« 21年目に考える 「もののけ姫」 | トップページ | 秋ドラマ感想②「獣になれない私たち」 »

2018年10月28日 (日)

秋ドラマ感想①「僕らは奇跡でできている」

 デジタルの音痴で旧世代の私が、新しいPCを買ったことが契機となりTVer、という民放テレビ番組見逃し配信サービスをようやく使えるようになったので、録画機が壊れてこのところ止めていたテレビドラマの感想を書くことができる。 録画機が壊れたのなら直すか新しいのを買えばいい話じゃないか、ということなのだがまあ経済的な事情で優先順位がありましてですね。

 TVerを使い始めて気付いたのは、このサービスには字幕がなく高速見というのもできないこと。 録画機ではいつもこれをしていたのだが、いざ始めてみると役者たちのセリフがかなり聞き取りにくいことが分かって。 でPCの音質操作をしなければならない羽目になった。 それでも1割程度は聞き取れない。
 もともと耳の聞こえが極端に悪い私であるが、これってどうなのだろう。 どうにも損した気分になる。

 「僕らは奇跡でできている」、フジテレビ(関西テレビ)火曜21時。 高橋一生がちょっと個性的すぎる大学講師を演じる。
 個性的すぎる、とは書いたが精神の発達障害が少し入っている感覚だ。
 つまりひとつのものに夢中になりすぎるとほかのものが目に入らなくなる。 その彼が虫歯で通うことになった歯科の先生が榮倉奈々。 榮倉はふたつの歯科医院を掛け持ちしているせいか、羽振りはいいみたいだ。

 このふたりのキャスティングは実にハマっている気がする。 高橋は知的なイメージがあるが、それをレインマン的な役に振り分けることで、この主人公の語る知識に大きな説得力を与えることとなった。 いっぽう榮倉はクールなイメージだが、自分は常識人で自分の考えていることは正しい、と信じて疑わないようなこの女性歯科医に、よく当てはまっている気がする。

 高橋の両親は亡くなっていて、おじいちゃんの田中泯に幼い頃は育てられていたが、今は独立して家政婦の戸田恵子と暮らしている、という設定。
 この田中と戸田の存在が、高橋の演じる主人公にとってはゆりかごのような安心感に通じている。 田中は陶芸家であるせいか、人にとって大切なものはなにかをわきまえているようで、発達障害でみんなに合わせることができない主人公の大きな味方となってきたし、お節介焼きの戸田は主人公の意に沿わないことを時々やらかしたりするが、それでも最終的には主人公のことを認めている、主人公にとってはスパイスのような役割を担ってきた。 このふたりがいることで、ドラマは見る側にとってとても癒やされる空間として受け入れられる。 人とは少々違っててもいいんだよ、まあ世間のみんなは普通こう考えるんだけど、というふた通りの許し、自己肯定の道を与えてくれるからだ。

 その、主人公を取り巻く 「家族」 とは違う価値観で動いていくのが、私たちの住んでいるこの世界だ。 つまり、「こうでなければならない」、という常識に縛られてしまう世界だ。
 それを体現しているのが榮倉が演じる歯科医、ということになる。
 歯科医はかなり細かい予約時間によって仕事をしている、と同時に、急な患者にも対応しなければならない。 そこでは主人公のような、時間に対してとてもルーズになるしかない障害のある患者というのはとてもやりにくいところがある。 榮倉は高橋のそういう特殊な性格をたぶん把握しているはずだが、それでもその自由奔放さに苛立ちを隠すことができない。

 その榮倉は、高橋の行動に苛つきながらもその生き方に触れていくことで、自分を取り巻いている常識もしくは自分を縛っている思い込みに対して、徐々に疑問を抱いていく。 これがこのドラマの興味深い部分だ。
 榮倉は恋人と高橋のふたりから、自分の優位を見せつけている、と指摘され悩む。 まあ高橋の場合榮倉のことではなく 「ウサギとカメ」 のウサギについてしゃべってただけなのだが。
 確かに榮倉は自分のおごりでいつも恋人に連れて行ってもらっている居酒屋ではなく高級な店で5万とか6万とか(値段忘れた)のメニューを注文し、「久々においしいものを食べた」「自分へのご褒美」 とかナニゲにしゃべってた。 それってまあ当てつけだと思われても仕方ないが、羽振りはいいけどそれなりに頑張ってるわけだし。
 ということは、榮倉が付き合ってる男が榮倉と不釣り合いだ、ということになる。 けれども榮倉は 「自分はどこかで間違えてしまっている」、という方向に考えてしまう。 ここがいいのだ。

 そう榮倉に考えさせるのは、たぶん高橋の、物事にとらわれない考え方に影響されている。 このドラマで最も面白いのは、動物行動学を教えている高橋の、いろんな動物に関するさまざまな知識だ。 高橋のいる大学には同じような変わり者がドラマのなかでは約2名いるが、研究者のオタク的な傾向と高橋のこだわってしまう性格というのはどこかで共通しているのだろう。 ここで発達障害の線引きが曖昧になってしまう、という面白さが醸し出されている。

 ドラマは高橋の特殊な性格から見える世界から、私たちが普通だと考えている世界の常識のおかしさをあぶり出している。 動物行動学から言えば、実はヒトの行動こそがいちばん不自然で興味深いのかもしれない。 だが高橋にとっては、ヒトの社会こそが自分と相容れない世界なのだ。

 このドラマは、「世間の常識とか普通の考え方から一度脱却してみよう」、という機運にあふれている。 ドラマチックな出来事は起こらないが、それでもじゅうぶんドラマは成立する。 そんなことを教えてくれる。

« 21年目に考える 「もののけ姫」 | トップページ | 秋ドラマ感想②「獣になれない私たち」 »

テレビ」カテゴリの記事

コメント

リウさん、こんばんは。
ティーバ、みのがしの時だけ見てますが
リウさんとおなじ感想です。
うちはレコーダーの優先順位がものすごく高いので
ツーチューナーのをこないだ買いまちた。
老後が心配です。

ドラマ大すきおやじいつの間にか52才 様
コメント下さり、ありがとうございます。 いつの間にか若返ったんですか? 確か私と数ヶ月間同い年なはずですが(笑)。

私の壊れたブルーレイも2チューナーで、両方同じ画質で録画できないため、容量の少ないときに2番組予約するときはどちらを高画質で予約するか難儀しました。 ブルーレイが見れないので、せっかく購入したジョン・レノンのイマジンサラウンドも聴けません(笑)。 ビートルズ関係の支出もかさむ一方で、いつになったら録画機に手が回るのか…。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 秋ドラマ感想①「僕らは奇跡でできている」:

« 21年目に考える 「もののけ姫」 | トップページ | 秋ドラマ感想②「獣になれない私たち」 »

2019年4月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

BOOKS

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

  • マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 上

    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 上
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ記事より抜粋)。 この上巻ではビートルズの祖先から遡ってリバプールで人気に火が付き始めたところまでが書いてあります。

  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

  • 山口 百恵 -

    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

無料ブログはココログ