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2014年1月 5日 (日)

「はじめの一歩 Rising」 第12-13回 沢村救済のシナリオ

 2000年の最初のシリーズから、緩急をつけた圧倒的な演出で、私を釘づけにしてきたこのテレビアニメシリーズ。 ときどき、「これって原作マンガよりすごくね?」 みたいな気分にまでなったものであります(森川サンゴメン…笑)。

 今回のシリーズでは、鴨川会長役だった内海賢二サンが去年、亡くなられたために、飯塚昭三サンに変更されました。 いや、だって、この人も相当なベテランでしょ?と思ってウィキで調べたら、なんと御歳80歳。 パッと代表作が思い出せないのがアレだけど、個人的には宮崎駿サンの 「名探偵ホームズ」 の、レストレード警部でしょうか。 悪役が多かった印象があるのは、内海サンと一緒かな。 内海サンの鴨川会長と、イメージがさほど変わらないのはさすが、というほかありません。

 で、今回、2クールの放送で前半の物語的に中心になっていたのは、幕之内一歩の5度目の王者防衛戦です。
 一歩の相手は沢村竜平なんですが、この男。
 小さい頃に、家庭内暴力をふるう父親を殺してしまってから性格が歪みっぱなしで、その暴力的な性格を更生させようと、恩師の河辺先生がボクシングをやらせようとしたのですが、これがまた却ってアダとなり。
 合法的に相手をブッ殺せる場が与えられたことで、人格の歪みにさらに磨きがかかってしまった、という設定になっています。 対戦相手のことを生肉にたとえ、やわらかい肉を食べることを生きがいにしているようなところがある。
 これは沢村が幼い頃に、暴力をふるう父親から救った母親との思い出が深く絡んでいるのですが、それゆえに多少のことでは修正が効かない根の深さを抱えている。

 今回の防衛戦で私が注目していたのは、果たしてこの沢村の精神的な救済がどのようになされるのか、という点でした。

 語り手は、試合前から沢村の異常な暴力性を次々とつまびらかにしていきます。 試合でも、どんなに有利な試合だろうと自分の生肉への欲望が高まると、どんな反則でも厭わない。 ボクシングをハナから舐めてかかっている態度に、一歩は闘争心を徐々に高ぶらせていきます。 試合前には、一歩の彼女である間柴久美に対しても暴力をふるってしまい、兄の間柴了にまで反感を買ってしまう。
 いっぽう、沢村は沢村で、自分の唯一の理解者であった河辺先生が、一歩に 「沢村に勝ってくれ」 と頼んでいたところを目撃してしまい、ますますその精神的な孤立度を高めていく。 河辺先生は沢村が精神の闇に取り込まれていくのをなんとかしようと思って、一歩に頼んでいたんですけどね。

 そして今回テクニカルな面で、物語の核心を司っているのは、一歩の必殺技であるデンプシー・ロールを破る秘策を、沢村がもっている点。
 デンプシー・ロールというのはこのマンガをご存知のかたなら説明不要ですが、要するに体を左右に振り子のように動かしながらパンチを繰り出していく、というテクニックです。 沢村はカウンターの名手。 このデンプシーをカウンターで迎え撃つ、ということは、完全無比なダメージを一歩に与えられる、ということを意味している。
 事前からこのデンプシー破りを知らされていた一歩は、自分の得意技のデンプシーが、相手にとって非常にタイミングのつけやすい、という弱点を持っていることに着目して、そのタイミングをずらすことを課題に練習に励む。

 しかしリズムに乗って全神経を集中させているこの運動を途中でストップするということには、過大な負担が筋肉に対してかかることになります。 選手生命さえ脅かしかねないこの新型デンプシーは、主治医の山口先生(美人)(笑)に止められるほどの危険なカード。

 しかしこの危険なカード、防衛戦での死闘がピークになればなるほど、一歩の覚悟をたぎらせていく要因となっていく。
 自分の体がどんなになってもいい、ボクシングをバカにしている人を許すことが出来ない、自分だけじゃない、自分と同じくリングの上で戦っているすべての人に対して申し訳が立たない、というその覚悟が、一歩を危険な賭けに踏み出させていくのです。

 この見せ方が、なんと言ってもすごい。

 このマンガのすごいところは、ボクシングの持つあらゆる面から見た、ボクサーひとりひとりの個性に、深くまで切り込んでいるところではないか、と感じます。 同じ少年マガジンで連載されていたボクシングマンガの牙城、「あしたのジョー」 に追いつき追い越せるスタンスというのは、そこしかない、と原作者が考えているようなフシがある。
 まあ、私にとっては 「ジョー」 はバイブルみたいなものですから、いかに森川サンが頑張ろうともその地位は微動だにしないんですが(笑)、私より若い人たちにとっては、もうボクシングマンガと言えば 「一歩」 ということになってきているのではないか、という気もします。 だってもうコミック本100巻とか超えてるし。

 で、「あしたのジョー」 信者の立場から言えば、この沢村というのは金竜飛に近いようなところがある。 幼い頃のトラウマが人間的な心を喪失させ、ボクシングというものをルールに守られた、極めて平和な世界だ、と捉えている点においてですが。

 ただ金竜飛の場合、トラウマのために 「飲めなくなった、食えなくなった」 のですが、沢村の場合自分の食欲に、破壊欲が融合してしまっている。 そして沢村の原点にあるのは、父親を殺してしまったことが、「母親を守ろうとする行為だった」 という善意であること。 これは大きい。

 ここが物語的に現代的な部分です。 金竜飛の場合、「飢える」 ということが、彼の人間性を阻害している原点にある。 だからそれを凌駕されてしまったとき、かなりあっけなくジョーに負けてしまいます。 ジョーはこの時、力石徹の存在を思い出すということで、金竜飛に対する劣等感を払拭することが出来た。 ジョーの勝利の要因は、そこだけでよかったのです。
 でも沢村の場合、善意が裏切られた、ということから精神性の歪みが出発している。 さらに試合直前、恩師にまで裏切られた、と感じてしまっている。 そこで 「相手に負けたくない」 という意識が同時に膨らんでいったために、自分のデンプシー破りが一歩によって凌駕されても、まだダウンをよしとしないんですよ。

 そして沢村はデンプシー破り破り・破りを決行するのですが(なんじゃソレ…笑)、一歩は会場からの声援(元気玉の発想だけど)を背に受けてるから、精神的にもっと強かった。 そのデンプシー破り破り破り破りによって(勘弁してくれ…笑)試合を制するのです。

 この精神力が、練習によって培われた、という語り手の結論。 新型デンプシーが沢村を迎撃し制圧していく様子は、これはもう、マンガでは表現しきれない、このアニメシリーズでしか見られないカタルシスなのではないか、と感じます。

 そして沢村が、どのように自分の精神性の闇から解放されたのか。

 この物語の語り手は、河辺先生に大きな役割を、あえて持たせません。 私が見たところ、沢村を精神的に救済できるのは、河辺先生だけだろう、と考えていたのですが。 これが昨今のテレビドラマだったら、河辺先生にリングサイドまで向かわせて、沢村に向かって号泣混じりの励ましとかさせるところなんですが。

 沢村を実際のところ励ましたのは、試合後に観客からわき起こった、沢村の健闘を称える拍手と、沢村と同じような境遇にいたかつての不良で一歩のライバルである、千堂の言葉でした。 自分たちの拳は、相手を殺すためのものだけれど、一歩の拳は、ボクシングの素晴らしさを教えてくれる、活人拳なのだ、と。
 でもそれらの励ましも、本当のところは沢村にちゃんと届いていたかどうかは分からない。 一歩にポンコツにされて病院のベッドで伏している沢村は、あくまで無反応だからです。

 でも、反則負けではない形で初めて勝負というものに負けた沢村は、何かを感じ取ったに違いないのです。 この見せ方はよかったなあ。 押しつけがましくなくて。

 じっさいのところ沢村は、ウィキを読んだところこのあとも原作ではいろいろ紆余曲折があるみたいで、けっして根本的な精神救済がなされているとは考えにくい。
 でも、あまりにも解決してしまう話よりも、自分が自分の因業によってどういう人生を歩んでいくか、という話をされたほうが、なんとなく説得力自体はあるような気がするんですよ、最近。

 で、このマンガ、試合後は急にユルユルモードで、ギャグ全開になったりする。 そこが 「ジョー」 とは決定的に違う面ですが、この緩急がまたひとつの味なんですよね。

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コメント

あー、そういえば内海さんがいない…。

沢村はこの後に「俺の妹を傷モノにしやがってー!」な
間柴との悪魔超人対決が控えているわけですが。
ただ、それ以降の原作は一歩と宮田との対決が
流れて数年間、かなりグダグダ展開で
最近、ようやく持ち直してきた感じですが。

現在、主人公の試合で沢村戦を越える
テンションの試合は無いですね。

巨炎様
コメント下さり、ありがとうございます。 返信が、大変遅れました。 お詫び申し上げます。 しかも新しい記事のほうを優先して書いてしまうとか。 失礼の極みですね(汗)。

間柴はなんだかコミカル要員みたいで最近残念なんですが(まあ間柴がオチャラケてるわけではないけれど…笑)、原作はへぇ~、そうなってるんですか。 もうずいぶん読んでないなぁ。 つーかマンガ自体をここ5年以上読まなくなってしまったんですけどね。

そりゃ100巻もやってりゃグダグダにもなりそうとゆーか(笑)。 いまコミックス100巻超えてるのは、こち亀と(とっくだっての)美味しんぼと、一歩くらいでしょうかね。 「ガラスの仮面」 は…、アレは寡作だからなァ(笑)。

団吉役の加藤さんも逝った~。
これで猫田役の永井さんだけになってしまいました。

巨炎様
コメント下さり、ありがとうございます。

加藤精三サンについては何か記事を書きたいと考えているのですが、「足尾から来た女」 レビューの執筆が手間取ってます。

ホントに声優界にとっては、喪失の年月が開始している気がいたします。

>猫田役の永井さん
三人立て続けー…。

巨炎様
コメント下さり、ありがとうございます。

なんか予告したみたいになっちゃいましたね。
みんな死ぬんだ~。 みんな死んじまうんだ~…。

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BOOKS

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    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
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  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

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    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

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    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

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    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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