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2018年11月 4日 (日)

秋ドラマ感想③「大恋愛~僕を忘れる君と」

 TBS金曜22時。 若年性アルツハイマーに罹った女医の戸田恵梨香と、元小説家のアート引越センター従業員ムロツヨシとの恋愛ドラマ。

 この恋愛ドラマのキモは、これまでふざけたような役ばかりだったムロが、恋愛の真面目な当事者になったことだろう。
 恋愛ドラマではたまに、こうした 「ちょっと外した」 キャスティングで視聴者の興味を惹かせるパターン、というものがあるように思う。 古くは 「おくさまは18才」 での石立鉄男とか、「101回目のプロポーズ」 での武田鉄矢、というケースだ。 彼らは一様にイケメンではない男の哀愁を背負っており、どこか滑稽にならざるを得ない悲劇を纏っている。

 ムロはこのドラマで元小説家、というだけあって、少々ニヒルでナイーヴな陰のある男を演じている。 けれどもこれはおそらく脚本家の大石静氏のアテ書きによるせいだと思うのだが、相手のリアクションに軽いボケとかツッコミが思わず出てしまうところが、いかにも、という感じだ。
 それはことのほか、この深刻なドラマにおける一種のガス抜きになっている。 そしてそこに、そこはかとないリアルが生じている。 その匙加減がいい。

 この恋愛ドラマを深刻にしているのは、先に書いたように主役の戸田恵梨香が罹った若年性アルツハイマーのせいだが、ここで大石静氏は視聴者の共感度を極限まで上げる、ある方法をとっている。

 それはこの進行性の病気の悲劇度を高めることではない。
 ムロと向き合っているときの戸田を、無邪気な子供のように描く、という方法によってだ。

 彼女は母親の草刈民代と一緒の女医になり、同じレディスクリニックで働いている。
 そのせいか普段はかなり冷静な判断能力の持ち主で、草刈がドラマ第1回目で持ちこんだ、精神科医の松岡昌宏との縁談に際しても、お互いに過干渉なく事務的役割分担的な、無味乾燥とした結婚生活を望んでいた。 戸田は、人生に対してとても醒めたような性格設定のように思えた。

 それが、である。

 自分がかつて夢中になって読んでいた小説、「砂にまみれたアンジェリカ」 の作者が引っ越し業者のムロだったことが分かると、戸田は途端にそれまで全開にしていたATフィールド(まあ自分と他人との壁みたいなもんか)を解除するのだ。

 このドラマのもっとも魅力的なところは、その完全武装解除した戸田恵梨香の、無邪気さ、かわいさにあると言っていい。
 戸田はもともとクールな役が多い気がする。 そんな戸田が、デレデレになるんですよ、そんなにイケメンとは思えない、頭モジャモジャのちょっと小太りの男に。 鳥みたいなキスをするんですよ、なんだこの明るいかわいさは!
 この現実離れ感というか浮遊感。 自分だけに見せる別の顔、とかいうのに、弱いんですよ世の男は。

 女性の視聴者側からしても、ムロの持つフツーさというのには安心感が生じるだろうし、リアクションの楽しさにも好感を持つだろう。
 つまり、現実にはなかなかあり得ないだろうけれど、そんななかにちょっとだけあるリアルに、視聴者が惹かれる要素が詰まっている。
 そこに、毎回タイトルバックにあるように、記憶の象徴である砂がこぼれていく悲劇が潜んでいる。 その切なさに、見る側は胸を痛めるのだ。

 「好きになったらしょーがない」。 戸田は確かこんな風なセリフを言っていたと思うが、いや、このセリフには共感する。 好きになるのに、美男美女であるとかカンケーないですから。

 物語は、戸田が恋に落ちたのとアルツハイマーを発症したのがほぼ同時だったため、かねてからの松岡昌宏との縁談がなんの後腐れもなく解消した。 そこで大きな問題とならなかったのはドラマ的には面白くなかったがまあめでたしめでたし、しかも松岡は若年性アルツハイマーの権威だし、渡りに船だ、言うことないじゃん彼に治療してもらえば、

 …となるはずだった。 が、ドラマはそう単純に物事を運ばせない。

 お互いに事務的な結婚関係なんて醒めたことを考えていた松岡だったのだが、その後に親が用意した縁談とか戸田の検査だケアだのをやってるうちに、なんか戸田のことが本格的に好きになっちゃったみたいなのだ。

 しかしここで、大石静氏は松岡をあまり得体の知れないパラノイア的人物に描こうとしない。 松岡は普通に悩み、普通に自分の恋を戸田に打ち明ける。 ここにも好感が持てる。 ここで松岡が冬彦さんみたいになってしまっては、ドラマのリアルが吹き飛ぶからだ。 もちろん吹き飛ばさせる、という方法もあるが、このドラマはあくまで常識的に進行していくのだ。

 ところが第4回の終わり際、ムロは突然戸田に別れを切り出す。 たぶんムロは、戸田が松岡と付き合ったほうが治療のためにはいい、と思ったのだろう。 そこらへんのムロの心の動きが少し雑に描かれていたのは残念だが(つまりトートツに見えた)、来週以降どう回収されるのかが逆に気になってきた。 前回もそうだったが、終了間際にガツンとショックを与えさせて視聴者の興味をつなぐ、というのはうまいもんだ、と思う。

 大石氏の 「受けるドラマはこうやって作るのよ」 という方法論が分かって、脚本家を目指す人には大いに参考になるドラマなのであろう(笑)。

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コメント

リウさん、こんばんは。FULUで見てるくせに
最新回まで見てる、おもしろいよねー、これ。
戸田。ムロ。松岡、みんなに感情移入できる。
確かにムロが別れを告げたのは「えっ」だったけど
次回の予告で結婚してたからよしよし、と。
この男気が試されるようなナサソデアリソな話
大好き。実際当事者ならきついけど、ドラマとして
戸田にはムロといっぱい愛し合って
ムロと松岡は二人で支えてあげてほしいな。

ドラマ大すきおやじ 様
コメント下さり、ありがとうございます。 あれ、やっぱり52才だな(笑)。 私の記憶違いでしたか、失礼いたしました。

今の世の中、夫と妻はひとりずつでなくてはならない、というルールがありますが、この大常識というのは果たして頑丈に動かないモラルなのかな、と思うときがございます。
この大常識を支えているのは、もしかすると凝り固まった独占欲と、経済的要因だけなのではないか、という。

独占欲に関しては、女性より男性のほうが強いように思われる。 男性は女性に対してとても愛情が深くて、生まれ変わってもまた巡り会いたいとか結婚したいとか思う傾向が強いですが、女性はあまり拘ってないパターンが多い。

つまり恋愛というのは常に男性からの一方的な思いで成り立っている(悲劇…笑)。

だったらおやじ様のおっしゃるように、松岡もムロも一緒にナオを支えればよい、と私も思うんですよ。 男にとってはキツいシチュエーションですが、女性は幸せだと思うなあ。

アンモラルな話でスミマセン。

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     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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  • ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白

    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
    まず驚かされるのが、表紙のポールの写真です。 よくこんなのが採用されたな、というくらい、刻まれた年輪が顕著に分かる 「年老いたポール」。 飾り気のないその写真に、「素のポール」 をあぶり出そう、という心意気が見える。 そして実際、著者のその目論見は、成功しているように思えます。 何より大きいのは、「NME」「Q」「MOJO」 など音楽メディアで長年記者を務めてきた著者がポールと同じリバプールの出身者である、ということ。 さらにポールと同じファースト・ネームであること。 だからポールはまるで自分の分身に話しかけるかのように、時折同郷人にしか分からない言葉で気さくに著者に話しかける。 この本を読む者は、まずその 「不思議なリラックス感」 に包まれるはずです。  本の構成は大きく二つに分かれます。 前半ではビートルズからウィングス、ソロに至るポールのたどってきた長い長い歴史、後半ではポールの人格に迫る試みがなされていく。 そのインタビューは、一気に行なわれたものではありません。 著者がNMEの記者だった1979年のものから、明示はされていないがおそらく2013年、「NEW」 の発売前後が最新のものではないか、と思われます。 実際読んだ感覚では 「キス・オン・ザ・ボトム」 あたりが最新のような気もする。 その30年以上にわたる膨大なポールへのインタビューを、項目によって構成し直しているようです。 ですから、今年(2016年)亡くなったジョージ・マーティンについてのポールの見解であるとか、最新の情報が提示されているわけではない。 ポールの情報というのはこの歳になってもなお日々更新型ですから、その点については物足りなさが確実にあります。 さらに、30年以上というとポールのものの考え方にも変化変遷があってしかるべきだと思うのですが、30年以上をリミックスにかけているからその変化というものがつかめてこないもどかしさがある。 表紙を飾ったポールの 「老い」 という問題にも、この本はきちんと答えてくれているわけではない。 さらに言えば、ジョン・レノンの死について多くが割かれているのとは対照的に、2001年に亡くなったジョージ・ハリソンの死についての記述はない。 正直なところ、このような本を読み漁ってきた身としては、衝撃に値するような情報が書かれているわけではありません。 しかし前述したような、リラックスしたムードのなかでポールと語らっているような疑似体験を共有できる強みが、この本にはある。 この本全体に貫かれているのが、この心地よさなのだ、と思うのです。 その心地よさが乱れるパートがあります。 自身の失敗作、どうでもいい作品について語るときのポールは多分に感情的になりがちであり、イライラした様子を隠しません。 特に 「シークレット・フレンド」 を語るポールのくだりはポールファンなら一読に値する部分でしょう。 しかしそのイライラも、ポールの人間性が垣間見える瞬間としてこの本にとっては必要なパートなのです。 3000円以上と、この本は決して安くはない部類の本です。 ただその値段に見合うパフォーマンスは兼ね備えています。 この本と付き合った1か月足らずの間、心地よい体験をすることができました(アマゾンの自身のカスタマーレビューより)。

  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

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    山口 百恵: ゴールデン☆アイドル 山口百恵(完全生産限定盤)
    全シングルA・B面プラスボーナストラック(「あなたへの子守歌」)を、山口百恵名義としては初のブルースペックCDとしてリリース。 音はいわゆるドンシャリ系ではなく、アナログ盤に準拠した原音に忠実な印象です。 パッケージングはアナログシングル盤サイズで中袋、CDを納めるケースが完全にドーナツ盤をイメージしています(よく言えば斬新…笑、悪く言えばチャッチイ…笑)。 しかしその発想は買える(笑)。 ほぼ原寸大のシングルジャケットと裏の歌詞カードの複製ブックレット。 ただスキャニングは欲を言えばもう一歩。 当時シングル盤を中心に聴いていたかたなら、この編集盤はかなりの 「買い」 です。 しかしこのジャケット表紙の写真、スッピン風で個人的にはすごく好き。

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    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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