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2018年12月24日 (月)

「大恋愛~僕を忘れる君と」 記憶とは、いったい何なのか

 若年性アルツハイマーに罹った主人公・戸田恵梨香とムロツヨシのストレートな恋愛ドラマだった、「大恋愛」。 このドラマの冒頭に毎週登場するタイトルバックは、白い服を着たふたりが海辺で砂遊びをする光景だった。

 戸田が両手に救った砂がこぼれ落ちるのを、ムロが下で受け止める。
 戸田は無邪気に笑い、ムロはそれを優しい笑顔で見守る。 戸田はすでに病状がかなり進行している様子。
 こぼれる砂は戸田の記憶の象徴であり、白い服も同時に、無地に戻っていく幼年退行の象徴のように見えた。
 これほどこのドラマそのものを表現し尽くした見事なタイトルバックも、近年なかなかなかった気がする(「西郷どん」 の明治編でのタイトルバックは、その点では見事だった)。

 普通この手のドラマといえば、病状を克明に追っていって、その悲劇性を煽り視聴者を泣かせる、というパターンを踏むことが多い気がするのだが、このドラマは違った。
 最初の差別化は、ムロツヨシという役者の起用。 もともと実力がよく分からないコメディアンタイプのムロを主人公の相手に据えることで、このドラマに奇妙な含み笑いをもたらすことに、成功した。

 次に、同じ若年性アルツハイマーを患いながら、暗黒面に陥ってしまう青年・小池徹平の存在。 小池は戸田とムロの幸せぶりに横恋慕し、戸田を自分のものにしてしまおうと画策する。 その演技があまりにリアルだったために、このドラマでそこはかとない含み笑いに満ちた純愛を堪能しようとしていた向きには、かなり邪魔者扱いされた。
 最終回ではそんな憎々しげだった彼が、記憶をなくして無邪気な子供に戻ってしまった姿が映し出される。 もちろん戸田とムロに犯した罪も、忘れていた。 それが見る側に、特別な感慨をもたらすことになる。

 「そもそも記憶とは、いったい何なのか」、という感慨だ。

 忘れることは普通、悲しいことのように思われがちだ。
 それは、大事な人との思い出、大事な場所の思い出、生きてる間に起きた世の中の出来事の思い出、そして生きている間に得た知識の数々が、徐々に失われていくからだ。
 それはこの世と自分と他人を結びつける、かけがえのない糸のようなもの。 自分自身がこの世に存在している意味、とも考えられる。
 それが失われていくことは、自分がこの世に生きている意味さえも失われることと、同義に捉えられる。 そのことが、悲しいのだ。

 けれども同時に、忘れるということは、嫌な記憶も自分の犯した罪さえも忘れる、ということだ。
 小池が演じた青年は、みんな忘れてしまう、という絶望から、どうせ全部忘れてしまうなら、自分の思った通りに生きてやれ、欲望のままに生きてやれ、という方向に舵を切ってしまった。
 彼は戸田やムロを苦しませることで、自らの絶望を共有してもらいたかったのかもしれない。 それが彼にとってこの世と自分をつなげる悲しい糸になっていたのかもしれない。

 私は時々考えるのだが、もし生まれ変わりというものがほんとうにあるとすれば、私たちは前世の大事な人、場所、出来事というものをみんな忘れてしまっている(たまに忘れてない人もいるらしいが)。 それってもしかすると、記憶というものは実は、人にとってそんなに重要なものではない、ということを意味しているのかもしれない。

 しかし同時に考えるのは、もしその記憶がその人にとってとても重要なのであれば、おそらく人はその重要な人のもとに生まれたい、と願うし、その重要な場所に生まれたい、と願うし、それが叶わなければ、現世でその人や場所に出会ったときに、強烈な郷愁や、懐かしさを覚えるはずだ、ということである。

 話を戻そう。 このドラマがほかの難病ものと一線を画していたもうひとつは、戸田の主治医であった松岡昌宏が、戸田の母親であった草刈民代と結ばれてしまう、というトンデモ展開だった(笑)。
 この展開がこのドラマにとって必要だったのかどうかは分からない(笑)が、あえて挙げるとすれば、この展開は今年なにかと大変だったTOKIOの松岡に対する救済だったのではないか、と(ハハ)。
 何しろこのドラマの松岡は、当初結婚予定だった戸田にあっさりフラれ、それでも真摯に患者として戸田に向き合い、こうしたドラマにありがちなエキセントリックな方向に向かうことなく、その生真面目さを貫き通した。 男である。 それがなんとも、今年起きた不祥事に対する松岡の毅然とした態度と相通じるものがあった。

 まあこれはさして重要ではないことだったが、このドラマがほかの難病ものと違った最後の一点は、戸田の病状の進行を、特に終盤かなり駆け足で省略しまくった、という点だ。

 それは確かに、松岡と草刈の話とか小池の話に時間を割いたせい、ともいえるが、このドラマは従来の難病ものにありがちだったセオリーをあえて避けた、とも考えられる。
 それを象徴していたように思えるのは、小説家であるムロが書いた 「彼女はいつも生き急いでいた」、という一節だ。
 戸田の今回の役は、とても冷静で鉄面皮のように見えるのに、実は心を許してしまうととても無邪気でコロコロとよく笑う、という性格設定だった。
 そんな表情豊かな彼女が、終盤2回くらいで急激に表情を失い、ぼーっとしている場面が増える。
 それが逆に、記憶を失うことの切迫感を見る側に訴えかけていた。

 最終回、失踪した戸田は、ムロに残した4Kのビデオカメラに、消えかけているムロ(役名がシンジだった)の記憶にすがるように、大きく動揺しながら叫ぶ。

 「シンジ、好きだよ…!」

 私はここしばらく、ドラマを見て泣くなんてことはすっかりなくなっていたのだが、この場面には泣けた。 おそらく展開がもっとゆっくりしていたら、この切迫感にここまで心を動かされることは、なかったはずだ。

 戸田は、来年10月からのNHK朝ドラのヒロインに抜擢されたらしい。 この演技力をもってすれば、その内容には大いに期待できるところだ。

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コメント

橋本様

 メリークリスマス!!

 お久しぶりです。むろさんの明るい演技が好きなおばさんです~。
 このドラマでは、とても真面目な優しい小説家でしたが、私は見てて少しくすぐったい感じでした。やっぱりひょうきんな室さんの方が好きかな。 なのでドラマもきちんと見たのは1話、2話と最後・・・後は、少しだけつまみ食いのように見てました(笑)
 
 途中で草刈さんと松岡さんが仲良しになってたのには「アッと驚く何とやら~」で、このドラマにそれ必要?と思いましたが、大石静さんの脚本であればありうる出来事かなと納得したりして。大石さん、普通の事だけじゃドラマはつまんないでしょと、いつか話してましたから。(大石さん、明るくて好きですけどね・・)
 
 主役の二人は演技派ですのでそれなり良かったと思いますし、最終回の戸田さんの表情はとてもあどけなく優しくて、「うまいな・・・」と、チョイ感動はしました。
 でも、なにしろ恋愛ドラマは苦手のおばさん、泣くこともなく、むろさんが小説を読んでる場面、以前見た映画「君に読む愛のうた」と言うのに似てるな~と思いながら見ていました。(映画はもう少し年配でしたが・・・)
 その上現実家のおばさんは、子育てを男一人でするのはチョー大変だよな~とか、本当にこんな男性いるのかな~?と思ってしまったわけで・・・ホント夢のない人間です・・(笑)。

 記憶と言うことで自分を分析すると、の年相応に、自分の記憶には全然自信がないおばさんです(笑)ただ、家族がアルツハイマーとか認知症とかになったら・・病気なので忘れていくのは仕方ないでしょうが、切ないですね・・・。忘れられた家族はやっぱり悲しいです。

 なんだかんだで「平成最後の~」のキャッチフレーズが多く聞かれます。
あわただしい年の瀬です。どうぞお身体ご自愛のほど・・・。

 平成天皇の先日のお言葉、感動して不覚にもウルっともらい泣きしたおばさんでした。

     よいお年をお迎えくださいませ。

おばさん 様
コメント下さり、ありがとうございます。

うーん、真面目に見てないと泣くまでにはなかなか至らないものですよね。
恋愛ドラマというのは、普通のドラマと違ってかなり絵空事の領域が強いジャンルだと思います。 だから私もそこら辺は差し引いて、あまり細かいところは考えずに、おおらかな気持ちで、ドラマに没入して見ている部分がありますね。

このドラマで話が甘い部分といえば、シンジが小説家としてあまりに簡単に、「大」のつく成功を収めてしまうところ。 そうしないと話がスムーズに進行しないんですけどね(笑)。 その小説の中身は一部劇中でかいつまんで紹介してましたけど、「そういうのって売れるの?」以前に、「小説としては出版社に持ち込んでも断られるでしょう」、というレベルだった気が(笑)。

まあ、あまりに出来がいい文章だと、「ドラマなんかで使うのはもったいない、実際に小説にしちゃうわ」、と大石さんは考えてしまうことでしょう(笑)。

どうせ死んで生まれ変わったら全部忘れて生まれてくるのだから、それが少し早まっただけ、と私なら思うでしょうか、家族が認知症になったら。
何しろ、どこか諦観が支配している近頃の私です。

天皇陛下の16分間のお言葉は、私も全編見てしまいました。 次の天皇陛下は、果たしてここまで国民に愛される天皇になるのかな、などと考えています。

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BOOKS

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    マーク・ルイソン: ザ・ビートルズ史 下
     1600ページも費やして、この上下巻はまだ彼らのデビューまでしか書かれていない。 3部作計6巻のうち2巻に過ぎないのだ。 なんと気の遠くなるような作業なのだろう。  本書はビートルズを語るうえで孤高の一作となるはずだ。 虚飾をすっかり剥ぎ取った、20世紀最大の奇跡に潜む真実が、これを読めば理解されるはずである(当ブログ紹介記事より抜粋)。 本書下巻では、1962年のレコードデビューまでが書かれています。

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    ポール・デュ・ノイヤー: ポール・マッカートニー 告白
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  • : レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]

    レコード・コレクターズ 2011年 07月号 [雑誌]
    全200ページ程度のボリュームのなかで、キャンディーズに関する特集記事は50ページ。 ただし、これが濃い。 全シングル曲、ほぼほとんどのアルバムの解説は当然として、彼女たちの芸能界における歴史から見た考察、コメディエンヌとしての彼女たち、DVD解説など多岐にわたり、キャンディーズが分析されています。 特に圧巻は、レア音源に関する記述。 ここまで調べている読み物には、個人的にはお目にかかったことはありません。 700円。

MUSIC

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド(スーパー・デラックス・エディション)(4CD+DVD+BD)
    ロック界、いや、すべてのポップミュージックにおけるアルバムの中で史上最高と称され、すでに世界文化遺産の域にまで達しているこのアルバム。 そのアルバムの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされます。 なかでもブッ飛ぶのがこのスーパースペシャルボックスセット。 CD4枚組であらたなリミックスのステレオ盤1枚、モノ盤1枚、初期テイク集が2枚、さらにブルーレイ1枚とDVD1枚で5.1サラウンド、ハイレゾ音源、ドキュメント映像 「メイキングオブサージェントペパーズ」 のデジタルリマスター等々、卒倒するようなラインナップです。 18、000円プラス税と値は張りますが、史上最高の名盤だからこそこれは買い。 5月26日の発売までに予約をしておけば、アマゾンならば値下がりした時に値段がそのあと高騰しても最安値で購入できます。 ビーファンならずとも、これは注目ですぞ!

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  • デイヴ・グルーシン&リー・リトナー -

    デイヴ・グルーシン&リー・リトナー: Two Worlds / Grusin & Ritenour
    NHK朝ドラ 「花子とアン」 で美人のスコット先生が夜な夜な歌い、チビはなチャンがすっかり覚えてしまったイギリス民謡、「ザ・ウォーター・イズ・ワイド(流れは広く)」。 このアルバムでルネ・フレミングが歌っていたのを思い出しました。 ルネのソプラノはけっして大袈裟でなく上品で、私のとてもお気に入りのソプラノ歌手ですね。 このアルバム自体は全体的にクラシックにギターのリー・リトナーが絡むフュージョンぽいものなのですが、故・黒田恭一サン評するところの、「大人が聴く音楽」。 胸を締め付けるような哀しみと、すべてを包み込むようないたわりに満ちていて、私の人生のなかでも最上位に位置する愛聴盤です。

  • 桜田淳子 -

    桜田淳子: ゴールデン☆ベスト 桜田淳子~シングル・コレクション
    彼女の活動期に発売されたシングルをすべて網羅したベスト盤。 確かに後年のものほど馴染みがありませんが、選曲漏れがないので、彼女の存在とは何だったのか自体に思いが至るベスト盤です。 音も楽器の音像がよくてなかなかいいマスタリングをしている気がします。 2600円程度で推移しています。

  • ザ・ビートルズ -

    ザ・ビートルズ: ザ・ビートルズBOX(限定生産品)(USBメモリ)
    パソコンにUSB端子があり(たいていついてると思います)、パソコンで音楽が聴ける環境をお持ちの人ならば、聴くことができます。 現在のテクノロジーで最もいい音質で聴ける、ビートルズの音楽です。 ただし国内版にもかかわらず、訳詞とか一切なし。 ジャケットもブックレットもパソコンデータ。 純粋に音楽だけ楽しみたい人向けです。 また、曲間にコンマ何秒かのブランクが入ります。 「アビイ・ロード」 のメドレーも同様です。 しかし、音はさすがに、すごい。 大きな音量であればある程、目の前にビートルズが迫ってくる勢いです。 ツヤが違います。

  • The Beatles -

    The Beatles: The Beatles [USB]
    こちら上記の海外版。 内容的には国内版とほぼ一緒なので、値段が安いこちらのほうがいいでしょう。

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