彼らが画面から消え去ったその場所の風景を、ものの数秒間意図的に映し続けたりするんですが、絵ヅラがいいからなんともいえない上質な余韻がそこに残る。
 アップを極力排して遠巻きから役者たちの演技を、監督の目が追っていく。
 つまり映画の場合、画面が大きいから、別に大げさな演技も必要ないし、時間に追われるように無駄なシーンをカットしまくることもない。
 その結果役者たちは、画面の中で監督の思惑通りの場所で自らの役を演じ、その演技力で監督の思惑以上のものを引き出していく。

 これって大画面テレビでなければ味わえない種類の面白さかもしれないけれど、映画をレンタルで借りてきて小さい画面で見ているような人たちにとっても、とても馴染みのある手法だと思う。

 要するに、このドラマはテレビドラマでありながら、テレビドラマを拒絶している。
 作家性が非常に重要視された世界であり、だからこそこのドラマは、見る者をあからさまに選択するのです。

 こういうスタンスのドラマを作ろう、ということ自体が、テレビ局の姿勢として讃嘆すべきことなのではないか、と感じます。

 私がテレビドラマの最高峰と考えている 「カーネーション」 では、実に自分たちを主張する方法で、テレビドラマというものを拒絶していた気がするけれども、このドラマは全く逆で、さりげなく見せることを自らの個性だと信じて作品を作っている印象がある。

 「分かる人には分かる、分からない人には分かるまい」、というこのドラマのスタンス。

 それが実は、このドラマの内容の根幹にかかわってくる話と、密接にリンクしていることを私は感じます。

 つまりこのドラマに出てくる主人公阿部寛サン(マヨラー…笑)の娘、萌江(蒔田彩珠チャン)にしか見えないという、「くーな」 という生き物の存在です。 ホビットみたいなものなのかな。

 彼女にはそれが見えていて、彼女のちょっとおかしな行動の原因になっている部分がある。
 彼女のママ(つまり阿部サンの妻)である山口智子サンは、そのことが理解できません。
 阿部サンもなんとなくおちょくりながら 「そんなものいるんだ」 なんて考えている。

 阿部サンの家庭は、阿部サンがCM製作会社の部長で山口サンがフードコーディネーターみたいなのをやってます。
 この家庭を見ていて感じるのは、夫婦の会話が現実的すぎて、なんとなく会話は成立しているけれども、心が通じ合っていない感覚。
 これは阿部サンの実家の家庭環境にも同じようなことが言えているのですが、まだ前近代的で血が通っている印象はある。 ただやはり実家は結構裕福みたいで、ドラマ冒頭で倒れた、という阿部サンの父親(夏八木勲サン)は大きな会社のエライ人らしい。 だからかもしれないが、やはりなんとなく人間的な関係がちょっと冷たい家族関係である。 一家の大黒柱が倒れているのに、「死ぬ」 なんてことを平気で口走るし、父親がろくでもない人間だったからか、なんかみんなすごく冷淡。

 その実家の少々冷静な家庭環境が、阿部サンの代になって、さらに冷静さを進行させている、という印象です。

 だからなのか、娘の萌江は、いくら母親がフードコーディネーターのスキルバリバリで目の覚めるようなスッゴイお弁当をつくっても、こちらもとても冷淡。 つまりこれってママのお仕事の成果であって、愛情の成果ではないことを熟知しているからです。

 家庭の潤滑剤であるママの手料理というものが、「お仕事の成果」 なんていうのは、子供にとってどれほどのものか。

 つまり、「通い合ってない」 んですよ。

 そんななかで、倒れた父親の見舞いに来た若い女性に、阿部サンのご実家の人々は 「スワ愛人か」 と騒然となるのですが(独特のヘンなテンションで…笑)、その女性が宮崎あおいチャン。 その父親が、西田敏行サン。

 かなり上質な時間を提供してくれると確信できるこのドラマ。

 この秋一番の見モノであります。

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コメント

リウ様

はい、実に。
好き嫌いを選ばせる手法でしたね。
「特別な」人の作ったモノという先入観がなければ
光あふれる見えすぎる画面に慣れた人にはチトつらいかも。

ウチの父は秘書さんはいませんでしたが
奔放なところがあったので
病床時に母と姉とで死後の後始末いろいろ平気で言ってました。それは愛情の暖かい冷たいでなく現実的かどうかによるのかと。

それよりも、YOUさんの演技を越えた
うざさが秀逸。いますああいう人。無性にイラってさせる天才。
「誰も知らない」でも自分勝手な母親役でした。監督のYOUさんの引き出し方、怖いくらいです。

このお話、もう結末出来てるはずと思うのですが
1話のラストからはどうまとまるのか想像がつきにくいところも、非常に興味をかき立てられています。
楽しみです。

アニメの「サイコパス」は踊る〜の本広監督が総監督をして甲殻のProductionI.G.と押井守が制作に入っているのでした。なので非常に気になってます。(^^)

投稿: みり | 2012年10月11日 (木) 16時12分

すごい、ナチュラルというか自然な感じのドラマで良かったです。

作られていないといっていいのでしょうか?
(作ってるんだけど、作ってないっていうのか。。)

吉行さんと、YOUさん、阿部さんの掛け合いが絶妙でしたね。

どこかの番組にYOUさんと阿部さんが番宣で出演されてて、YOUさんがアドリブでやるので。。と阿部さんがおっしゃってました。
それが、生き生きした雰囲気を出してるのかもしれないですね。

YOUさんにしろ、阿部サダにしろ、いい味出してますね〜。

「くーな」は「コロポックル」(佐藤さとるの「だれも知らない小さな国」)のイメージかなあって思いました。
ご存知ですか?

山口さんは、結構、ブランクあるからどうかなあって思ってましたが、全然、ブランクを感じさせず、自然な演技ができてたように思いました。

>みりさん、おすすめのアニメの「サイコパス」
残念ながら、富山では見る事ができないみたいで残念です。面白そうですよね。

投稿: rabi | 2012年10月11日 (木) 19時24分

みり様
コメント下さり、ありがとうございます。

やっとみり様とドラマのアンテナ方向が合致したようですね(笑)。

みり様のお父様の場合、病床にあったからこそ、ドライに亡くなったあとのことをお話できたのではないかな、と感じます。

ウチの場合、オヤジはとてもや~な部類の人間で(ハハ…)オフクロも愚痴ばかりこぼしてますが、死ぬという話は拒絶したがります。

まあ事務的な話をするにしても、心構えというものが必要だし、普段の生活から、人って 「死」 というものを忌み嫌い遠ざけたがる性質というものがあるかな、などと感じます。

YOUサンの今回の役柄は、うちの下のほうの妹に結構似てて笑えます(ハハ…)。 言うことがいちいち辛辣で(笑)。 しかも変なところで理詰め(爆)。

プロダクションIG作品は、「攻殻」 のころはそれなりに楽しめたのですが、なんか斜に構えすぎてて近作は見なくなってきたかな(笑)。 押尾サンに関しては、ここではコメントを差し控えさせていただきます(笑…実はいまいろいろ言いたい放題書いて、ごっそり削除しました…爆)。

投稿: リウ | 2012年10月12日 (金) 08時19分

rabi様
コメント下さり、ありがとうございます。

コロポックル、なんか私が小学生くらいのときに流行っていたような記憶があります(歳がばれる…って、プロフィールですでにバラしてる)。 確か北海道特有のコビトだったような?

このドラマ、題材の原型だけ見てると、父親が倒れたり子供が学校で問題を起こしたり、かなり深刻な話なような気がするのですが、会話の軽妙さでまったくそれが表に出てこない、というのがすごいですね。

それに阿部寛サン、寝ぼけて笠谷のマネをしたりジャンケンの最初はグーにこだわったり、見ていてかなり笑える。

阿部サダヲサンのタクシー運転手の田舎誘致の話(笑)って、都会で住んでいる私などにとっては、根源的な問いにあふれてます(笑)。 日本一住みよい県に住んでいるrabi様には分かるまい(おっと挑戦的だ…笑)。

富山なんて、羨ましい限りです。 私も失踪でもして、あらたな人生を富山あたりで始めたい気がします(不穏なこと言っとるなぁ…)。

投稿: リウ | 2012年10月12日 (金) 09時00分

リウさん。腰の具合はいかがですか?
実は私も恒例の季節の変わり目ギックリに先日やられてしまいました(笑)

今はコルセットギチギチでございます

さて、じんわりマッサージにしてやられました(笑)
いいです!
ハマりました(笑)

なんといっても、間の漂う空間がホントにそこにいるのでは?と錯覚して見ていた二時間でした。
阿部さんの惚けた情けなさ。
阿部さんの部下の掴みどころのなさ、娘の妙に醒めた目つき
吉行さんyouサンのありそうな会話
謎だらけの西田、蒼井サン親子

山口さんの皮肉の口調
ああ、こんな会話、キットそこらへんの家庭でもあるだろうな~
なんて

映画を見ている感覚で、リウさんご指摘のとおり腰を落ち着けてじっくり画面を見れる人にはたまらないんじゃないかなぁ

けど、根底にあるのはカーネーションでも感じた家族だからこそ逃げらんない人間関係の関わりが、第三者が絡んでくることで炙り出され、クーナがこのどこか冷たく感じる家族になんかしらの暖かいものを運んでくる存在になるのかしら?

とにかく、先が気になる
そんなドラマだということは間違いないように思います。

投稿: みち | 2012年10月15日 (月) 12時18分

みち様
コメント下さり、ありがとうございます。

はい、私もコルセットは手放せません(笑)。 最近じゃ、コルセットにテニスボールを仕込んで、背骨の変形した部分をグリグリ言わせております(笑)。 結構効くんですよ、コレ(見てくれはかなり悪いけど…笑)。

本文にも書きましたけど、ドラマの導入部分って、かなり皆さん苦労するみたいで、今回の秋ドラマも、「結婚しない」 と 「東京全力少女」 は、「ゴーイング マイ ホーム」 のあまりの自然さがよかったせいか、話のとっかかりのあまりのワザトラシさに、早々に視聴を切り上げてしまったほどです。

そしてこの空気感。

「カーネーション」 にも 「カーネーション」 独自の空気が流れていたと感じますが、このドラマの空気感は、なんというか、植物性、というか。

気構えからして違う、というものを見せられると、とてもぜいたくな気分を味わった気がしてくるものです。

投稿: リウ | 2012年10月15日 (月) 15時02分

コルセットしながらの復帰ありがとうございます(^-^;いつも読み逃げでごめんなさい(笑)


このドラマ、リウ様ならきっとレビューあげてくださってると信じてきました(≧∇≦*)


今期一番のお気に入りのドラマなので
できれば毎週レビューお願いしますね♪

投稿: ちゃも | 2012年10月15日 (月) 21時41分

こんばんは。

このドラマ是枝色全開でしたね〜。
関テレ枠なのですが、関テレ枠って今のところ好調なので、こういう冒険が出来たのだと思っています。

私は、「連ドラ(民放)」をファミレスだと思ってる部分があります。
素材はフツーだし、レトルト。だけど、メニューは旬でお手軽感があって、どこかワクワクさせるものがある。

でも、このドラマは「京都の老舗高級料亭の里芋の煮っころがし」だと思ってます。
品質のいいものを使ってて、仕込みも十分で繊細な薄味。
ま、そこが是枝作品の特徴なのでしょうが。

数字的には苦戦しそうですが、非常に高確率で「後世に残る名作」になるだろうな〜なんて考えつつ。

あと、「是枝ブランド」とかは抜きにして、「役者なら一度はやってみたい作品・役」なんだろうな〜とかも考えつつ。

投稿: まぐのりあ | 2012年10月15日 (月) 22時30分

ちゃも様
コメント下さり、ありがとうございます。

気の向いたときにコメントいただければ、なにもこちらは文句はございませんhappy01。 恐縮されて却ってこちらも恐縮してしまいますcoldsweats01

どうもこの秋は、大収穫祭なのであっちのドラマこっちのドラマと目移りして困りますが、なんとかコルセットをギューギュー言わせ、注射投薬湿布ストレッチしまくり(爆)頑張りたいですね。 なんか、傑作の匂いがぷんぷんしますから。

投稿: リウ | 2012年10月16日 (火) 07時48分

まぐのりあ様
コメント下さり、ありがとうございます。

阿部寛サンのドラマって、関西テレビが中心だったような気がするのですが、今回 「梅ちゃん先生」 の脚本家サンからは離れて、もう一段ステップアップしたような印象を受けます。 一段どころじゃないけど(笑)。

こういうことをテレビドラマでやられると、ほかのドラマ制作者たちは自分たちの使用言語の存在意義自体を疑ってかかる必然性に迫られる気がします。

まあテレビ局の人間って、鈍くて唯我独尊が多いからそんなこともないか(ハハ…)。

宮崎あおいチャンとか、なんかテレビドラマを映画より一段下に見ているような印象のある女優さんまでこのドラマに出ている、ということが、この作品のすごさを物語っている気がしますね。

投稿: リウ | 2012年10月16日 (火) 08時25分

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